サメが釣れないから、代わりにナマコを拾って食べた話

北海道に行ったといいつつ、沖縄の話で恐縮である。

 

川でサメを釣る

プレコを捕りに沖縄まで行って、見事その目的を達成した。

やるべきことはやったわけだから、もう帰ってしまってもよかったのだが、せっかくここまできてわずか3日で帰るのはもったいない。なにか他に面白いことはないかなあと、那覇市内を流れる安里川の脇を散歩していたところ、信じられない光景を目にした。

1mくらいある大きな白いサメが泳いでいるのだ、川の中を。

調べてみると、安里川にはオオメジロザメというサメが、満潮の時刻になると海から遡上してくるというのだ。確かに、満潮の安里川はまったくと言っていいほど流れがなく、ビニールゴミが上流に向かって流れて行くのを見たことがあるほどだ。目と鼻の先にある海から、海水とともにサメが上がってきても不思議ではないのかもしれない。それにしても、1m以上あるものサメが川を泳いでいるとは驚いたものである。

まさに「犬も歩けば棒にあたる」。次にやることが決まった。そのサメを釣り上げてやるのだ。

 

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「あ!サメだ!」と思ってカメラを向けたのだが、あとで見たら何も写っていなかった。悲しい。

 

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がっちりと歯型がついた魚が流れてきた。 

 

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まずは大型魚用の針や糸を買うために釣具屋に行った。

店主に欲しいものを伝えると、

「サメを釣るの?物好きだねえ」

といって、特大の針と太い釣り糸を用意してくれた。サメは大きい上に歯がとても鋭いので、生半可な糸だとあっさり噛み切られてしまうそうだ。餌は付近スーパーで買ったサンマ。深夜の川に糸を下ろし、珍しそうに話しかけてくる人たちと歓談しつつ、サメが食いつくのを待った。

 

 

釣れなかった

結果として、サメは釣れなかった。

現地で話を聞いた釣り人曰く、サメは真夏の方が連れやすいとのことだったので、時季をあわせてリベンジすることにした。

さて、ここからが本番である。せっかくの遠征を「サメが釣れなかった」という残念エピソードで締めくくるのは嫌だったので、磯で簡単に捕獲できるナマコを拾って食べることにした。

 

ナマコを拾う

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こんな感じの磯を

 

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干潮の時間帯に訪れれば、あっさり見つけることができる。

今回はクロナマコという種類のナマコを持って帰ることにした。

さて、実はこのクロナマコ、その名の通り真っ黒なボディをもつナマコなのだが、同じように黒いニセクロナマコなるナマコが存在する。そして、クロナマコは食べられるのだが、ニセクロナマコは毒があって食べられないらしいのである。

見分け方はこうである。

 

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まず手ごろな棒切れを見つけて、ナマコをつつく。

 

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すると、驚いたニセクロナマコは素麺のような白い糸の束を吐き出す。これはキュビエ器官と呼ばれるもので、外敵をびっくりさせたり、絡まって動けなくすることで、捕食を断念させるための防衛器官である。このキュビエ器官は、クロナマコにはない。だから、黒いナマコを見つけたら、いじめてキュビエ器官を出すかどうか観察すれば、毒の有無がわかる。

おもしろいのは、個体によってはよほどしつこく攻撃されないとキュビエ器官を出さない怠け者もいるということだ。怠惰なニセクロナマコのせいで疑心暗鬼にかられた我々は、

「瀕死になるまでつついてみて、それでもキュビエ器官を出さなければ、無害なクロナマコ」

という、まるで魔女裁判のようなナマコ判別に励んだ。

 

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そうして捕獲したクロナマコ。つつきすぎて背面が白っぽくなっている。

 

調理する

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表面のぬめりを落としたあと、両端を切断し、切り開いて内臓などを除去する。そこからは適当な大きさに切り分けて、生食するなり焼いて食べるなりすればよいだけである。

 

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ポン酢で和えた酢ナマコ

 

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 オクラや唐辛子と一緒に炒め物に

 

調理中はナマコから立ち上がる磯の香りが思いのほか強く、おいおいこれ大丈夫かよという感じだったのだが、料理になるにつれて気にならない程度に収まっていった。どちらの料理も美味しいのだが、炒めたナマコは水分がとんで貝のようなこりこりとした食感になってしまったので、ナマコ特有の感触を味わいたいならやはり生食がいいのかなと思った。

 

 

 

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北海道に行ってました

2週間ほど北海道をぶらついてきた。

 

道中で出会った素敵なものたちを読者にも見てもらいたいのだが、さすがに2週間分ともなると全てを書き出すのは大変なので、気の向いたところをちょくちょくとピックアップして記事にしていきたいと思う。

 

