あっという間に骨だけになっていた

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先日解体した鹿の残骸を埋めたところに行ってみた。

そうして見つけたのが上の写真の骨だ。

ひとかけらの肉片も残さずに、寒々しい白さを曝している。

掘り返されているだろうとは思っていたけれど、まさかたった3日でここまで綺麗に食べつくされるとは思わなかった。

ここは熱帯雨林のただ中ではない。

歩けば5分足らずで市街地に出るようなところである。

人の生活圏のすぐそばで、貪欲な自然が息づいていることを実感した。

 

 

 

くくり罠に初めての獲物がかかった日

※動物の解体の写真が含まれます

 

空振りやニアミスを繰り返していたくくり罠に、ついに獲物がかかった。

くくり罠についてはこちらの記事を参照。

kaiteiclub.hatenablog.com

 

京都市内に珍しく雪が積もった日の朝、いつものように罠の見回りのために山に入った。木の上に積もった雪が朝日に照らされて融け、滑り落ちてばさばさと音を立てるので、森の中はいつもよりざわついているようだった。

罠の設置場所に近づくと、ここでもがさがさという音がしている。やはり雪だろうか?と思った。猟期が始まってからこちら、2ヶ月近くに渡って罠猟の空振りが続いていたせいで、罠の見回りをするとき「どうせ今日も空振りでしょ」と半分諦めたような気になってしまっていたのだ。

坂を越え、罠を仕掛けた場所が視界に入ってくる。直前までは、歩きながらいろいろな雑事に思いを巡らせていたのだけれど、眼前に現れた光景を見て、一瞬すべての思考が停止した。一頭の鹿が、前足と木の間にぴんと張ったワイヤーを外そうとしてもがいていたのだ。私が、自力で捕獲した獲物第1号と対面した瞬間だった。

 

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驚きで頭が真っ白になってから一拍おいて、すさまじい興奮と喜びがこみ上げてきた。ついに捕まえたんだ!雪が積もった山の中で、一人で思わずガッツポーズをとった。

ひとしきりの興奮が冷めると、目の前の現実を観察する余裕が出てきた。罠にかかっていたのは、若いオスの鹿だ。小さいながら立派な角も生えている。私が鹿に気づいたのとほぼ同時に、鹿もこちらの接近に気づいたようだった。ワイヤーを外そうとしてもがく動作を止め、障害物になりそうな低木の後ろに陣取ってじっとこちらを見つめている。

鹿の方を見つめたまま、ポケットからスマホを取り出した。その日一緒に出かける約束をしていた知人に、申し訳ないが行けなくなった由を手短に伝えた。これで、時間を気にせずに鹿の相手をすることができる。

 

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罠にかかった獲物にトドメをさす(”止め刺し”という)ために、手ごろな木棒を探す。草食動物とはいえ、相手は野生の獣だ。命の危険を感じれば何をしてくるかわからない。角も生えているし、力だって私より強いはずだ。必死で向かってこられたら、逆にこっちが串刺しにされてしまうかもしれない。

相手との十分な間合いを確保できるだけの長さと、硬さのある棒がいいだろう。しかし、条件に合う棒がそうそう落ちているわけはない。もたもたしている間にワイヤーが切れてしまうのではないか...はやる気持ち抑えながらしばし周囲を探し回り、なんとか使えそうな棒を見つけることができた。

棒をもって、鹿にじりじりとにじり寄る。じっとしていろよ、というこちらの思いとは裏腹に、当然なのだが、鹿はワイヤーの長さが許す範囲の中を目一杯逃げ回る。彼も、こちらが何をする気でいるのか薄々気づいているのかもしれない。それでも、数回の空振りの後、渾身の力を込めて振り下ろした棒が鹿の頭部命中した。やった!勝負がつくかと思われたが、棒は鹿の角に当たってあっさりと折れてしまった。芯が腐っていたのだ。冷静になるため、いったん鹿から離れて作戦を練ることにした。

