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猫とネズミについて

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トムとジェリー』という短編アニメのシリーズをご存知だろうか。登場する主なキャラクターは、タイトルの通りトムとジェリー。トムが猫で、ジェリーがネズミである。

私は、小さい頃このアニメが大好きだった。それはもう、買ってもらったビデオのテープが擦り切れるくらい、何度も何度も飽きずに繰り返し見た。話の内容をほとんど覚えてしまって、次に何が起こるか全部わかるようになっても、それでも楽しく見た。たぶん、今見ても夢中になれるだろう。それくらいよくできたアニメなのだ。このアニメの第一話が放送されたのが1940年のアメリカだったと知って、そらあ戦争も負けるわと思ったのはずっと後の話なのだが、そもそもなぜこんな古いアニメのビデオが家にあったかといえば、親もこのアニメが好きだったからだと思う。

各話の内容はシンプルだ。だいたいの話は、トムとジェリーが追いかけっこをして、最後にトムがジェリーにしてやられるという大筋を踏襲している。トムは執拗に、時に驚くほど残酷に、知略の限りを尽くしてジェリーを追いかけて食べようとするのだが、最後には計略虚しく酷い目に会う。それも、生半可な酷い目ではない。銃で撃たれる、爆発に巻き込まれて黒焦げになる、ギロチンで首を刎ねられるなどなど。

幼い私は、見ていて悔しかった。当時実家では猫を飼っていた。だから、愉快なカートゥーンの中の出来事とはいえ、猫が痛い目に会うのが見ていて辛かったのだ。常にトムの考えの一歩先を読んだようにうまく立ち回るジェリーのことは、憎らしいとさえ思った。そして、飼い猫を撫でながら、猫に追いかけられたネズミが、あちこち逃げ回った挙句にがっぷりと猫の口に捕らえられるところを想像した。

時は流れて、今私が住んでいる古い部屋にはネズミが出る。学生時代からいくつか下宿を移ってきたが、部屋の床をネズミがトコトコと移動する部屋は初めてである。まあ、彼らのすることといえば床に糞をしたり、乾麺の袋を破って中身を齧ったりするくらいで、たいした実害はない。問題は猫の方だ。うちの下宿には猫もよく出没するのだが、こいつらが一向にネズミを捕まえようとしないのである。

自分の住むアパートが猫とネズミの両方が出没する物件だと知った時、忘れていた期待が心をかすめて一閃するのがわかった。大昔に夢見た光景に出会えるかもしれない。トムとジェリーを見て燻らせた、猫がネズミをギャフンと言わせるところを見たいという欲求が叶えられるかもしれないという期待である。

猫たちは、私の放つ思いを発止と受け止めて、矢のように走り稲妻のようにネズミを絡め取ってくれるはずだった。ところがそうはならなかったのだ。猫とネズミは同じ屋根裏にいるはずなのに、相変わらずネズミは部屋に現れたし、猫がネズミを咥えて満足げに見せにくることもなかった。それどころか、猫たちは共用の台所に置いてあった私の食事を盗み食いしたりした。

なんとも情けない話だが、猫にしてみればネズミを追いかけるより人間の食べ物を狙った方がはるかに楽チンであることは間違いない。幻滅もしたが、易きに流されるあたりがいかにも猫的ではある。最近では猫にネズミを捕まえさせることはすっかり諦めてしまって、盗み食いを叱られて以来私のことを警戒する猫たちと仲直りしようと苦心している。