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▲これは小樽で見たウミネコ。遠くからこちらの様子を伺うものもいれば、手を伸ばせば触れられそうなところまで近づいても逃げないやつもいて、警戒心の個体差が本当に猫のようだと思った

 

2週間というのは旅行期間としてなかなか非常識な部類に入るようで、あちこちで話す人たちに驚かれてしまった。しかし、北海道の大地は広大で、移動するのにいちいち時間がかかるため、道内のあちらこちらをぶらぶらしようとすると、いくら時間があっても足りないのである。

今回道内で訪れた場所を順番に書き出すと、

千歳→ニセコ→小樽→札幌→北見→知床→十勝→旭川→千歳

となり、よくもまあこれだけ走り回ったもんだと自分でも感心するくらいだ。

旅程の長さは、気持ちのありようにも影響してくる。旅先での振舞いが生活観を帯びてきて、逆に日常生活で普段の自分がどう生活していたかを忘れ始めるからだ。その普段の生活から心が離脱していく感じが大変心地よく、だから私は長旅が好きである。

 

 

 

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とにかく大きなグミが食べたくて、自分で作ってみた

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グミが好きだ。

甘いくせに、妙な弾力があって、口にした者の顎を疲れさせるあの迂遠な感じが好きだ。

スナック菓子などは、歯にまとわりつくタイプのものはあまり好まないのだけれど、グミであればそのネチネチとした粘着質な食感をも愛してしまえるほどだ。

以前テレビで、プリンが大好きな人の「バスタブ一杯のプリンの中にダイブしたい」という夢を実現してあげるという番組を見たことがある(その人は、大量のプリンを無駄にしてしまう決心がつかず実行直前に棄権、完成した巨大プリンは関係者全員で分け合って食べることになったようだった)。

私も、グミでできたベッドで昼寝したいとまでは言わないけれど、口いっぱいにグミを頬張ったらどうなるんだろうという、危ない疑問を抱いてきた。しかし、これはなかなか実現困難なことだ。市販のグミは、大きいものでも精々親指の先ほどの大きさのものしか見たことがなかったからである。あれは、食べた人が喉に詰まらせることを警戒した予防措置なのだろう。

しかしながら、最近自宅で桜餅を自作しているときに思いついた。巨大なグミが売っていないのなら、自分で作ってしまえばいいのだ。桜餅と同じように。

 

グミの作り方

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調べてみると、グミを作る工程は極めて簡単であることがわかった。

思いついてから家庭でのグミの製法を知るまでにかかった時間は10秒以下、本当にいい時代だ。

 

グミの材料は

  • ジュース(なんでも好きなものを使っていい。ここではリンゴとブドウ) 120cc
  • ゼラチン 10g
  • 水飴 大匙2

まず耐熱容器にジュースと粉末ゼラチンを入れ、電子レンジで加熱する。電子レンジから取り出した液に水飴を加え、アツアツのままよくかき混ぜてゼラチンを溶かす。

念のためもう一度レンジで加熱して、型に液を流し込み、冷蔵庫に入れて固まるまで待つ。

これだけである。

 

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で、実際に作ってみた。

せっかくだから大中小の3種類を作ることにした。

一番大きなものは汁椀、真ん中がグラス(容積は汁椀の3分の1くらい)、一番小さいものはショットグラスに入れて固めた。

 

約3時間後、指で押してみてブニブニという弾力があるようなので、冷蔵庫から取り出した。予想以上に早く固まったので驚いた。

竹串をグミと容器の間に差し込んで、慎重にはがしてやる。なにせ大きいものだから、容器から出すときにパックリと割れてしまったらどうしようかと思っていたのだが、グミらしい粘りを見せて、無事に完全な形ででてきてくれた。こいつはゼリーではなく、れっきとしたグミなのだと実感した。

 

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 形のせいでゼリーっぽく見えるが、こいつは間違いなくグミだ! 

 

完成したグミを食べる

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堂々と居並ぶグミの三兄弟。

3つ並べてみると、大きさの違いがよくわかる。完成してから気づいたのだが、すでに中サイズでも一口で食べるのは無理である。

 

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一番小さいやつから食べよう。こいつはたいした大きさではないので、無理せずとも一口で食べられる。

口に入れて歯を立てると、ザリュッというゼリーのような歯ごたえがあり、それからネチネチと歯にまとわりつく感じが一歩遅れてやってきた。うん、少し水分が多くてネチネチが物足りない感じもするが、これは間違いなくグミの食感だ。グミの自作に成功したのだ!