闇雲に追いかけても、いつまで経っても決定打を与えることができない。鹿の動きをできるだけ封じたところに、狙いすました強力な一撃を加えなくてはならないのだ。そのためには、まず、きちんとした武器を見つけなければならない。目についた、程よい太さと長さで丈夫そうに見える棒を拾い上げ、片端からその辺に落ちている岩にたたきつけてみる。地面に落ちているだけあって、大方の棒は腐ってもろくなっているため、あっさりと砕けてしまうのだが、繰り返すうちに使えそうな硬さの棒を数本確保できた。その中から瘤のように膨らんでいて打撃力の高そうなものを選ぶ。これで武器は十分だろう。

次は鹿の動きを封じる方法だ。先輩猟師は、ロデオボーイのように投げ縄を鹿の首や角にかけ、罠の端を適当な木に結んでしまうことで自由を奪うのだといっていたが、あいにく使えそうな縄の持ち合わせがなかった。そこで、棒で小突いて鹿を追い立て、罠のそばの障害物になる低木にワイヤーが絡まるよう誘導することにした。先ほどの立ち合いで鹿が積極的にこちらに向かってくることはなかったから、逃げる方向をコントロールしてワイヤーを絡ませることができないかと思ったのだ。

再び鹿ににじり寄る。棒の先端で尻のあたりを叩いてやる。やはり、向かってはこない。全ての鹿が人を攻撃してこないとはとても言えないが、この鹿に関して言えば攻撃的ではないようだ。障害物の周りを2,3度往き来したところで、鹿が膝を折ってへたり込んだ。罠を仕掛けていたところはもともと足場が悪く、目論見通り絡まって短くなったワイヤーに前足をとられ、転倒しそうになったのだ。千載一遇のチャンスだ。ある程度の危険を承知で鹿に近づき、首筋に狙いをすまして渾身の力で棒を振り下ろす。今度こそ、棒は鹿の後頭部にするすると吸い込まれていく。

ドサッと地面に倒れたのも束の間、鹿はその首を天の方向に仰け反らせて「ピヒイ!」という鳴き声を上げた。まったく予期していない大声だったので、一瞬凍りついてしまった。正真正銘の、断末魔の叫びだ。まさか仲間を呼ぶわけではあるまいし、「もう死ぬな」と悟った瞬間に大声を上げることにどういう意味があるのかはわからない。しかし、口から血の泡を垂らしながら鳴き声を絞り出すその姿に、鹿とてやはり生きることへの執着があるのだな、という当たり前の感慨が頭を掠めた。それから、棒をさらに2,3回振り下ろした。

 

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失神した鹿に恐る恐る近づき、そっと毛皮に触れてみる。あまりじっくりとは観察していられない。甦生して暴れる前にトドメをささなければならないからだ。ナイフを首に突き立て、気管や動脈が通った喉を一気に切断する。昏倒しているとはいえ心臓はまだ動いているので、切り口からは強烈な勢いで熱い血が噴き出し、雪を融かして地面に滲みこんでいく。

これも、いつか自分で獲物を処理するときのためにと、先輩猟師が教えてくれたやり方だ。しとめた獲物はできるだけ早く動脈を切断して血抜きをしなければ、血生臭くてとても食べられない肉になってしまう。獲物を捕まえた後の処理も、猟師の腕の見せ所なのだ。

 

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罠を踏んだ前足を見てみる。硬いひづめに引っかかって、ワイヤーが抜けなくなっていた。ばねを緩めない限り、人間の手を使っても外すことは難しいだろう。

 

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地面が平らになっているところまで鹿を引きずって移動した。解体を始める前に、しばし観察する。角の先が二股になっているので、満2歳になりたての鹿だろうか。毛並みや、すらっとした脚の美しさに惚れ惚れとさせられるような、良い鹿だ。

 

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雪が積もっていたのは非常に運がよかった。地面に肉を置いても、土がつかないからだ。自宅に解体設備を用意し、獲物を持ち帰って解体できるようにするのが一番よいのだが。

