超珍味「どじょうずし」あらわる

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先日、滋賀県栗東市に伝わる「どじょうずし」 というなれずしを味わう機会があった。

 

話は昨夏までさかのぼる

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この日、私は滋賀県草津市琵琶湖博物館に来ていた。夏の間開催されている『大どじょう展』を鑑賞するためだ。 

 

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日本在来のドジョウは、今わかっているだけで33種もいる。なんだかアイドルグループのようである。『大どじょう展』ではこれら全てのパネル展示に加え、そのうち27種が水槽に生体展示されていた。よく集めたものだと感心してしまう。

この一覧を見ていて一番驚いたのが、「ドジョウ」という種名を持った魚が存在することだ。いや、何を言っているかわからないだろう。説明しよう。

私はずっと、「ドジョウ」という呼称は「〇〇ドジョウ」や「××ドジョウ」といったドジョウ科の魚をひっくるめて呼ぶときの総称だと思っていた。だから、「ドジョウ」というプレーンな呼び名を種名としてもつ魚(写真の右半分の左上に写っているやつ)が存在すると知って驚いたのである。彼らは、いわばドラえもんズにおけるドラえもんであり、この33種をヒーロー戦隊よろしく横一列に並ばせた場合、否応なしに真ん中にくるはずだ。

これからはドジョウのことを話している人を見かけたら、それはドジョウ科ドジョウの話なのかドジョウ科全体の話なのかを注意深く区別しなければならない。人間は、知識が増えるほど傍から見ると面倒な存在になりがちである。

 

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ともかく、出だしから新たな発見に驚かされたので、速やかに生体展示を見ることに移行し、可愛いドジョウたちの姿を見て心を落ち着けることにした。例えば、この白地に黒い縞模様が綺麗なドジョウはオオガタスジシマドジョウ。琵琶湖にしか生息していないドジョウである。

 

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こっちの黒い斑点が可愛いやつは、トウカイコガタスジシマドジョウ。東海地方に生息していて、その名の通りオオガタスジシマドジョウの半分くらいの大きさしかない。

 

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天然記念物と絶滅危惧種にダブル指定され、京都府岡山県の一部地域でしか見られなくなってしまったアユモドキも展示されていた。まごうかたなき珍魚のお姿をしっかりと拝見したかったのに、かたくなに岩陰から出てこようとしなかったのは残念である。マイノリティが日陰に追いやられるのは、人も魚も同じということなのだろうか。

 

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水槽の底を這うように泳ぐドジョウたちの姿をたっぷりと堪能していい気分で立ち去ろうとしたところに、そうすんなり帰らせてたまるかと登場したのがこいつだ。

遠目に見て、大きなヒザラガイの化石かなにかかと思った。しかしながら、キャプションを見ると、なんと、信じがたいことに、寿司だと書いてある。真っ黒な見た目もさることながら、材料に使われている魚がドジョウとナマズであるというのもすごい。蓼を混ぜるというのもおもしろい。まったく味の想像が付かないので、俄然食べてみたくなった。

気になって仕方がないのでその場で検索してみた。「どじょうずし」はここ琵琶湖博物館から10kmほど離れた滋賀県栗東市に所在する三輪神社の春祭りに供される寿司で、祭りが催される5月3日に現地に行けば誰でも食べさせてもらえるという。

こんなに面白そうなものについて教えてくれた大ドジョウ展の企画者に感謝しつつ、手帳に日取りを書き付けた。

 

5月3日になったので見に来た

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待ちに待ったお祭りの日である。

三輪神社は、栗東市大橋の水路の多い歴史のありそうな住宅街に位置している。

 

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祭事は13時に始まる。私は10分ほど遅刻したので、着いた時には境内には既に人が集まっていた。

集まった人々は、式典を進行する人たちと、遠巻きに見物するギャラリーに分かれていた。これは完全に主観なのだけれど、他所からやってきたのは自分を含めてほんの数人であり、大多数の人々は地元民であるようだった。それでも敷地の外にはみ出るほどに人が集まっているのは、このお祭りが地域で大事にされているからなのだろう。

 

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正装した人々が順番に何かを奉納していく。

 

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ひとしきり奉納が終わると、次に神楽(神様に奉納する歌や舞のこと)が舞われる。舞子の4人は地元の小学6年生から選抜され、この日のために練習するそうだ。

 

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とても絵になるので、たくさんのカメラが向けられていた。

 

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神楽が終わると、神前に置かれていたお供え物はおじさんたちによる無言の手渡しリレーで引き上げる。紅白の鏡餅、鯉、タケノコ、大根、にんじん、昆布、スルメ、海苔、夏みかん、酒...見ていて、いったいどれだけ出てくるのだろうと思わされたほど盛りだくさんである。

 

