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真冬の琵琶湖でワカサギを掬う

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2月から3月にかけて、琵琶湖の波打ち際にワカサギが産卵のために押し寄せる。ワカサギの接岸と呼ばれる光景だ。この期間中は、網が一本あればでいくらでもワカサギを捕まえることができるらしい。そんな話を聞いたので、いてもたってもいられず、さっそく現地に行ってみた。
 
 
 
ワカサギが接岸する条件
 
ワカサギの捕獲法といえば、湖に張った氷に穴を開けて、そこから釣り糸を垂れる光景を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。私も、ワカサギはそうやって吊り上げるか、沖に船を浮かべて網で獲るしかないものだと思っていた。ところが、そんなワカサギが1年に一度、産卵のために波打ち際までやってくるというのだ。しかも、我が家からそう遠くない琵琶湖で。その時期には、網さえあれば誰でもワカサギを掬い放題なのだという。
しかし、残念ながらというか当然というか、いつでもどこでもワカサギを掬えるというわけではない。彼らが岸まで産卵に来るのには
 
  • 1月下旬から3月上旬の日没以降
  • 雨などで水が濁ったりしていない
  • 琵琶湖の西岸大津市街よりも北の地域
  • 岸が砂浜になっているところや、河口付近
 
という条件がそろう必要がある。本当はもっと細かく決まっているのかもしれないが、インターネットで調べていてわかったのはこのくらいだった。
ワカサギに限らず、生き物の具体的な採集ポイントというのは、ネット上に公開されていないことが多い。採集者が押し寄せて乱獲されたり、環境が破壊されることを恐れてのこともあれば、単純に秘密を自分だけのものにしておきたいからだったり、理由は様々だろう。今回はグーグルマップの航空写真を使って、接岸に向いていそうな砂浜をピックアップした。便利な世の中だ。
 
 
 
浜に行ってみる
 
2月末の休日、晴天が続きそうなので決行することに。日が落ちてから家を出て、目星をつけておいたポイントを目指す。
 
着いた。

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▲真っ暗である

 

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▲デジカメのISOを上げて撮影。なかなか風光明媚な場所であることが伺われる。
 
街灯すらほとんどない。そして寒い。そして誰もいない。みんなワカサギ掬いに来ないの?にわかに不安になってくる。夏は水泳場として利用されるらしく、民宿が並んでいるが、どこも冬季休業中である。ワカサギがいなかった場合、近くのファーストフード店で散財して「ワカサギは獲れなかったけど、普段来ない場所で食事ができたから満足」などと言って自分を慰める余地すらもない。
 
ともかく、ヘッドライトで照らしながら湖岸を探索してみることに。
すると、いるいる!びっくりするくらいたくさんというわけではないが、ライトの光を受けて銀色に光る小魚がスイスイと泳いでいるのが見える。
 

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▲写真だとほとんどわからないけれど、小魚が泳いでいる

 

でもね、知ってるよ。君たち本当はすごくすばしっこくて、こっちが網を振り上げたときにはもうどこかへ逃げてしまっているんでしょ。でもせっかく寒い中遠くまで来たんだから、なんとしても1匹くらいは掬いたいなあ。

 

だめもとで網を水に入れてみる。
すると、なんと一発で掬えてしまった。あまりのあっけなさに拍子抜けしたが、そりゃもう、飛び上がらんばかりのうれしさである。産卵に来てるんでしょ?お腹に子供がいるんでしょ?いや、捕まってくれてうれしいんだけど、そんなんでいいの??と聞きたくなってしまう。
 

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 ▲一掬い目にして捕獲成功!あっさり捕まってくれて感謝だ。
 
簡単に掬えることがわかってしまうと、ひたすら魚影を追いかけざるを得ない。
よく見ると、そこかしこをだいたい20匹くらいの群れで泳いでいる。それに、びっくりするくらい波打ち際ぎりぎりのところまでやってくるのだ。最初こそ1匹網に入るごとに大喜びして写真を撮ったりしていたが、慣れてくると、ひたすら浜を行ったり来たりしながら、接岸している群れを見つけては網を突っ込むということを繰り返すようになった。水に入らなくても捕まえられるので、お手軽である。
それにしても、なんとも健気である。バシャッと網で掬うと、運よく網から逃れたワカサギは沖の方に逃げるのだが、しばらくするとまた戻ってくる。子孫を残すのに必死なのだ。相手の弱みにつけ込んでいるようで、なんだか申し訳なくなってくる。
 

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▲最高記録は一掬いで3匹
 

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▲大漁だ!

 
大興奮で波打ち際をバシャバシャすること約1時間、30匹くらい獲れたところで、にわかに波が荒くなってきた。こうなると、波間の小魚をヘッドライトの光で見つけることは難しい。十分な量が獲れていたので、満足して帰路についた。
 
 
 
ワカサギたちを唐揚げにする
 
自分で獲ったワカサギを調理するのは初めてなので、王道のから揚げにすることに。
 

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▲まず、塩揉みして汚れを落としてやる
 

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洗いながら数えると、全部で36匹獲れていた。
小魚だと思っていたが、こうして手に乗せてみるとなかなか立派なサイズであることがわかる。
それにしても、銀色にきらきらと光っていてとてもきれいだ。目も大きく、パッチリとしていてかわいらしい。
 

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▲水でよく洗い、表面の水気を落としてから、片栗粉をまぶす
 

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▲熱した油に投入!
 
ジュ―ッといういい音がする。火のとおりが早いから、揚げ過ぎないことが大切だそうである。
どうでもいいが、私はこの油で食べ物を揚げる音が大好きだ。この音が聞こえると食事が近いということがわかるので、脳がパブロフの犬的な反応をしているのかもしれない。
 

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▲完成!おいしそう!
 
我慢できず、揚げたたてを頬張る。
 

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 ▲美味しんぼの京極さんみたいな写真が撮れた

 

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▲ 美味い!

 
こんなの、美味しくないわけがないじゃないか。
外はカリカリ、中はホクホク。小さいのに、淡水魚の良い香りとほろ苦さをきちんと備えていてたまらない。
 

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▲産卵期なので、卵で腹がパンパンになっている個体も。ねっとりとした食感でとても美味い。
 

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▲全て唐揚げにした
 
食べ始めるととまらず、あれだけ獲ったワカサギの山があっという間になくなってしまった。寒い中駆けずり回るだけの価値が十分ある味で、大満足である。
 
 
 
たくさん獲れたのはうれしいけれど
 
かくして、野外で入手できるご馳走のレパートリーがまた一つ増えたのだった。最後に、ワカサギ掬いについて調べていたときに知った話を、少しだけまとめておきたい。
大挙して浜に押し寄せるワカサギだが、実は琵琶湖の在来種ではない。明治以降に、日本国内の他所の湖から連れて来られた、いわゆる国内移入種なのだそうだ。移入が試みられた当初はなかなか定着しなかったが、環境の変化などが影響してか、近年では漁獲量トップのコアユに次ぐ量が水揚げされるまでにいたっている。対して、ワカサギと競合するホンモロコなどの琵琶湖在来魚は数を減らしているのが現状である。手軽に捕まえられて美味しい魚が増えてくれるのはうれしいが、それによって琵琶湖在来魚の生息環境が圧迫されている可能性があると聞くと、複雑な気持ちにならないこともない。
かといって、琵琶湖の生態系や漁業に組み込まれてしまっているワカサギを今更駆除するのも不可能だろう。産卵前のワカサギをできるだけたくさん捕まえることで、美味しいワカサギを楽しみつつ、劣勢の在来魚たちを応援してやろうと思ったのであった。