腹を割き、内臓を引っ張りして、代わりに手を入れてみる。寒さでかじかんでいた手がきりきりとほぐれていくのがわかる。

 

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取れるだけの肉を取り去ると、頭部と脊髄、あばら骨だけが残った。一瞬、持ち帰って全身骨格標本に...という思いがよぎる。鹿の全身骨格標本、そんな立派なものが作れたら、どんなに楽しいだろう。

逡巡したが、持ち帰るのはさすがに無理だという結論に達した。こんなものを持って下山したら、家にたどり着く前に補導されてしまうだろう。地面に適当なサイズの穴を掘って、埋めてしまう。

実は、解体が終盤に差し掛かる頃には頭上がかなり騒がしくなっていた。雪の上に浮かんだ赤色を目ざとく見つけたカラスや猛禽たちが、とっとと立ち去れと言わんばかりに私の頭上を旋回しはじめたからだ。私がいなくなれば、彼らはすぐに下りてきて残滓を掘り起こして食べ始めるだろう。夜になれば狸や狐も来るに違いない。

 

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剥がした皮の方も、泣く泣く同じように埋めてしまう。いずれは皮なめしにも挑戦したい。

 

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帰宅して肉を骨から外し、ラッピングしたところ。1頭の鹿からは、文字通り山のような量の肉が取れる。解体に4時間、精肉に2時間ほどかかっただろうか。作業を終えた頃には疲労の色も強かったが、目の前に山積みになった1日の労働の成果を見ると、それ以上に強い満足感を覚えた。同じ量の肉を手に入れるのでも、お金を払って買ったのでは、これほどの達成感や喜びは得られなかっただろう。

さて、この肉をどうやって食べよう。一人では食べ切れそうもないから、友達に分けてあげてもいいな。そんなことを考えながら、シャワーで疲れた体を洗い流し、床に就いた。

「狩猟をやっていてよかった」

心からそう思った。

 

 

 

たぬきのウンチ

たぬきには、ため糞といって毎回決まった場所で糞をする習性がある。

先日山を歩いていて、このため糞場を初めて発見した。

いろいろな色や形の糞がこんもりと盛られていて、中には木の実の種や皮が消化しきれずにそのまま輩出されたものもある。その種類は多様だ。たぬき氏、なかなかバリエーションに富んだ食生活を送っておられるようだが、中には輪ゴムが混じっているものもあり、あまりがっついちゃいけないよと心配にもなった。

 

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新年とモリアオガエル

あけましておめでとうございます。

 

正月は元旦こそ家でダラダラと過ごしていたけれど、やはりしばらくすると山のことが気になってそわそわし始めるもの。そこで、新年から場所を変えてくくり罠を再設置するために山に入っていた。山の様子は去年の暮れと何も変わっていないはずなのに、木々も鳥の声もなんとなく装いを新たにしたように感じられるのだった。山道に設置されたお地蔵様も、いつもより綺麗に掃除されているようだ。

さて、鹿が通ったと思しき獣道に、罠を設置するための穴を掘っていると、土の中から緑色の塊がポロリンと出てきた。

 

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ソラマメだろうか?

 

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いいや、冬眠中のモリアオガエルだ!

 

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緑色の肌に金色の目が光っていて綺麗だ。冬眠中なので、手の上に載せてもまったく逃げようとしない。

 

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思わぬ出会いについはしゃいでしまったけれど、こんな寒い中をたたき起こされてカエルにしたらいい迷惑だろう。体をギュッと縮めて寒さに耐えているようにも見えるし。寒い外気にさらしすぎると死んでしまうかもしれないので、急いで穴を掘って埋め戻した。

カエルには申し訳ないことをしたが、幸先よく正月から面白いものに出会って大満足だ。

今年もよい一年でありますように。

 

 

 

くくり罠(空振り&ニアミス)

銃を使った猟はまとまった時間のとれる土日しかできないので、同時並行で獣道に罠を使った狩猟もやっている。獲物が罠にかかっているかどうかの見回りは早起きすれば平日でも可能だし、なにより銃猟以上に獣道の探索や獲物の行動を読むことが必要になってくるので、自然を相手に駆け引きをしているようで非常に面白いのだ。