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お供え物の引き下げが行われている裏では、神輿の準備が始められている。担ぎ手は子供たちだ。神主による祝詞の読み上げを済ませた神輿は、20人ほどのはっぴを着た子供たちに担がれて境内を出発していった。

 

そして、どじょうずしが現れた

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子供たちが神輿とともに行ってしまうと、こころなしか境内の大人たちはそわそわし始めたように思えた。私にも、なんとなくその理由がわかるような気がした。進行役の方が

「それでは今年のどじょうずしのお披露目です。日本広しといえど、ドジョウをなれずしにするというのは、ちょっと他では聞いたことがない、とても珍しいものです」

というようなことをおっしゃる。すると間をおかず、境内のそこかしこから「おお」とか「ほお」とかいう感嘆の声が上がった。私のような他所から来た組は特にはしゃいでいたはずだ。

境内に入った瞬間から存在に気づいていた、白布を被せた机に置かれたそれが、舞台のそばに引き出されてきた。

 

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これが、どじょうずしだ!

一年に一度だけ、ここでだけ食べられる味。珍味という言葉では到底表現しきれない、超珍味と呼ぶべき食べ物なのだ!

上に載っているナマズの切り方が少し違うが、琵琶湖博物館の展示で見た模型とほとんど変わらない色と盛り方に感動した。二皿のどじょうずしが出ているが、これは町を東西に分け、それぞれで一樽ずつ用意するためである。

こちらは、西当番の大隅さんが漬けたどじょうずし。

 

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そしてこちらは、東当番の鵜飼さんが漬けたどじょうずしだ。

同じ物を作っているはずなのに、東西で違うナマズの切り方に個性が表れていて、いいね!

 

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顔を近づけてみる。米の乳酸発酵した香りに混じって、ハーブのような植物系の芳香が漂ってくる。蓼を混ぜ込んで発酵させているからだろうか。

 

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そうこうしているうちに、取り分けが始まった。

これ、「あら珍しい、ちょっともらってみようかしら」という興味本位、味見レベルの取り分けではなく、みなさん割合がっつりと持って帰られるようだった。タッパーとか準備してきてるし。よそ者だから最後でいいなどと言っていると、なくなってしまうかもしれない。取り終わった人が離れたところを見計らって、机に接近した。

 

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ナマズの切り身を取り、米の山を崩すと、中から埋もれたドジョウが出てくる。

 

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容器になる物を持って来ていなかったのだけれど、お酒用の紙コップに入れてもらうことができた。これは西当番のどじょうずしだ。

味は...米の発酵した酸味、さらに塩分と蓼のピリッとした辛味が合わさって、寿司にしてはなかなか刺激的な味だ。肉厚なナマズはジューシーでくせがない。ドジョウの方は少し苦味があって、グニグニとして噛み切れないので丸ごと口の中に放り込んでいつまでもクチャクチャと噛んでいられる。どちらも、蓼の香りが川魚の生臭さを消すのか食べていて抵抗を感じなかった。多くの発酵食品の例に漏れず万人受けする味ではないのかもしれないが、私は個性的で美味しいと思った。

東西で食べ比べてみると、東の方はほんの少し米がダマになっている食感があり、酸味も強かった。

「味が東西で違いますね」

机の近くで来客にお酒を勧めていた翁に話を伺うと、

「基本的な作り方は同じなはずだけれど、保管している場所によって水分の蒸発するペースや発酵の進み方が違うから、味も変わってくるんですよ。でも別に味を競っているとかではなくて、昔はもっとたくさん作っていたから、当番の負担が大きくなり過ぎないように町の東西で半分ずつ漬けるようにしたんです。」

と教えてくださった。聞けば、なんとこの方は、東西にそれぞれ2人ずつ配置された寿司漬け人という役職に就いておられるそうで、どじょうずし作りの当番に当たった世帯の手伝いをしたりされるそうである。

寿司漬け人氏が教えてくださったどじょうずしの作り方はこうだ。

  1. 寿司漬けは毎年9月に行う。刈り取った蓼を細かく刻んでご飯に混ぜ、蓼飯(たでめし)を作る。
  2. ナマズの切り身に塩をして、水分を切る。
  3. 木製の樽を用意し、まずは蓼飯、次に生きた丸のままのドジョウ、さらにその上にナマズの切り身を被せる。その際、各層に適量の塩を振る。
  4. この蓼飯、ドジョウ、ナマズの順番でどんどん重層していき、樽の上の方まで詰まったら、蓋をして重石を載せる。
  5. 翌年の5月まで、たまに様子を見ながら発酵させる

琵琶湖から水路で水を引いて米を作っているこの地域では、ドジョウやナマズは簡単に入手できる魚だ。蓼も、水辺に自生するありふれた植物だ。塩はちょっと難しいかもしれないが、基本的にこの周辺で得られるものでずーっと昔からこの作り方を受け継いできたのだという。

