銘菓「砂防ダム」を作る

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毎日、暑い。

うんざりするほど、本当に、暑い。

こう暑いと、「日本の夏」などというどこか趣ある呼称は不似合いだ。最高気温35℃以上を記録した日は、「ナツ」とは区別して「アツ」という第五の季節として扱ってやるべきだろう。

「アツ」バテ気味で横になっていたある晩、ダムを模した菓子を作ってやろうという閃きが突如頭に降ってきた。何を言っているのかわからないと思うが、風鈴が涼しげな音で暑さを忘れさせてくれるように、頭からドバドバと水をぶっ掛けて強制冷却してくれるような、そんなダムのイメージを利用した涼菓が新しい季節にはふさわしいと思ったのである。

 

銘菓「砂防ダム」のできるまで 

一口にダムといっても様々だが、菓子のモチーフには砂防ダムを選んだ。大型の貯水用ダムは山奥まで行かないと見られないが、砂防ダムはちょっとした川などにも設置されている。動物園のライオンと近所の野良猫くらいの違いがあるのだ。新しいお菓子は、庶民的で親しみやすいものであってほしいから、砂防ダムの方が相応しいのだ。

メインの材料には、寒天を使うことにした。何年も前に買った天草(寒天の材料になる海藻の干物)が冷蔵庫のすみに待機していたし、なにより青臭い磯の香りが夏のダムを連想させるからだ。

 

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寒天を流し込んで砂防ダムの形に固めてやるためには、まず原型になるミニ・砂防ダムを作り、そいつを元にして型を作ってやる必要がある。

最初に用意したのは、木の板と紙粘土だ。

(ところで紙粘土のパッケージに書かれた「白くてつよい」というフレーズに読者は何を連想したでしょうか?私はマシュマロマンを思い浮かべました)

 

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 まず、木の板の上に紙粘土を盛り付けて、水の流れやすそうな谷の地形を作ってやる。

 

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ダム本体はダンボールに切れ込みを入れて作る。紙粘土とダンボール、なんとも頼りないダムだ。実際に使ったら1分と経たないうちに溶けてしまうだろう。

 

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砂防ダムの"あの形"に切り出して

 

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何枚か重ねて厚みを持たせた物を谷に埋め込んでやる。

 

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形を整え、紙粘土を水で薄く延ばしたものを全面に塗って、完成。

着工から完成までにかかった時間は約40分。ひょっとすると世界一短期間で完成したダムかもしれない。

 

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原型が出来たので、型をとっていく。

用意したのは型取り用シリコン。

 

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シリコンと硬化剤をよく混ぜ合わせてから、タッパーの中に鎮座するミニダムの上に静かに流し込んでやる。

型取り用シリコンを使って型を取るのはこれが初めてだったのだが、シリコンからカルピスにそっくりの香りがするので驚いた。

 

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そんなこんなで型が完成。

ここから、ようやくお菓子を作る工程が始まる。

 

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この、キツネから出てきた毛玉のようなモケモケが天草だ。

何年も前に和歌山を訪れたときに、旅先の浮かれ気分に任せて大量購入したものの、そもそもそんなに頻繁に使うものでもなく、また寒天や心太が大好物なわけでもなく、余らせていたものだ。冷蔵庫を開けるたびにこいつが視界の端にチラッと写り、後ろめたい思いをさせられていただけに、今回で使い切ってしまえるのがうれしい。

 

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水に少量の酢を加えたもので1時間ほど煮る。

 

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漉した煮汁を型に流し込んで

 

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冷え固まったところを取り出す。

ふむ......絶対になにか失敗をすると思っていたのだが、一度もやり直すことなすんなり仕上がってしまった。

 

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 自重で少し歪んでいる気もするが、砂防ダムの特徴である台形の切りかきもきちんと再現されている。十分に砂防ダムに見える出来と言ってよさそうだ。

 

ダムの目前で、ダムを食べる

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出来上がったお菓子をもって、本物の砂防ダムを見に来た。

どうでもいいのだが、小学校の修学旅行で訪れた淡路島で、牧場の牛を見ながらビーフカレーを振舞われたのを思い出した。

 

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水量が少ないからだろうか、上の窪んだところは乾いていて、壁面に開いた穴から川の水が流れている。

「食べないでー!」と叫びながら泣いている顔のようにも見える。

 

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そんな、ダムの声なき声は無視して、きな粉と黒蜜をそえて食べる。

では、食べ方を紹介しよう。

 

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まず、きな粉をかける。

 

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窪んだところにきな粉が貯まるが、これはダムの底に貯まった土砂を模しているのだ。本物の砂防ダムと同じで、ダム内に貯まったきな粉の量が多すぎると次の工程で苦労することになるので注意が必要である。

察しの良い読者はもうわかったと思うが、ここに黒蜜の川を流してやる。では、その様子を動画で見てもらいたい。

 

黒蜜の粘土が高く、氾濫したらどうしよう......と気が気ではなかった。上流から下流まで問題なく流れてくれて、一安心だ。

この日は例によって非常に蒸し暑く、砂防ダムは市街地から離れたところにあるため周囲には誰もいなかったのだが、菓子の上で目の前の砂防ダムを流れる水の流れがきちんと再現されたことに手を叩いて歓喜した。誰もいなくて良かったと思った。

 

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砂防ダムと銘菓「砂防ダム」のツーショット。

 

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ダムが半透明なので、中に貯まった土砂や水が透けて見える。解説用の模型を見ているようで、とてもおもしろい。

 

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 ダムを見ながら、ダムを食べる。

 

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少しぬるくなっていたけれど、美味しかった。少しだけ涼しいような気もしたけれど、それは目の前のダムがたてる水しぶきの効果だったかもしれない。実際に涼しくなったかどうかはさておき、天草を煮て型抜きして、出来上がったダムの上を黒蜜が流れるところを観察してと、なかなかに楽しい、オリジナルな夏の風物詩ができあがったので満足である。

 

 

 

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