 

くくり罠

くくり罠というのは、ワイヤーで作った輪を地面に埋め、上を通った獲物の足首を縛り上げるタイプのわなの総称だ。獲物が罠を踏むことで作動するものが多いが、その方式にはいくつかのタイプがある。

私が使っているのは跳ね上げ式というタイプのくくり罠だ。獲物が罠を踏む力がワイヤーを保持したアームを持ち上げる動作に変換され、足首をくくり上げるためのワイヤーが跳ね上げられることからこの名前がついている。設置のために深く大きい穴を掘る必要がないので土を掘り返した匂いで獲物にわなの存在を気づかれにくいのが利点だ。

今のところ市販のものを購入して使っているけれど、一つ5000円と高価なので、自作を試みているところだ。

 

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真ん中の板を踏むと左右に開いたアームがもち上がる。

 

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ワイヤーをセットした状態。

獲物が板を踏むとアームが上がってきてワイヤーが外れ、ばねの力が解放されて獲物の足首をくくり上げる仕組みだ。

 

罠を設置してから2週間ほどたったが、残念ながらまだ捕獲にはいたっていない。罠のそばを獲物が通っていることは足跡などを見るに間違いないから、獣道を読むところまではうまくできているはずなのだけれど、すんでのところでうまく逃げられてしまうのだ。最近あった悔恨の2例を紹介しておく。

 

空振り

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獲物が罠を踏んで、罠が作動したにも関わらず、逃げられてしまった。

ワイヤーが足首を縛り上げるよりも一瞬早く、獲物が足を引いたのだろう。反射神経の敏感な優秀な獲物だったのかもしれないが、罠の露見を恐れるあまり上にかぶせる土の量を増やしすぎたことで、ワイヤーの動きが鈍っってしまった可能性もある。

 

ニアミス

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罠を生めた場所のすぐ真横に獲物の足跡が残っていた。運が悪かったといえばそれまでだけれど、罠の名人になると木の枝や石などの障害物をたくみに設置して、鹿が足を下ろす場所を輪なの上に誘導したりできるそうである。

 

とまあ、今のところ獣の方が私より上手であることは間違いない。

設置の方法を試行錯誤しつつ、自作して罠の数を増やそうと思う。

 

 

 

天然ナメコ、ふたたびあらわる

猟場を歩いていて見つけるのは、動物だけではない。

獲物が残したわずかな痕跡も見逃さないぞ!という気概で回りを見ながら歩いているから、思わぬ掘り出し物を見つけることもあるのだ。

そういうわけで、去年は見つけたときにはかぴかぴに乾燥していて食べられなかったナメコだけれど

 

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今年はばっちりの状態のものを見つけて、採集することができた!

 

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最初は一本の木にほんの数本が生えているだけだったので素通りしていたのだけれど、山道を進むにつれて木の表面を覆うようにびっしりとナメコが生えているのが散見されるようになった。知らないうちにナメコの群生地に迷い込んでいたのだ。

 

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ナイフを使って、夢中になってほじくり出す。

 

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 持ち帰って水洗いしたところ。

 

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さっと湯通しして大根おろしと醤油で和えたり

 

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 鶏肉、小松菜と一緒に炒めてそばにのせたりして食べた。

肝心のお味は...歯ごたえがよく、香りも強くて最高に美味しかった!

小ぶりのものよりも、大きく成長して傘が開いたものの方が味も香りも強かった。サイズがばらばらな天然物ならではの発見である。

このナメコをとったときは、肝心の獲物は何一つとれなかったんだけど、こんなに美味しいものが手に入るならそれだけで山に入った甲斐があるというものだ。

 

なお冒頭の記事の中でナメコは梅雨時と秋のキノコであるなどという大嘘を書いているけれど、雪が降ったあとも普通に見られるキノコです。ごめんなさい、無知だったんです...。