「どじょうずしやこの祭りはいつ頃からあるものなんですか?」

という質問には、

「300か、400年前くらいかなあ?」

とのことだった。ほかにも、寿司の研究家が見学に来た話や、塩辛いどじょうすしをアテにしてお酒を飲むと最高なのだという話を楽しく聞かせていただいた。なお、ナマズの方がたくさん入っているのになぜ「なまずずし」ではなく「どじょうずし」なのかはわからないそうだ。

 

境内を散策してみる

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これが本殿で

 

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その脇には天照を祀ったお堂があった。

 

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ここにもいろいろなお供え物が。そしてよく見ると、その中に丸く固めてしめ縄を載せられたどじょうずしが。 

一通り見て回って戻ってみると、大皿に盛られたどじょうずしの、上に載ったナマズはすでに全て持ち去られ、蓼米がいくらか残っているだけだった。

それにしても、一口に寿司と言っても本当にいろいろなものがあるのだなと、どじょうずしを見て感心させられた。

「今夜はお寿司よ!」

こう宣言されて、食卓に出てくるのは握り寿司かもしれないし、散らし寿司かもしれないし、柿の葉寿司かもしれないし、どじょうずしだということもあり得ないことではないのだ。寿司の世界の奥深さを体験させてくれたどじょうずしや、それを継承している人たちに感謝である。

帰り際に、ふと思いついて神社の前で神輿を通すための交通整理をしていた人に

「このお祭りとかどじょうずしっていつ頃からあるんですか?」

と先ほどと同じ事を聞いてみた。

「さあ、1000年くらい前からかなあ」

ともかく、いつ始まったかわからないくらい前からある伝統なのである。

 

おまけ

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境内にあった遊具。そこはドジョウじゃないのね。

 

 

 

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シーラカンスを描いた

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夜中でも部屋の中が暖かいのと眠れないのとで、なんの脈絡もなく描き始めたシーラカンスの絵がひとまず「完成かな?」と思えるところまで来た。気が向いたら背景を描き足すかも。

 

春眠不覚暁の派生型で、最近変な時間に寝てしまうことが多い。夜中に絵を描き始めたのも、夕食の後に横になって、ついそのまま寝てしまったからだ。

「あんた、先々月くらいには、冬は寒いから眠たくて困るとか言ってなかった?」と、鋭い読者に指摘されるかもしれないが、要するに私は寝るのが好きなのである。

寝るのが好きだというと、なんだか無気力な人間のように聞こえてしまって面白くないから、ここは少し積極性を加味して「睡眠が趣味だ」と言ってしまおう。そうすると、お金もかからないし体力も回復するし気持ちが良いしで、消費系の趣味としての睡眠はなかなか魅力的なように思えてくる。

「趣味らしい趣味がなくて...」とか「趣味を持つにはお金と時間が...」という人は、睡眠を趣味だと主張するようにしてみてはどうだろうか。今はまだ奇異に思われるかもしれないが、「ていねいな暮らし」というスローガンの下でトイレを綺麗にしたり冷蔵庫内の食品を整理する行為が休日の過ごし方としてもてはやされることもある昨今、娯楽としての睡眠が認知される日が遠からず来るはずだ。なにより、長生きできそうである。

 

 

 

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代用チョコレートで春を祝う

f:id:yanenouenomushi:20180314185726j:plainたとえ義理であれ、くれたのが母親であれ、チョコレートをもらうとうれしい。甘いものは大好きだから、チョコレート以外のものでも頂ければもちろん大喜びだけれど、やはりチョコレートはなんだか特別なお菓子であるような気がする。人々が互いにチョコレートを送りあう風習の是非はさておき、バレンタインデーの贈り物に最初に目を着けたのがチョコレート業界ではなく、例えば甘納豆の業界だったとしたら、とっくの昔にこんな行事は自然消滅していたかもしれない。

時は第2次世界大戦の真っ只中、このまま戦争が激化してチョコレートが食べられなくなれば、国民の士気が低下してしまうのではないかと心配した人たちがいた。チョコレートは今も昔も人の心を湧き立たせる特別なお菓子で、にもかかわらず原料のカカオは100%輸入品だから戦争の影響をモロに受けるのだ。

そういう経緯で始まったのが代用チョコレートの研究だ。カカオを使わず、日本列島の中で自給できる作物を使ってチョコレートの代用品を作ることが目的だったらしい。カカオを使わずに、本当にあの味が出せるのだろうか?気になったので試してみることにした。

 

 

作り方を調べる

代用チョコレートについての記述は、ウィキペディアの「チョコレートの歴史」のページにも少しだけ載っている。

「日本チョコレート工業史」によると、1941年に日本チョコレート菓子工業組合と日本ココア豆加工組合からなる「ココア豆代用品研究会」により、ココアバターの代用品に醤油油(醤油の製造過程の副産物。丸大豆に含まれる油。よく誤解されるが醤油そのものではない)、大豆エチルエステル、椰子油、ヤブニッケイ油などの植物性油脂の硬化油、カカオマスの代用品に百合球根(ユリの鱗茎)、チューリップ球根、決明子(エビスグサの種子)、オクラ豆、脱脂大豆粉、脱脂落花生粉などを原料にした代用チョコレートが考案された。

ふむ......。

脂を絞ったあとの大豆や落花生に百合根にオクラ......ちょっとどんな味になるのか想像がつかない。こんな余り物みたいなものでチョコレートができるの?

