▲テングタケ(有毒)
秋といえばキノコ狩りのシーズンだ。しかし、悲しいかな、「どこそこでキノコ狩りをした人が、誤って毒キノコを食べて病院送りになった」というニュースがインターネットを賑わすのも、だいたいこの季節である。
それもそのはず、人間が問題なく食べられるキノコは、キノコ全体のほんの一握りの種類に過ぎない。さらに言うと、その食べられるキノコを正確に見分けられる人間もほんの一握りなのだ。
そこで思い出したのが、何年も前に読んだ海外のキノコマニアが作った同人誌に掲載されていた、MUSHROOM PAPER(キノコ紙)の作り方である。これなら、誰でも、(手で触っただけで炎症を起こすレベルの悪魔みたいな毒キノコでもない限り)どんなキノコが相手でも遊んでやることができそうだ。
キノコ紙の作り方は、基本的には木から作る普通の紙と同じである。キノコを粉砕して、水で繊維を取り出し、薄く整形して乾燥させるのだ。
折りよく、タマゴタケ狩りをした時に大量の雑キノコたちが手に入ったので、早速試してみた。
キノコを潰して水でふやかす
「我々はキノコである。名はあるはずだが、わからない」
いつもなら図鑑と照合して遊んだりするのだが、鮮度が落ちてもあれなのでまとめてさっさと紙になってもらおう。
これは、テングタケ。こいつをハンマーで潰す。
この永沢くんの頭みたいなやつはエリマキツチグリだろうか。つるつる滑って潰しにくいんだよ!とかいいながら、こいつも潰す。
すべて潰し終えたら、水に漬けて1日くらい放置する。
ミキサーでさらに細かくする
放置完了。
「ひょっとして新しい世代のキノコが生えてるんでは?いや、それとも虫が湧いているかも...」
期待と不安のメルティングポットと化しつつラップを外してみたけれど、表面にちょっと泡が立っているだけであった。ただ、少し臭った。
余計な水を捨て、ふやかしたキノコをミキサーに入れる。
スイッチを入れる。破片の段階ではほんの少しだけ残っていたキノコたちのアイデンティティが一瞬にして混ざり合う。
できたのがこの茶色いドロドロだ。水が減ってキノコ密度が上がったことで、さっきよりも臭いが強くなったようだ。
木枠に張った布で紙をすく
木枠に木綿の布を張ったもの。
さっきまでは絵画用キャンバスとよれよれの下着シャツだったものたちだ。
これをキノコ液の中に沈める。
ナムアビダブ ナムアビダブ...。
ドポーン。
木枠を軽くゆすってキノコ液が均一に行き渡ったら、引き上げて水分を落とす。
水滴が落ちなくなったら、木枠から布を取り外す。
表面がふつふつと泡立っている。それになんだかプルプルしているが、大丈夫だろうか。そしてまた臭いが強くなったような...。
平らに伸ばす
たしか、参考にした本では、布に張り付いたキノコ紙(になる予定のプルプルした物体)を紙の上に伏せ、上から麺棒などで均して平らにせよと言っていた。
一抹の不安がよぎったが、初回なのでとりあえず従うことにした。
木製の麺棒はキノコの汁が染みこみそうで嫌なので、不要なガラス瓶で代用。
コロコロと転がしてやる。
あわわわわわわわ!
インターバル
書いていて息が詰まりそうになってきた。きれいな写真を見て少し休憩しよう。
※以上、すべて北海道で撮影
今度はそのまま乾かすことに
キノコ液を全部流してしまってなかったことにしようかと思ったけれど、せっかくここまでやってきたのだからと自分に言い聞かせて再度やり直した。こういう状態を心理学用語でコンコルド効果と言うそうだ。
ともかく、あふれ出たドロドロを可能な限り回収して、木枠に布を張りなおし、同じように紙すきをして水を切るところまでは同じだ。
今度は、上から均すのはやめて、木枠から外して伏せた状態のまま乾燥させることにした。
2枚作って、海苔みたいにして干す。
布と紙を取り除く
干した。なんとかここまできた。
余談だが、干している途中、臭いにつられたナメクジが寄ってくるなどして、一層げんなりさせられた。
挟んでいる布と紙を取り外す。周辺部は破れやすいけれど、意外にしっかりしている。
完成...?
紙というよりは昆布に近いものが出来上がった。こいつに字や絵を描くには、白いインクが必要だろう。
......。
臭い!
まあ、なんだ、予想通りだね!
まとめ
キノコ紙を作り始めたときは、最後はできた紙できれいなポストカードなどを作って、それで記事のオチにしようと思っていた。そのような希望は、工程のかなり最初の方で砕かれていたのだが、それでも一キノコ好きとして、キノコからできた紙がどんなものになるのか見届けたかったから、最後まで完成させた。
そして完成したものを前にして思った。
「こんなもの、何に使えばいいんだ!」
こげ茶色でよれよれで、しかも臭い。とても臭い。触った手も臭くなってしまう。ポストカードにすれば、嫌がらせの道具にはなるかもしれない。
少なくともこのやり方には何か致命的な欠陥があるようだ。やり方次第ではもっとよいものになるのかもしれない。でも、もう一度やる元気はないので、誰かに任せたい。
切れ端を濡らしてみた。水を吸ってボロボロになるかという予想に反して、意外な耐水性を発揮した。しかし、だからといって使い道は思い浮かばなかった。