台湾旅行2日目、猴硐(ホウトン)を一通り見物した後は、程近いところにある十分(シーフェン)に移動した。線路沿いにびっしりと並んだ商店街や、願掛けしたランタンを飛ばせることで有名な観光地だ。人手がたいしたことなかった猴硐とちがい、こちらは大にぎわいである。
休憩もかねて沿道の食堂で遅めの昼食をとることにした。牛肉麺と春巻きを注文。牛肉麺は香辛料の辛味が強く、食欲をかきたててくれて美味しい。汗が止まらなくなるとわかっていてもスープまで飲み干してしまった。春巻きにはパクチーがもりもりと巻き込まれていて、辛味で疲れた舌に優しかった。
電車が通るとき以外は線路上は開放されていて、こんな風に記念撮影をすることもできる。
カンカンカンと鐘の音が響き、周りがざわつき始める。列車がやってくるという合図だ。それまで好き勝手に記念撮影したり遊んでいた人たちが、鐘が鳴ると一斉に退避行動をとり始めるのがおもしろかった。
驚きの近さ。駅の手前なのでたいしたスピードではないとはいえ、本当にスレスレのところを走り抜けていく。
電車が行ってしまうと、みんなワイワイ言いながら、もとのところに戻ってやっていたことを再開する。これがここの日常である。
名物のランタン飛ばしも、電車が来ないすきに線路上で行われる。このランタンがなかなか大きくて、あっちこっちからふわりふわりと飛び去っていく光景は、なんだか不思議である。詳細は忘れてしまったが、ランタンの色にはちゃんと意味があって、自分がお願いしたいことに対応した色の面に筆で願いを書き込むシステムになっていた。
それにしてもこのランタン、結構派手に燃えてるけど、山に囲まれたとこでそんなもん飛ばして大丈夫なん?という心配が湧いてこないでもない。実際、上昇中に火が気球部分に燃え移って、炎上しながら落ちてくるランタンも見かけた。現役の線路上から飛ばしていることといい、いろいろとカオスである。
GPA(大学の成績)が爆上げしますように!みないな願い事が書かれたランタン。無事に上昇してみなさん大喜び。
線路沿いの光景だけを見ていると、観光客のためだけにあるような町という印象を受ける。それはそれでなんだか寂しいと思ったけれど、路地を一本入ってみると、住宅やこじんまりした寺院があって安心した。
どういうシチュエーションを表しているのか、謎の壁画もあった。
白菜を象った植木鉢。植物の上に植物を植えるという発想が素敵だ。
怪しいおっさんがやってた駄菓子屋。クレしんやドラえもんの人形に混じって毛沢東の像が置かれている。
谷を挟んで、線路の通っているエリアとは別の方に渡ることのできる吊り橋。
橋の反対側は普通の住宅地。橋を渡った観光客たちがちょっとそこらをぶらついてから、なにもねーなという顔をして引き返してきていた。
魅力的な場所には人が大勢訪れる。それだけならいいのだけれど、人が増えると「綺麗で安全な観光地に再整備しよう!」という目標のもと、例えばガラス張りの駅舎を新築するなどしてもともとあった魅力を削いでしまうことが少なくない。
十分はとても面白い場所だけあって人がじゃんじゃん訪れているのだけれど、ここにはそういう姿勢が微塵も感じられないあたりが本当に素晴らしいと思った。これからも乗客の数に対して慎ましすぎる規模の駅舎を使い続け、人がいる線路だろうが構わず電車を走らせ、火がメラメラと燃えている気球をじゃんじゃん飛ばしまくって欲しい。