それと、1941年といえばおそらく真珠湾攻撃でアメリカに戦争を仕掛けるよりも前のことなわけで、その時点で代用食が必要なくらい逼迫しているのが悲しい。

 

チョコレートの材料は、大きく分けてローストしたカカオ豆をすり潰したカカオマスと、カカオ豆から搾り取ったカカオバターという油脂だ。(図は、ものすごーく単純化している。本当はもっと複雑な工程を経ている)

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で、カカオマスカカオバターに、砂糖やミルクなんかを足して練り上げたものがチョコレートになる。代用チョコレートの代用材料たちも基本的にはこの「油と粉」の組み合わせをなぞっているようで、大きく分けてカカオバター(油脂)の代用品とカカオマス(粉)の代用品に分けられている。

 

代用チョコレートのおおよその輪郭はわかった。

しかしながら、材料の下処理とか、組み合わせとか、配合とか、まだまだわからないことが多すぎる。そこで原典を当たってみることにした。この「日本チョコレート工業史」という本には、ウィキペディアに引用されている以上の代用チョコレートの詳しい製法が載っているはずである。

 

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「日本チョコレート工業史」は予想したとおり非常に希少な本らしく、家から離れたところにある私大の図書館まで出向く必要があった。受付で受け取った許可証で電子ロックを開錠して入った地下書庫の棚に、目的の本を見つけた。滅多に人の手に取られることもないのだろう。

 

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ぱっと見てチョコレートを連想する茶色い外装、そして表紙に覆われていない面は金色に染められている。とても手の込んだ美しい本だ。

この「チョコレート工業史」、ちょっと読んだだけでも執筆当時までの日本のチョコレート史を網羅したすごい本だということがわかる。

文明開化とともに日本に入ってきたチョコレートが、悪戦苦闘の結果国産化され、アメリカに輸出されるまでに至る。

「海越えて 褒められに行け 日本品」

というのが当時考え出された標語だ。

しかし、栄華は長く続かない。戦争によるカカオ輸入の途絶と敗戦によって、国産チョコレートは文字通り消滅する。戦後になっても、外貨の不足や生活必需品を優先する必要から、嗜好品であるチョコレートの復興は後回しにされた。ようやくカカオの輸入が再開されたのは、戦後5年たってからのことだったそうである。

話が脱線してしまった。国産チョコレート叙事詩の詳細が気になる人は、探して読んでみてほしい。

 

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 さて、「日本チョコレート工業史」には期待したとおり代用チョコレート研究の詳細が載っていた。その研究報告の内容をもとに、代用チョコレートを現代によみがえらせてみた。一部まったく同じものを入手するのが困難で、似たもの(代用品の代用品!)に置き換えたりもしたが、大体似たような物が再現できたはずだ。

 

 

材料

まずカカオマスの代用品として検討されたものたちを紹介する。

  • 百合根
  • チューリップの球根
  • オクラの種
  • 脱脂大豆粉(大豆の油を絞った後の残りかす)
  • ケツメイシ(JPOPじゃないよ、マメ科の植物の名前)
  • チコリ
  • 菊芋
  • 蕃仔豆(主に台湾で収穫されていた小豆みたいな豆)
  • 大麦
  • 甘藷(またの名をサツマイモ)
  • 馬鈴薯(じゃがいも)

膨大な種類の食材を試して、最終的に「んー、これならチョコレートっぽくなくもないかな?」という感じで残ったのが、上気のリストのものだと思われる。ここまで選別するだけでも、その執着心に脱帽するしかない。ここからさらに「生産量は十分か」「他のもっと重要な用途に使われてないか」などといった条件でふるい落とした結果、最終的に最も良いとされたのが

 

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脱脂大豆粉、オクラの種、百合根の3つの混合した粉だ。名づけて代用チョコレート三銃士!

