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美しい毒キノコ、ベニテングタケの味は意外と単調だった

 

※記事の内容は「こうすれば絶対に安全」というものではありません。毒キノコの喫食は自己責任でやりましょう。

 

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▲全身で「俺を食べないほうがいいぜ」オーラを出すベニテングタケ。この見るからに毒々しいやつ(実際に毒がある)を、塩で毒抜きして食べた。

 

 ベニテングタケのこと

私はキノコが好きなのだが、ずっと自分で採集してみたいと思いつつ手を出せていないキノコがあった。ベニテングタケである。(語呂がいいので、ベニテンと呼ぶことにする)主に白樺の森に生えるこのキノコは、私の住んでいる関西地方には自生しておらず、発生時期に自生地へ脚を運ぶ機会がなかなかなかったのだ。

ベニテンの魅力は、なんといっても見る人の心を奪うファンシーなその見た目だろう。ベニテンの名前を知らない人も、美しい赤色に白いイボをつけたあからさまに毒々しい外見はどこかで見たことがあるのではないだろうか。実際、ベニテンは強い毒を持っていて、食べても死ぬことは滅多にないにせよ、嘔吐、幻覚などの症状が出る。またその毒成分を活かしてハエとりに使われるため、本種の学名Amanita muscariaの「muscaria」は「ハエの」という意味なんだそうである。

さてこのベニテン、塩漬けすることで毒が抜けて食べられるようになるらしい。長野県の一部地方では、山がちな地形ゆえの食料生産の乏しさを補うため、ベニテンを毒抜きして食料にしていた歴史があるというのである。そしてなにより、それがなかなかに美味であるらしいのである。ベニテンの毒素は主にイボテン酸、ムッシモール、ムスカリンという成分で、このうちイボテン酸は毒成分であると同時に強烈な旨味成分でもあるというのだ。塩漬けすることで毒成分は多くが流出するが、わずかに残ったイボテン酸だけでも十分な旨味を感じることができるという。なんてこった。そんなことを知ってしまっては、危ないとわかっていても試してみないわけにはいかないじゃないか。

 

 

ベニテンを入手する

「今年こそはベニテン狩りにいこう!」

と決めて、はるばる長野県まで出かけたのは去年の10月初旬のこと。なんとしてもベニテンを食べてみたい!一口だけでもいい!という衝動を抑えきれなくなったのだ。

実際にベニテンを手にするまでのいきさつは、ここに書くと非常に長くなるので、後述する過去の記事を読んでもらいたい。3日間走り回った末にベニテンを手にすることができたが、ここにいたるまでには、いろいろな人の助けを借りたりの、なかなかの珍道中があったのである。

 

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感動の対面をへて

 

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記念撮影をしたり

 

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ワイングラスみたいに持って、においを嗅いでみたりした。

 

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▲土から出てきたばかりの、かわいらしい幼菌も見つけた。

 

こんなに鮮やかで美しいものが土から生えてくるなんて、信じられるだろうか。

まさに、見るものをメルヘンの世界に引きずり込む外見だ。真っ白な白樺の木が林立した森の中には霧が立ちこめていて、その林床には真っ赤なベニテンが点々と生えている。びっくりするくらい幻想的な光景だ。通りがかりのウサギが人語で話しかけてきても、それほど驚かなかったに違いない。

 

▼採集までの詳しい流れが知りたい人はこっちの記事を読もう! 

kaiteiclub.hatenablog.com

kaiteiclub.hatenablog.com

 

 

塩漬けにする

さて、キノコは傷むのが早いので、さっさと保存のための処理をしてしまわないといけない。山を下りて、スーパーにて塩やジップロックなどの必要なものを購入する。ベニテンを袋から取り出して、レッツ塩漬け!

 

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 ▲袋から取り出したところ。すでにちょっとしなびて、崩れてきているような気がする。

 

はじめにベニテンを水洗いして汚れを落とす。そこで閉口させられたのは、ベニテンアパートの住人であるトビムシの多さだ。ザバザバと水を流して、よし綺麗になったと思ったのも束の間、次の瞬間には傘の裏のひだの間から湧いて出てきて、洗ったばかりのベニテンの表面を這い回る。

3度ほど洗ってみても、一向にいなくならない。きりがないので諦めることにした。そもそも毒キノコを食べようというときに、これといって害があるわけでもないトビムシごときで騒ぐのもおかしな話だ。

 

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▲ベニテンに大量に住みついていたトビムシ。遠目に見る分にはちょっとかわいい。

 

キッチンペーパーでベニテンの水気をしっかりと拭き取ったら、いよいよ塩漬けだ。毒抜きにどのくらいの量の塩が必要なのかはもちろん不明である。とにかく、景気よくいこう。

 

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▲できた!

 

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▲すでにちょっとベニテンの赤い色が塩に移ってきている。ホラー映画で、すさまじい霊力で清めの塩やお札が一瞬で黒く萎びてしまうのを連想した。

 

 

塩から取り出して食べてみる

時は過ぎて2月の末頃。なんとなく気が引けて、ずっと冷蔵庫の片隅にしまってあったのだが、意を決して食べてみることにした。結局4ヶ月以上塩漬けしていたことになる。

 

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▲オレンジ色の色素と一緒に水分が染み出してタプタプになっている。きちんと毒抜きできただろうか?