次は自作した梅シロップのグミを作ってみようとか、酒を使った大人のグミを作ってみた歯どうだろうとか、いろいろなアイデアが浮かんでくる。自作はほんとうに、いろいろな楽しみを与えてくれるのだ。

 

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次は中サイズ。

こいつは一口では食べられない。口を大きく開けて、目一杯頬張る。 

 

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この形、めちゃくちゃ食べにくい。顎が外れなきゃいいけどと心配しながら、口を大きく開けてグミにかじりつく。ガブリ。ムチムチとしたゼラチンに分け入って行く感触が歯に伝わってくる。そうして、口はグミで満たされた。あとは咀嚼するだけである。

 

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噛む。

余談だが、グミは柔らかい食べ物が増え子供たちの噛む力や口内の健康が損なわれることを危惧した、ドイツのハンス・リーゲル(Hans Riegel)という人が発明したらしい。彼は後に自分の名前の頭文字を入れた製菓会社を立ち上げた。かの有名なHARIBOである。

余談の間も噛む。

とにかく噛む。

 

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噛む...。

なんだろう。口に入れた瞬間こそ、期待と喜びに満ち満ちていたのだが、噛んでいる時間が長すぎてだんだん飽きてきた。早く飲み込んでしまいたいのだが、よく噛まないうちに飲むことはそれ即ち窒息に繋がりそうで、そんなことは怖くてできない。

大変残念なことだが、口一杯にグミを頬張っても、とりあえず想像していたほどの多幸感がないことははっきりしてしまった。 口に入れてから、飲み込むまでの間がもたないのである。

これ以上大きなグミを追い詰めるようなことを書きたくないのだが、実を言うと、味や食感の点でも、小さいグミの方が勝っていた。

大きくしたことで独特のゼラチン臭がきつくなった。さらに、歯がブニッとしたグミの断面を受け止め、そこに割って入るときの感触はグミの大きな魅力だが、口を思い切り開いた状態で噛み付いても、そのような繊細な感覚はほとんど味わえないのだ。むしろ顎の筋を傷めそうですらある。

食べ物には、その魅力を最大限引き出すための、適切なサイズや形があるのだということが痛いほどわかった。

 

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最後に一番大きいやつを食べる。

中サイズのグミを食べた今となっては、こいつの立ち位置が微妙になってしまったけれど、作った以上食べてやらなければならない。

 

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両手で持って食べるグミ。

グミを通り過ぎた光が、口元に黄色い波を描いていて、なんだか黄金色の涎を垂らしながらものを食べているように見える。鏡餅のような扁平な形なので、先の中サイズのものよりもずっと口に入れやすいのがせめてもの救いである。

食べてみた感想は中サイズの時と変わらない。いや、なまじ大きくなったことでゼラチン臭が一層きつくなったり、そもそも糖分のとり過ぎで食欲が失せてきていたこともあり、ほんの一口二口食べただけで見るのも嫌になってしまった。

すまない巨大グミよ。せっかく作ったのに、お前の良いところを見つけて上げられなくて。

あえて言うなら

 

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光を透かして見ると

 

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金色に光って綺麗だったり

 

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10年以上前に歯医者で歯形をとられて以来初めて、自分の詳細な歯形を観察できたことが、収穫と言えば収穫だろうか。

 

まとめ

グミは市販品のサイズが適正。

 

 

 

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ベストショット「交尾するハンミョウ」

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ハンミョウという虫は、こちらが近づくと飛んで少し離れたところに逃げる、また近づくと逃げるの繰り返しで、なかなか捕まえたり観察したりできないのだが、さすがに交尾中は飛翔することができないようだ。

沖縄で川のほとりを散歩していたとき、一心不乱に励んでいるハンミョウのカップルを偶然発見したので、ここぞとばかりにじっくり観察と撮影をしてやった。

初夏の正午の日差しに照らされてキラキラと輝く姿が綺麗なのは当たり前だけれど、衝撃的なのはオスの牙の使い方だ。メスの背中をがっちりと咥えて、目的を果たすまでは死んでも離さないぞという強い意思を感じて、「肉食昆虫だけあってあっちも肉食系なのね」という下品な感想を抱いてしまった。

 

 

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プレコことマダラロリカリアを捕るために沖縄まで行ってきた

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沖縄の河川では、人の手で放流された南米原産のプレコことマダラロリカリアという熱帯魚がうじゃうじゃ生息している。しかも、こいつらは鎧のような防御力の高い鱗にかまけて、敵がきてもちっとも逃げようとしないから、手掴みで簡単に捕獲できる。そんな心躍るようなわくわくする話を聞いたので、さっそく捕りに行ってきた。

 

安里川を散策する

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沖縄本島一の観光スポットである那覇国際通りの、そのすぐ脇を流れる安里川。那覇空港発のモノレールの駅を出て、そのすぐ目の前を流れる川である。