脱脂大豆は脱脂落花生、オクラの種はケツメイシ、百合根はチューリップの球根に置き換えることもできる。

「蕃仔豆が必須」などといわれたらどうしようかと思ったので、比較的現代でも入手しやすいものに落ち着いてくれたのでホッとした。

脱脂大豆粉は現代では人間向けの用途がほとんどないそうなのだが、「カブトムシやクワガタムシの幼虫を育てる土に添加すると幼虫のサイズが大きくなる」という触れ込みで販売されていた物を無事入手することができた。こんなところで虫に助けられるとは......。

 

粉が揃ったので次は油を見てみよう。カカオバター代用として検討されたのは

  • ラミオール(ライオン油脂株式会社の製品。醤油を作る過程で出る油を固めたもの)
  • 大豆油エチルエステルの硬化油(大豆油を固めたもの)
  • 椰子油脂肪酸のグリコールエステルの硬化油(椰子油を固めたもの)
  • イソカカオバター(これも椰子油から作られる)
  • ヤブニッケイ油(台湾や九州に自生するヤブニッケイの樹の実からとった油)

だ。さて、この中から栄えあるカカオバター代用品に選ばれたのは......なんと大豆油の硬化油!すごい、上のカカオマス代用品にも選ばれてるし、大豆ってひょっとしてカカオの親戚なのでは!?

大豆を褒め称えそうになるがここで少し落ち着かなければならない。実際にはカカオバター代用品は消去法で選ばれたようだ。大豆油を硬化したもの以外の候補は、いずれもブルーミング(チョコの表面に白い結晶が浮き出て味が大きく落ちる現象)が起きやすい、原料が十分に確保できない、技術的に大量生産できないといったどうしようもない欠点を抱えていた。取り立てて欠点がないという理由で大豆油が選ばれたのである。

さて、大豆油を代用に使うのはいいが、大豆油を硬化したものをどこで入手すればいいのだろう?通常、液体の油脂を硬化して融点を上げるためには、油脂の分子に水素を付加する処理が必要なのだが、自宅では難しい。

いろいろ調べた結果、同じ物を 用意するのは無理だという結論に至った。ではどうするか?

 

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じゃじゃーん!代役の代役を呼んでくればいいのだ!

マーガリンは植物油脂を硬化したものだ。そして、その中には(100%ではないが)大豆由来の油が含まれている。

役者は揃った。ガシガシと加工していこう。

 

 

作ってみる

まず、カカオマス代用品を焙煎・粉砕する。

 

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脱脂大豆拡大之図。

青臭いような黄粉っぽいような匂いがする。細かいためそのまま焙煎すると炭になってしまう。

 

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いったんミルで細かく砕いて、水で練って型に入れ適当な形に成型、乾燥させたものをオーブンで焼き固め、再度ミルで粉砕して粉にするという方法をチョイス。

めんどくさそうだと思った?正解。回りくどすぎて、途中で自分が何をやっているのかわからなくなることが何度もあった。

 

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さながら脱脂大豆粉でできたジークフリート線だ!(わからない人は「竜の歯」で検索してみよう)

 

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180度で30分加熱したら少し焦げた。炭になったところを削り取って使うことに。

 

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次はオクラの種だ。なんだかかわいらしいが、こいつもこんがりと焙煎する。

 

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中華鍋で乾煎り。ジャラジャラいわせながら鍋を回していると、突然「パン!」という音がしてオクラ種たちが爆ぜ始めた。あわてて手で顔をガードする。種たちがポップオクラになりはじめたのだ!

 

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初めてのことには、予想しないトラブルがつき物だ。

ともかく、爆ぜるくらいなのだから十分焙煎できたのだろう。

 

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最後は百合根。

 

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ぶつ切りにして乾燥させたものを

 

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中華鍋で乾煎り。特に何もなし。手がかからないいい子だよ、百合根は。

 

焙煎した材料をミルで粉にして混ぜる。研究報告によると、脱脂大豆粉:百合根:オクラの種がそれぞれ「50%、30%、20%」または「40%、30%、30%」になるように混ぜ合わせると「最もチョコレートらしい感じ」になるらしい。

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脱脂大豆粉

 

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百合根粉

 

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オクラの種粉......一番チョコレートっぽい色だ。

粉全部で50g、これに対し代用カカオバター100g、粉砂糖64gを使う。

 

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これ1本で100g。

 

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湯煎で融かして

 

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代用カカオマス

 

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粉砂糖を入れ

 

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とにかく練る。とことん練る。

 

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練る...。1時間くらい練ったかな?湯から引き上げると、徐々に温度が下がってまとまりが出てくる。

練る時間が長ければ長いほど滑らかな口解けになるとかならないとか言うけれど、人力でできる範囲でははそんなに違いが出ないんじゃないだろうかという気がする。市販品は機械の力で超長時間(昼夜ぶっつづけで丸3日とか、そんなレベル)練るらしいので、そもそも比較してはいけない。

 

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タッパーに入れる。こしあんのような質感だ。

 

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冷蔵庫で冷やして固める。

本物のチョコレートを固める際は、人の舌がもっとも美味しいと感じる状態に油脂の結晶をそろえる「テンパリング」という複雑な温度操作が必要なのだが、代用品にはそのようなデリケートな扱いは必要ない。

 

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十分に冷え固まったら型から抜いてやる。

型の抜け具合は思いのほか素直で、まな板の上に逆さにバンと打ちつけたらば、ああ、縁が丸いせいで若干カレールウっぽい、されどつやつやとしたそのチョコレート色、いっぱしのものがきちんと出来上がったじゃないか!