 

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▲だいぶ縮んでいた。

 

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▲匂いを嗅いでみる。かび臭いというか、キノコ臭いというか...。とりあえず良い香りはしない。

 

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 ▲一度にたくさん食べるのは怖いから、幼菌1本と成菌の傘を4分の一だけ取り出した。

 

上に書いたように、ベニテンの旨味は毒成分の味なのだ。つまり、毒抜きといっても、正確には毒成分を薄めているだけであり、完全に無毒化されたわけではないのである。だから一度に大量に摂取するのは危険である。

キノコの毒の強さは自生する地域や時期によっても変わってくるので、「これだけなら大丈夫」という基準は設定できないけれど、今回は1人丸1本食べるのは怖いからやめようということになった。で、とりあえず写真の量で二人分である。

 

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▲水につけて塩抜き中

 

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▲水気をよく拭きとって

 

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▲何もつけずに焼く。純粋なベニテンの味を知りたいから、シンプルにいこう。

 

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▲できた!

 

出来上がった焼きベニテンを前にして、しばし感慨に浸る。

美味いか不味いかわからない...それどころか食べられるかどうかもわからない一皿を食卓に供するまでに、いったいどれだけの労力が投入されたことだろうか。

 

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まずは幼菌をいただく。これといった香りがしなかったことはすでに書いたけれど、加熱してもその点は変わらないようだ。

 

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……。

 

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うん、いけますねこれは!(背景が汚くて失礼)

驚くほど旨味が強い。というか、旨味以外の味が感じられない。噛んだ瞬間、ビリッと舌から脳を刺激するような、強烈な旨味成分があふれてくるのがわかった。化学調味料を塩と一緒に舐めたらこんな味がするのではないだろうか。

しかしこの旨味、どこかすんなりと飲み込めないものがある。例えるなら、カロリー0の人工甘味料を口にしたときに、普通の砂糖と比べて、なんだか舌にまとわりつくようなもやもやとした後味が残る、あの感じである。旨味は旨味なんだけれど、その背後になんとなく舌が痺れるようなケミカルな本性が見え隠れするのだ。いずれにせよ、自分の体がこの味に対して警戒心を解ききれていないのは間違いないようだった。まあ、毒キノコだと知ってて食べてるからかもしれないが。

噛むたびに引き締まった繊維質のザクザクという食感が歯に伝わってくるのは、天然物のシメジやマツタケに似ていなくもない。

 

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成菌の傘の方も食べる。

 

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美味いんだな、これが。

幼菌に比べて味が丸くなったようだ。味が薄い代わりに、味覚に旨味信号を無理やり叩き込まれているような不自然さがなくなった。食感はフニャフニャニしていて幼菌に劣るけれど、ごく微量だが、旨味以外にもキノコっぽいすえた味があるように思う。

尖がったところがなくなって、その分味に深みが出たのだ。言葉にするとなんだか人間じみているが、きのこの味の感想である。

いずれにせよ、普通のキノコに比べると味が旨味一辺倒の単純なものであることは変わらない。

 

一緒に食べた友人にも感想をもらった。曰く

「うまみに情緒がない。もし無毒でも好物にはならないと思う。あと、少量とはいえ毒を口にした緊張か、なんか疲れる。おいしさには香りとか安心感とか色んな要素が絡んでるんやなとわかった」

そうである。ベニテンを食べることで、安心して食べられる食べ物のありがたさがわかったのなら、苦労して用意した価値があったというものである。

 

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▲そんなこんなで完食してしまった

 

さて、気になる食後の体調だが、食後丸一日たっても拍子抜けするくらいなんともならなかった。幻覚だの腹痛だのいろいろ言われて身構えていたので、ひとまずはほっと胸をなでおろす思いだった。これは、毒抜きが成功したと考えてよいのだろうか。

毒抜きが成功しようがしまいが、大量に食べるのは抵抗がある。毒抜きはあくまでもベニテンの毒素を薄めているだけだからである。だから残ったベニテンは捨ててしまうつもりだったのだが、苦労して手に入れたものなのでもうあと少しだけ食べてみることにした。

 

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こちらは片栗粉をまぶして油で揚げてみたもの。

 

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美味しいんだけどね、なんだか飽きてきたよ。

 

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これが最後の実験。

こんなに旨味が強いなら、お湯を注いだだけでお吸い物になるのでは?という発想を試してみた。うまくいけば、天然のインスタント吸い物を発見したことになるわけだが…。

 

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残念、これはちょっと味のついたお湯だね。

味が薄いのはベニテンの量を増やせばなんとかなるかもだが、いかんせん何の香りもついていない。ちょっと旨味がついただけの、ただの塩水である。実験は失敗に終わった。 

 

 

まとめ

用心のため2日にわけて食べてみたけれど、いずれも体調に変化が出ることはなかった。塩に漬けて毒成分を抜くというのは、間違っていなかったのだと思う。聞いていた通り旨味が強いこともわかって満足なのだが、また食べたいかといわれると特にそうは思わない。美味しいのだけれど、あまりに旨味一辺倒というか、味が単純すぎてすぐに飽きてしまうのだ。それに化学調味料みたいな味だということは、ここまで手間をかけてベニテンを毒抜きせずとも、素直に化学調味料を舐めていればいいということになる。取り立てて栄養があるわけでもない、むしろ食べ続けると肝臓に毒素が蓄積するという話まである。食料が豊富な現代では、怖いもの見たさで食べてみる私のような人間以外は誰も食べないというのも納得である。というわけで、

 

結論:そこまでして食べるほどのものではない 

 

それにしても

 

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「キノコ 食品」でググると栄養成分表の上にベニテンのイメージが出てくるのは……どうなんだ?