こんな街中の川に魚なんているの?という気がしそうなものだが、熱帯の川の包容力を侮ってはいけない。ちょっと川面を観察しただけで、大小の魚が泳いでいるのを見ることができる。

事前に情報収集をして、沖縄本島の南部の河川にはほぼ例外なくプレコが生息していることはわかっていたので、この安里川にも間違いなく彼らはいるはずだ。

プレコは藻などを食べるために水底にへばりついているので、水深のあるところでは目視で探し出すことはできない。なので、ここよりも水量が少なく浅い上流を目指しつつ、プレコを探すことにした。

 

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1本目の橋から下を覗き込むと、流れに逆らって泳ぐオオウナギがいた。

1m以上あるウナギが、真昼間にその大きな体を隠すでもなく普通に泳いでいるんだから、やっぱり沖縄は違うなあと、非常に興奮した。

 

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次の場所ではミシシッピアカミミガメミドリガメ)もいた。こいつはほんと、どこにでもいる。

 

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プレコと同じく外来魚であるティラピアや、国内移入種のコイは、それこそいくらでも泳いでいる。しかもかなり大きい。でかい魚がうじゃうじゃ泳いでいるのを見て、ここでもはしゃいでしまう。

が、である。肝心のプレコがいないのだ。事前に調べたところでは、これと言った天敵のいないプレコは沖縄の川で大繁殖しているという話だったはずだ。それこそカメも泳げばプレコに当たるくらいの密度でいるはずだったのだけれど、1時間以上探しても1匹も見つからないのはどういうことだろう。

そろそろ日が傾いてきた。今日はもうだめかな、と思いつつも、あと少しだけあと少しだけと、往生際悪く川を遡上する。そして、ある橋の上から、川に水路が合流して少し水深が深くなっているところを観察していたときだった。

 

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いた(中央に写っている魚がそれ)。

双眼鏡で観察して、特徴的なマダラ模様が見えたときには、喜びと興奮のあまり周りに人通りがあるのも憚らず「いたいた!」と叫んでしまった。

たった1匹だけれど、プレコは間違いなくそこにいた。事前情報ほど大量ではないが、生息していると言うのは間違いではなかったのだ。わざわざ沖縄まで来た甲斐があった。

 

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あとは網ですくうだか手づかみだかで捕獲するだけなのだが、ここで二の足を踏んでしまった。

そろそろ日が沈みそうだとか、護岸工事されていて水面まで下りるのが大変だとかいうのも確かにある。しかし、それは一番の理由ではない。これは安里川に到着した瞬間から気になっていたことなのだが、川が汚いのである。

プレコを見つけた場所にしてからが、脇の水路からは真っ白に濁った生活廃水がドボドボと流入していて、橋の上からでも人工的な芳香の混じった汚臭がかすかに嗅ぎ取れるほどである。

それでも、私は川に下りた。ひょっとしたらプレコの生息数は言われているよりもずっと少なくて、この機会を逃したらもう会えないんじゃないかと危惧したからだ。

臭い水に膝下まで浸かりながら、ゆっくりとプレコに近づく。と、プレコはこちらの気配を察して、瞬く間に逃げてしまった。

「おい!警戒心がないんとちがったんかい!」

事前情報と違う俊敏な動きになすすべもなく立ち尽くした。プレコの逃げ込んだ先は水が相当に深くなっているところで、さすがにそこまで追いかけるのは嫌だった。

コンクリート壁をよじ登ると、地元住民が何をしているのかと話しかけてきた。

「プレコという魚を探しているのです。うまく捕れたら食べようと思いまして」

と言うと、

「変わった魚がいるのね。でもこんな汚い川の魚は食べないほうがいいよ」

と言って、行ってしまった。

 

もうちょっと綺麗そうな川にやってきた

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都市部はプレコの数も少なく、よしんば捕獲に成功してもあまり食べる気にならない。

前日の体験からそう痛感したので、翌日は郊外を流れる別の川に捜索に出た。こちらの川はあからさまな生活廃水の臭いはしないし、護岸工事もされていないので安里川に比べれば楽に川に入れそうだったからだ。(ただし、川岸の藪には蛇がいるかもしれないので、それなりに安全に川に入れる場所を探す必要はあった)

見つからなかったらどうしようというこちらの心配をよそに、なんと水に入って30秒ほどで、1匹目がへばりついているのを見つけてしまった。

 

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田舎のプレコは、近づいても逃げない。都会のプレコと違ってスレていないのだろう。

 

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頭のあたりを静かに手でつかんで...

 

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あっさり捕獲に成功!うわっ!簡単!