 

 

食べてみる

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河原に来た。春なので。

 

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 代用品といえど、綺麗に盛ってやれば黒糖なんかを使った高級な菓子に見えなくもない。

 

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断面がざらついている。日の下で見た瞬間から気づいていたが、あまりチョコレートには見えない。

さらに言うと、あまりゆっくり観察している時間もないのだ。代用カカオバターはそれすなわちケーキ用マーガリンであり、普通のチョコレートに比べて融点が低い。もたもたしていたら、雪のように春の陽気に融かされてしまうだろう。(ここまで持ってくるのには保冷剤を使った)

 

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食べた。なんかモソモソする。

不味くはない。少々黄な粉っぽさが前面に出すぎているが、香ばしい良い匂いだ。百合根由来の芳香も一役買っているのかもしれない。

次に味だが、甘味は当然として、チョコレートの苦味も、まあそれなりに再現されている。

問題は、食感の悪さだ。ネコの舌のようにざらざらな断面は、口の中でも見た目通りの振る舞いをした。家庭用ミルでは破砕に限界があったか、はたまた練りが足りなかったのか。融け方も、ねっとりとしたチョコレートのそれではなく、体温に触れた途端に液化して流れ去ってしまうような情緒のないものだ。これは油脂の性質の問題だろう。油脂が融けた後には一層強いザラザラ感が残るので、ちぐはぐな口当たりになってしまっている。

ここで少し擁護しておくと、ざらざらモソモソとした食感自体は嫌いではないのだ。しかし口に入れた瞬間からすうっと融けて味と香りが口内に広がっていく、チョコレートを食べたときのあの幸福感の代わりにはならないと思った。

時間がたって固くなった黄な粉餅にココアパウダーを掛けて食べたら、こんな感じになりそうである。

 

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代用品は、めちゃくちゃ砕けやすい。

 

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「帰ろう」といって皿や膝に散った代用チョコレートを払ったところ、バサバサバサ!という羽音とともに大勢の鳩が寄って来て地面をつつき始めた。

「やっぱお前、豆だろう」

本性を見た気がした。 

 

 

まとめ

半ば予想はしていたことだけれど、代用チョコレートにチョコレートの代役を務めさせるのは厳しいという結果になった。食感の違いがどうしようもないほど大きいのだ。

当時の研究者たちもそのことを自覚していたようで、「代用チョコレートは被覆チョコレート(他の食べ物の表面をコーティングするのに使うやつ)として使うべし」とか、油脂の性質からくる口溶けの悪さについては「代用油脂を制するものは代用チョコレートを制す」などという言葉を残している。

製粉や練りに業務用のものを使えば、もう少し滑らかな食感になるのかもしれない。どこかの大資本が試してくれないだろうか?そうしてできたものはカフェインレスチョコレートとして売り出すのだ。

 

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お口直しの蒲田君チョコレートに代用チョコレートのビームを撃たせてみた。並べてみてから、蒲田君は口からビームなど撃たないことを思い出した。蒲田君チョコレートは、代用品と比べ物にならないくらい美味しかった。

 

 

 

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マガモ狩りの顛末

狩猟をするようになって初めて、マガモを獲ることができた。先月のことだ。

川に浮かんでいたところを空気銃でポンと撃って、絶命したところを回収した...流れとしてはそれだけだと言いたいのだが、今回は少し骨が折れた。

弾が当たっても絶命しなかったのだ。

一般的に、空気銃でカモを撃つときは頭を狙うべしと言われている。カモの体はプリプリと脂がのっている上に肉が厚いので、尻や胸に当たったくらいでは致命傷を与えることができず手負いで逃がしてしまいかねない(半矢という)。その点、頭に被弾させれば一撃で確実に仕留めることができるというのがその理由だ。

理屈ではその通りと思いつつ、私はなかなか頭を狙う気にはなれない。頭を狙うなんて残酷だ可哀想だとか、そんな理由ではない。可哀想と言うなら、中途半端に傷だけ負わせて野に放つ方がよほど後味が悪いと思う。

頭を狙いたくないのは、第一に獲物に目立つ傷をつけたくないからだ。カモ類は美しい。間近で見れば目を見張るほど、ほんとうに綺麗だ。そしてそんなにたくさんは獲れない。だから、たまに獲れた獲物の肉は食べてしまうにしても、骨格標本なり頭部や翼の剥製なりを作りたいのである。そのとき頭に穴が開いていては標本としては最初から二級品になってしまう。

次に、こっちの方がメインの理由だけれど、頭は小さいので命中させる自信がない。胴体に当たっても半矢で逃げられるかもしれないといいつつも、そもそも弾が当たらなければ元も子もないじゃないか。

 

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そんなわけで、川で見つけたマガモを興奮しながら照準器で捉えたまではいいものの、どこを狙うかなかなか決心がつかなかった。

余談だが、マガモは雌雄のペアで行動することが多い。私が出会ったマガモもその例に漏れず夫婦で川を泳いでいたのだが、私は迷わず雄の方を狙うことにした。マガモの雄は頭部に美しい緑色の毛が生えていて(なので「アオクビ」と呼ばれることもある)、ぜひ間近で見てみたかったのだ。

で、照準器の十字線をその雄のマガモの頭にやってみたり、胸に合わせてみたりしながら「半屋で逃げたら悔しいだろうなあ、でも頭に当たるかはわからないし、当たったら当たったで綺麗な顔が台無しだよなあ」などなど。1分くらいは考えていたんじゃないだろうか。マガモもよく逃げなかったものだ。散々迷った挙句、胴体の方を狙うことにした。

距離は30mくらい離れているだろうか。マガモは当然動いているとはいえ、 胴体を狙えば外すことはない。バシュッという発射音に続いて、弾丸が弾性のある塊に命中するパキョ!という音が響く。「当たった!」ひとまず安堵する。空気銃を下ろして肉眼で見ると、翼に被弾したのか水面でワタワタともがいている雄の方を気にかけながら、雌が未練がましい飛び方で逃げるところだった。

「未亡人になった雌はどうするのだろう?」持ち上がってくる余計な疑問を振り払う。そんなことを考えている暇はない。マガモは、自分が飛べなくなったことを悟るや水面を滑るように全力で川を下り始めた。急ぎ靴と靴下を脱いで川に入り、追いかける。川底の石や真冬の水温で一歩進むごとに足がジンジンと痛む。しかしそんなことは気にしていられない。ここで逃げ切られてしまっては意味がないのだ。

100mくらい追いかけただろうか。足の感覚が曖昧になってきたが、マガモとの距離はなかなか縮まらない。だんだん焦りを感じ始める。さっさと2発目を打ち込んでおけばよかったと思うのだけれど、今更肩の銃を下ろして狙うことはできない。そんなことをしている間に、マガモは遥か下流に行ってしまうだろう。

さらに50mほど追いかけたところで、ジビエの神が私の苦労を認めてくれたのか、奇跡が起こった。膝まで浸かる水の冷たさに耐えがたくなってきた時、なんとマガモの方が先に音を上げたのだ。痛みに耐えかねたのかどうかは知らないが、彼は川の脇に流木が引っかかってできた薮に身を潜め、こちらをやり過ごそうとした。それが上の写真である。きゅうっと縮こまっている姿はなんだか可愛らしいけれど、残念ながら薮に入るところを見られていた上に、真っ黄色なくちばしがどうしようもないくらい目立っている。

 

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自分から袋小路に入った彼を両手で鷲掴みにして捕まえた。「綺麗だな」という言葉が思わず口から漏れた。もっと地味な色だったら、あるいは途中で見失なってしまっていたかもしれない。

もとの川岸まで戻ってからも、嬉しさと寒さで体の震えが治らなかった。こんなに、心の底からの喜びを感じられるんだから、寒い中何時間も粘ろうが膝までずぶ濡れになろうが安いものだ。

 

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頭の緑も、羽の青もほんとうに綺麗。

 

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家に帰って羽を毟ったところ。

翼と頭部は剥製にすることにした。

 

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これは砂肝。

鴨の砂肝は体のサイズの割にめちゃくちゃ大きい。

 

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肉は鴨鍋にして食べた。薄切りにした鴨肉を鍋の中でひらひらと踊らせ、変わったところで引き上げて食べる。火を通し過ぎると硬くなるので、中心部までほんのり温かくなったところで引き上げることが大切だ。味が濃くてジューシーで、ほんとうに、今まで食べたどんな鴨肉よりも美味しかった。

苦労して捕獲したけれど、3人で鴨鍋を囲んだらあっという間になくなってしまった。鴨は正真正銘のご馳走だと思った。

 

 

 

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新春初笑いと杏仁豆腐

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正月を、NHKの「落語 THE MOVIE」の再放送を一気見して過ごしたところ、まんまと落語見たさにいてもたってもいられなくなってしまった。

そんなわけで、初笑いがてらに大阪は天満天神の繁昌亭にいってきた。

 