そこからはお祭りだった。よく見ると、プレコがそこら中にいるのである。しかも、近づいてもほとんど逃げようとしないのだ。手でつかんで、水から引き上げられると、尾を振って抵抗らしいことをするのだが、時すでに遅しである。

 

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両手にプレコ。

 

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この下向きについた口で、川底の藻を食べる。サイドについているヒゲが、ナマズらしさの名残である。

 

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地面に並べてみて、アブノーマルなその外見に見入ってしまった。ヒレが大きくてとてもかっこいい。そして何より驚くのは、釘が打てそうなほどカッチカチの鱗である。防御力に絶対の自信があるから、敵が近づいてきてもほとんど逃げないのだろう。

濁った川では特徴的なマダラ模様が迷彩効果を生むので、目が慣れないと近くにいてもなかなか気づかなかった。

 

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あっという間に4匹捕まえた。その気になればいくらでも捕れたのだが、持ち帰るのも大変だしたくさんはいらないので引き上げることに。

 

料理して食べる

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宿にもって帰ると、一躍大人気に。観光客も現地住人も、みんなしてこんな魚は見たことがないと言っていた。

 

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まな板の上のプレコを

 

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捌く!ここにきて急に激しく動いたりして抵抗を試みるが、もう遅いのである。「暴れるタイミングを間違ってるよ、君たち」と言ってあげたい気分だ。ていうか水揚げしてから1時間以上たってるのに、まだ生きてたのね。

捌き方としては、まず比較的柔らかい腹側の適当な場所に切れ目を入れて、そこから厚くて固い装甲のような鱗をはがしていく。背側の鱗は本当に固くてとても断ち切ることはできないため、鱗と肉の間に刃を入れて少しずつ引き剥がすようにした。

実際には包丁よりもキッチンバサミを多用した。

 

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で、取れた肉がこれ。装甲が厚いので、必然的に肉の部分は着痩せして少なくなる。

 

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装甲は固いだけではない。その表面には細かい棘がびっしりと生えていて、ヤスリのようになっているのだ。おかげで、プレコと格闘したあとの指先はこの通りボロボロである。

 

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装甲を脱がしてしまえば、あとは普通の魚と同じ。ナマズの仲間ということで、臭みを警戒してスープカレーにしてみた。

 

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うん、プルプルしてていける!

臭いはほとんどしなくて、非常にタンパクな白身魚だ。あえて言うなら、ゼラチン質が多いのが特徴だろうか。

 

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二品目を作る。もう一度この装甲と格闘するのは骨が折れるので、皮をつけたまま強引に丸焼きにしてやることに。

 

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腹の切れ目から内臓をとり、代わりにネギ、生姜、胡椒、ごま油、白ワインをあわせたものをたっぷりと詰める。カレーほどの臭み消しの効能は望めず、プレコそのものの味を味わうことになりそうだが、どうなるだろうか。

 

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オーブンに入れ、250℃で20分くらい焼く。

 

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『プレコの香草丸焼き』完成!

なんだか、グレーでマットな感じになった。

 

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シューシューと音をたてるプレコの殻を、包丁の背で恐る恐る叩き割ってみる。

するとどうだろう。生の時はあれほどの固さと粘りとで我々を苦しめた殻が、加熱によってすっかり脆くなって、バリバリと破れていくではないか。

肝心の味はどうだろう。驚いたことに、これが非常に美味しいのだ。厚い殻が香りや水分を閉じ込める役割を果たしてくれたようで、香草の香りが、ゼラチン多目のしっとりとした白身全体にふんわりとゆきわたっているのだ。

調理の楽さと、見た目のインパクトと、味の良さをどれも満たしてくれる、プレコにぴったりの料理法である。

 

まとめ

どこにでもたくさんいる、と言うわけではないが、沖縄の河川には確かに外来魚のプレコが生息していた。そして実際に触ってみて、彼らが着ている鎧の固さに驚いたし、これなら天敵がいなくて落ち着き払っているのも当然だと思った。プレコの側からすれば、向かうところ敵なしと思っていたのが、突然手先が器用なサルにつかまってしまって驚いたに違いない。

プレコは簡単に捕獲できて(ただし捌くのはすごくたいへん)、味も良い。そしてなにより見た目がかっこいい。この魚が沖縄に定着したのは、飼育しきれなくなって野に放った不届き者のおかげなわけだが、非常に魅力的な魚なので飼育したくなる気持ちはわかる。次に沖縄に行くときには、また捕まえたいと思う。私が、彼らの天敵なのだ。

 

 

 

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食べた後はとりあえず骨をとる

カミツキガメの骨を回収した。

骨を煮て、余分な肉や脂を洗い流す作業は、流し台でやると長時間中腰になることを強いられるため、大変に面倒である。やりたくないことを先延ばしにすることに定評のある私だが、放っておくと腐ったり虫が湧いたりする今回のようなケースでは、とっとと済ませてしまわざるを得ない。

 

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骨をとってみて驚いたことには、骨と骨の継ぎ目がとにかく脆い。手で持って持ち上げただけで、重力に負けてぽろぽろと分解されてしまうのだ。頭蓋骨からして、こんな感じでばらばらである。

スッポンの骨はもっとしっかりしていたぞ!と叱咤してやりたい気分だ。

組み立てるのには難儀しそうである。

 

 

 

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3日粘った末に印旛沼でカミツキガメを捕まえて、食べた話

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読者はカミツキガメというカメを知っているだろうか?