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平日昼間でしかも雨が降っているにも関わらず、受け付け時間前から行列ができていた。落語業界、案外安泰なのかもしれない。

入場待ちをしているあいだ暇なのであたりを見ていたのだが、郵便箱からしてこのような凝ったデザインだ。実はこの黒い箱が郵便箱であると気づいたのは、帰宅して写真を見返してからで、その場にいたときは違和感がなさ過ぎて気にもとめていなかった。

代わりに目を惹いたのが隣に置かれた看板だ。見ての通り出演者が列挙されているのだが、相撲の番付表とはまた少し違う字体が使われている。これも専属の職人が書いているのだろうか。トリ(調べたらこれももともとは寄席用語らしい)を勤める桂九雀先生だけ余白が多めに取られているのも、これが正式なやり方なのか、それともスペースが余ったから機転を利かせてそうしたのか気になるところである。

そうこうしているうちに開演時間だ。入り口の脇でドンドンと小太鼓が鳴らされるのにあわせて人が吸い込まれていく。自由席なので、良い席を確保しようと私も慌てて中に入る。

 

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緞帳の下りた舞台はこんな感じ。

 

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天井にはものすごい数の提灯が並べられていて壮観だった。このビジュアル、変なものに例えて申し訳ないのだが、タガメの卵みたいである。タガメの卵がどんなものか知らない人は検索してみてほしい。

さて、幕が上がって噺が始まるのだが、噺家さんの写真は撮ってはいけないし、演目の内容を書いてしまうのもやめておく。ただどの話も本当にうまく組み立てられていて、受験シーズン真っ只中なのにこんなに綺麗にオチがついちゃっていいのかしらとはらはらするほどだった。

立て板に水の話し方も、聞いていてとても気持ちよかった。そう、話を聞くのが気持ちいいのだ。言いたいことが要領を得ず、そのくせやたら時間ばかりかかるお話は聞いていて苛立つか眠くなるかの二択だが、落語家の喋りはその対極にある。基本的には早口で話しているにも関わらず、耳から入ってきた言葉が頭の中でスルスルと映像に変換されていく、その遅滞のなさが快感なんだと思う。落語はオチがわかっていても面白いと誰かが言ったが、さもありなん。

わかっている。ここでいろいろ書いて説明しても、この素晴らしさはなかなか伝わらないだろう。私が言いたいのは、少しでも興味を持った人はとにかく一度寄席に行ってみてくれ!ということだ。本当に面白いから。

 

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頭を使っておなかが減ったので、繁昌亭の目と鼻の先にあるアジアン食亭 小施哥哥(シャオスークーク)というお店で麻婆豆腐とニラの餃子と杏仁豆腐を食べた。どれも美味しかったのだが、中でも上海生まれの店主が何時間もかけて自作しているという杏仁豆腐は、トゥルンとした滑らかな食感と杏仁の良い香りが絶品だった。

「また来ますね」と店主に言って店を出た後、日本語の流暢な店主は落語をもう聞いてみただろうかと気になった。 日本語検定一級のリスニング試験には、落語の聞き取りが出題されるらしいのだが...(嘘です)

 

 

 

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いつか「美味しんぼ」で読んだベーコン鍋を作った

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鹿の肉でベーコンを作ったはいいけれど、焼いたりパスタに入れて食べるばかりでは飽きてくる。なにか目新しい食べ方はないかしらと考えていて思い出したのが、大昔に漫画の「美味しんぼ」で読んだベーコン鍋だ。

手元に本がないので検索してみたら、ああやっぱり、レシピを再現してくれている人がたくさんいた。

作り方はいたって簡単。

1. 大きめにきったジャガイモとタマネギを鶏がらスープで煮る

2. 火が通ったら、白菜と薄く切ったベーコンを入れる

3. これにも火が通ったら、塩で味付けし胡椒を振る

以上だ。

気になる味は、鍋全体を包み込む燻製の良い香りがすばらしい。

誰かは言った。「燻製(ベーコンとかソーセージとか)は洋風鰹節である」と。

塩辛くなると嫌でベーコンは控えめな量を投入したのだが、にも関わらず十分すぎるほどの旨味が出ているのには驚いた。鹿肉の脂は融点が高く固まりやすいので熱々のまま食べるのがいいのだけれど、その点でもうってつけな調理法だと思った。

美味しんぼ」に登場するものの中ではどちらかというと端役に位置するこの料理を思い出し、しかもわざわざ作る気になったのは、自分で料理し始める前に「美味しんぼ」全巻を読破したせいで、料理を考える際に脳内の美味しんぼアーカイブをさらってみる癖が付いているからだと思う。あの漫画は毎回似たような展開の話が続くにも関わらず飽きずに読めるし、いまだに印象に残っている場面も多い。なんだかんだ言われているがやはり名作なのだと思う。

 

 

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