主に北アメリカを原産とするこのカメは、モンスターのような雄雄しい外見のおかげでペットとして人気を博したが、現在では特定外来生物に指定されて販売はおろか無許可の飼育さえも禁止されている。

他の元ペットの外来野良動物たちと同じく、こいつが成長するととんでもなく大きくなることから、飼い切れなくなった個体の野外への無責任な放出が跡を絶たないからだ。

大きいものでは甲羅の長さが50センチほどという、「それ、ほぼウミガメじゃん」と言いたくなるくらいにまで成長するというから驚きである。

カミツキガメはその名の通り、目の前にやってきたものに反射的に噛み付く習性がある。こんなに大きくて力の強そうな生き物にまともに噛みつかれたら、軽い怪我ではすまないだろう。カミツキガメを野外に放逐するのは、公道に地雷をばら撒くのに等しい許しがたい行為だ。

違反者には『裸で水に入り、噛まれる恐怖におびえながらカミツキガメを1匹残らず回収する刑』を言い渡したいところなのだが、私がこうして国外まで足を伸ばさずとも、そこそこ気軽にモンスターハンター気分を味わえているのは、彼らの愚行の恩恵と言えなくもないので複雑だ。

ともかく、このかっこいい生き物に会いたくなった私は、捕獲に乗り出した。

 

 

カミツキガメは千葉の印旛沼周辺に多い

日本の田園風景には不釣合いなこの巨大カメが闊歩しているところをぜひとも見てみたい、あわよくば捕獲して食べちゃいたいと思った私は、友人たちとともに千葉県の印旛沼を目指した。この沼や周辺の河川、特に鹿島川の水系では、すでにカミツキガメが定着、繁殖してしまっていると聞いたからである。

推定生息数、なんと1万6千匹。

戯れに野に放たれたものたちの子孫が、新天地で着実にその数を増やしているのだから、外来種といえどやはり生き物はすごいなあと感じ入ってしまう。

印旛沼広しといえども、これだけ生息しているなら、我々に捕まってくれる酔狂なカミツキガメが少しはいるはずだ。ネット上にレポートを上げている先行者たちも、なんだかんだと苦労しつつも捕獲に成功しているようである。

楽観的な雰囲気の中、まずはカメが好みそうな場所を探すことにした。

 

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そこそこ広さがあって、水が濁っているポイントを発見したので、釣針にアジの切り身をつけて放り込む。同時に、ウェーダーを着て、タモ網を持ち、川底の泥の中に隠れたカミツキガメを捜索する。

数時間かけて探し回るも、まったく気配なし。

しかし、ここまではある程度予想していたことである。カミツキガメは、夜行性だと聞いていたからだ。

 

日が落ちてから、再度釣りによる捕獲に挑戦した。合計5本の釣竿が、適当な間隔をおいて川岸にセットされる。天気は晴れで、周辺の草むらでは、大小様々なカエルたちのたてる鳴き声がうるさいくらいに響いている。特にウシガエルの「グー・ゲー」という声は特徴的で、容易にそれと判別できた。

これはうれしい兆候だ。カエルが活動できる水温なら、カメも動いている可能性が高いからである。そして、1時間ほどたった頃、最も下流に設置していた竿が音を立てて大きく傾いだ。

「来たぞ!」

大きな声を上げて竿にかけ寄る我々。

今から思うと、探索初日のピークはこの瞬間だった。

「さあ、カミツキガメの顔を拝んでやろう!」

みんながそう思って興奮していたと思う。たぶん。

 

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バタバタと音を立てて上がってきたのは、アメリカナマズだった。

 

いや、期待はずれだったのは認めるが、決してがっかりなどしていないし、アメリカナマズが悪いのでもない。現に、一座はそれなりに感興を催した。昼間からずっと釣糸を垂れていて、初めてあがってきた獲物だったからである。ただ、上がってきたのがカミツキガメだったら、どんなにか喜び、安心しただろう。

気を取り直して釣りを再開したのだが、待てど暮らせどカミツキガメは捕まらない。

結局、その日はもう1匹アメリカナマズを吊り上げたところで解散となった。

 

 

カミツキガメを求めて雨の沼のほとりを彷徨う

翌日はあいにくの雨だった。他の人たちは用事があったり疲れたりで帰ってしまったので、今日からは私一人での探索である。

強烈な日差しで体力をガンガン削られることがないので、野外に探索する身にはありがたいのだが、カミツキガメ探しに限って言えばどうだろか?

昼間なのに肌寒いし、夜になれば一層気温と、それにつられるように水温が低下することが予想される。そうすれば、昨日にも増してカミツキガメの動きが鈍くなることはまちがいない。せっかく冬眠から出てきたものも、また冬に戻ったのかと二度寝をしてしまいかねない寒さだ。

悪い予想は的中した。この日はカミツキガメはおろか、アメリカナマズすら釣れなかったのだ。ゴールデンウィーク明けの、水温的にギリギリな時期に来たことを後悔させられた。

 

なんの釣果もなかった2日目の探索だが、釣り人から興味深い話を聞くことができた。

雨の中、傘をさして釣りをしている人を見かけたので、物好きなお方もいるものだと、「お前が言うな」と言われそうなことを考えながら声をかけてみた。話題はもちろん、カミツキガメのことだ。この方もカミツキガメを見かけたことがあるというので、俄然食いつくようにして情報を得ようとする。

その人のいうことをまとめるとこうである。

  • カミツキガメは、釣りたくなくても年に1回くらいは釣れてしまう。
  • 漁協の人たちが駆除用の罠を設置していて、最近も5,6匹捕まえて処分していたようだった。
  • こういう川幅が広いところよりも、田んぼの用水路みたいな狭いところの方が数は多い。

特に最後の一つには驚いた。カミツキガメは大きなカメなので、自然と、川幅が10m以上あるところを中心に捜索を行っていたのだ。

その後、いただいたアドバイスをもとに探してみたが、前述のように成果は芳しくなかった。しかし、リベンジするための足がかりを抑えられたことがうれしかった。

 

 

 カミツキガメは突然に 

 翌日の天気は打って変わって快晴で、沼の畔はポカポカと暖かい陽気に満ち満ちていた。

捜索を続けてもよさそうなものだが、引き上げようかと言う気になった。野宿で2泊3日に及ぶ捜索行で疲れてきたのと

「時期的にまだ早かったのでは...6月に出直したほうが可能性は高そうだ」

という思いが頭の中でだんだん大きくなってきたからだ。

ただ、そうは言いつつも諦めきれない往生際の悪さを発揮して、最寄り駅まで移動するのに、鹿島川のそばの田んぼの脇道を歩いて用水路の様子を伺いながら移動することにした。結果的にこれが功を奏した。

水路脇の草が生い茂る道を歩いているときにそいつは現れた。

 

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ん?

 

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んんんんんん???

 

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う...う...うう......

 

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うわあああああああああ!!!

 

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なんという皮肉だろう。

2日間、あれだけ苦労して探したり釣ろうとしたりしても、気配すらなかったのに、帰ろうとした途端に道の端に転がっているんだもんなあ。

「やってらんねえよ」と思いつつも、顔には満面の笑みを浮かべて喜びを隠し切れないでいるのである。大げさなようだが、『奇跡』という言葉が頭をよぎった。これは『捕獲』というよりも『出会い』である。カミツキガメと私が、道端で偶然ばったり出くわしたという奇跡なのだ。

ともかく、道を歩いていてカミツキガメに出くわすなんて、ほぼ毎日田んぼに出てくる農家の人でも1年に1度あるかないかのことであるらしいのに、なんと運の良いことだろう。それとも、推定生息数1万6千匹というデータが出された頃よりも、さらに個体数が増えているのだろうか。

 

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ちょっと笑っているようにも見えるが、威嚇中である。慎重に手を近づけると、縮めた首を目にも止まらぬ速さで突き出して噛み付こうとしてくる。空を噛んだ口は、歯と歯がかち合う「カチッ!」という小気味良い音を立てる。

 

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腹側の造形は、私の知っているカメのそれとだいぶ違う。甲羅による防御の範囲が狭い分、手足の可動範囲が大きくてダイナミックな動きができるのかもしれない。

 

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長い首を回してこちらを噛もうとしてくるのだが、甲羅の後端まではさすがに首が届かないので、こうして持てば安全である。

甲羅のサイズにして20センチ強、大きいほうではないのだろうが、まごうかたなきカミツキガメだ!ついつい飼いたくなるのも納得のかっこよさである。

 

このとき私は一人だったのだが、この喜びを誰かと共有したくて、近くにいた農作業中の翁に話しかけた。

「このカメ、カミツキガメって言うんですけどね...うふふ、僕が3日かけてやっと捕まえたんですよ、かっこいいでしょう!」

翁は

「ははあ、よかったですね」

と言って、曖昧な笑みを浮かべて肯いたあと、どこかへ行ってしまった。

 

それでも収まらないので、「クハークハー」という威嚇の声を上げるカミツキガメを手に持って喜びの舞を舞っていると、こちらに向かって軽トラが走ってくるのが見えた。

私がカミツキガメを見せびらかすようにして持ち上げると、はたして軽トラは停車し、中から驚きの表情を浮かべた年の頃60くらいの女性が出てきた。

首を振り回してもがくカミツキガメを手に持ったまま、しばし歓談する。女性の親族の男性は田んぼでの作業中に泥の中に潜んでいたカミツキガメに指を噛まれてしまい、病院に行ったことがあるそうだ。やはり危険な生き物であることは間違いなかったのである。

 

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写真を撮ってもらった。

 

「そのカミツキガメをどうするのか」

と聞かれたので、私は正直に、もって帰って食べるつもりですと答えた。答えてから、そんなことを言ったら気味悪がられるかしらと危惧したが、彼女の口から出てきた言葉はこちらの意表を突くものだった。

なんと、道の真ん中でカミツキガメを〆るのはなんだから、農地の端まで軽トラで運んでくれると言うのだ。(特定外来生物であるカミツキガメは生かしたまま持ち帰ることができない)

距離にするとおそらく300mも離れていないのだが、水路やぬかるみなどに分断された農道の移動は大変だ。大荷物を背負い、暴れるカミツキガメを抱えたままではなおさらであり、とても助かった。

 

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カミツキガメと一緒に軽トラの荷台に乗ることになるとは思わなかった。

初夏の日差し、風を切る音、おそらくもう2度と体験しない、カミツキガメとの青春の一コマ。

カミツキガメはというと、おそらく初めて体験するであろう車の振動をものともせず、活発に動き回っていた。どっしりとした落ち着きがあって、なかなかかわいらしく思えてきた。

 

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ノッシノッシと力強く歩くカミツキガメ。尻尾の存在感の大きさがわかる1枚だ。

 

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元気に脱走しようとするのでたまに網をかけてもとの位置に引き戻す。

 

女性に礼を言って別れ、四苦八苦しながらカミツキガメを〆て持ち帰った。

これが、カミツキガメ捕獲の顛末である。ひとつひとつの出来事を思い出しながら記事を書き起こしている間も、興奮の追体験をして動悸が速くなってくるようだ。

 

 

食べる

東京の友人宅に持ち帰ったカミツキガメは、から揚げとスープにして食べた。

以下はその感想である。

 

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まずはカミツキガメのから揚げ。足の周りには肉がたっぷりとついていて、とても食べ応えがある。甘い脂肪分と、さっぱりとした筋肉のバランスがよい。肝心の肉の味はというと、噛めば噛むほどにじみ出てくるこの味は...なんともいいがたい。とても美味いのだけれど、他のものに例えようとしても、ぴったりあてはまるものがないのだ。鶏肉のようでもあり、ツナのようでもあり、一言でいうとこれはカメの味としか言いようがない。

 

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余談だが、食べているところが異常者のようで怖いと言われた。ずっと髭を剃っていなかったからだろう。

 

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こちらはカミツキガメのスープ 。にんにくとしょうがを少し入れた以外は、塩で味を調えただけである。醤油で味付けしたから揚げに比べて、まじりっけのないカミツキガメの味が堪能できるはずなのだが...。

うーん、から揚げの時ほど「美味しい!」という驚きがなかった。旨味は強い。が、その背後にある種の臭みが残っている気がしてしょうがないのだ。これがカミツキガメの匂いなのか、印旛沼の匂いなのかわからない。

前者なら、解体の際により注意を払って内蔵等を傷つけないように取り除き、牛乳にしばらく漬けるなどして改善する余地がある。

後者の場合は難しい。たとえばスッポンを調理するときには、綺麗な水の中で1週間ほど餌を与えずに飼育する、いわゆる『泥抜き』によって泥臭さをある程度は抜くことができるのだが、生かして持ち帰ることのできないカミツキガメの場合、この工程を踏むことが不可能なのだ。

ともかく、私は濃い味付けのほうが好みだった。

 

 

また捕りに行きたい

カミツキガメは日本の河川にいてはいけない生き物である。不意に出くわせば非常に危険な存在になりうることもわかった。しかし同時に、その外見は惚れ惚れするほどかっこよくて、食べれば魅力的な味のする生き物であることも間違いない。

行政は、この厄介な生き物の駆除に一層の力を入れていく方針を示しているため、うまくいけば数年で個体数は減少に転じるのだろうが、それまでにもう一度くらい会いに行きたい、あわよくば今回のよりももっと大きいのを捕まえてみたいと思っている。

 

 

 

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