イカのスニーカー、スニ“イカー”を作ってみた

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”ハト”ヒールを作った乙幡啓子さんが、今度はアヒールを作ったという記事(詳しくは、この記事の一番下に載せた参考記事を参照)を読んだ。それで、「私もなんか作ってみたい」と思ったのが1月の中旬。図書館に本を返しに行く途中、自転車を漕ぎながら、突如頭に「スニ”イカ”ー!!!」という閃きが降ってきたのが節分の少し前のことだから、だいたい2週間もの間、心の片隅で履物と動物のマッチングをしていたことになる。

スニーカーとイカ、言葉の上ではうまくかぶっている。形も、両方ともどちらかと言う と長細い形状なので、なんとか改造できそうだ。考えれば考えるほど、悪くない思いついきのように思えてきた。

 

まず確かめるべきは、先駆者の有無である

イデアが出てきた直後の興奮状態が過ぎ去ると、誰かが既に同じことをやってしまっているのではないか?という不安が湧いてきた。たしかに、「イカの形の靴を作ってみみました!てへ!」というネタは、すでに存在していてもおかしくはない。きちんと下調べしておかないと、二番煎じや、最悪パクリのそしりを受けかねないのだ。

 

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試しに『イカ 靴』で検索してみると、主に「スプラトゥーン」のキャラクターに履かせる靴の画像が出てきたので、深夜1時に一人でガッツポーズを決めた。私の経験では、ネタから連想するワードで画像検索して、それっぽいものが出てこなければ、そのネタはブルーオーシャンかそれに近いものであることが多いのだ。

なお、念のため『タコ 靴』で検索すると、こちらは足にできたデキモノの画像で画面が肌色に染まってしまい、別の意味で面食らうことになった。

 

 スニイカーができるまで

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申し訳程度に完成予想図を描いてみた。

こんなラフ過ぎるラフ画でも、頭の中でイメージを固めるためには有効なのだ。

 

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 そしてこれがベースになるスニーカー。

「安い」「白い」「ハイカットじゃない」を条件に探した結果、税込み1000円くらいで買えるこいつにたどり着いた。関係ないのだが、まるで塗り絵の世界から飛び出してきたみたいな白一色の靴は汚れがすごく目立ちそうで、これを普通に靴として使う人のことを思うと胸がざわついた。

 

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さて、作業開始だ。

まずは、発泡スチロールでイカのてっぺんの尖った部分を作ってスニーカーに貼り付ける。

当初はスタイロフォームを使うつもりで、近所の画材屋に買いに行ったところ、なかなかに高価なものであることが判明した。材料にあまりお金をかけたくなかったので、スタイロフォームは諦めて、道を挟んで向かいにあったスーパーの鮮魚コーナーで発泡スチロールをもらって帰ってきた。

鮮魚コーナーの発泡スチロールの箱は、もともと魚が入っていた物なので少し生臭かった。普段なら残念な気持ちになるところだが、この場合ならより「イカらしさ」が増そうというものだ。

 

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こんな感じで装着する。

話が逸れるが、筆者は先の尖った靴があまり好きではない。むしろコッペパンのように自然な、ふっくらとした丸みを帯びた靴先を愛する者であるのだが、まさかこんなド鋭角な靴先の靴を所有する日が来るとは思いもよらなかった。

 

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目や足といったパーツを固定する位置を鉛筆で書き込んでおく。

 

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靴底などの、イカの体にならない部分は、全部まとめて海の青色で塗ってしまう。

 

ここからの工程で活躍するのが、白いフェルトだ。イカの体を構成する各種パーツを、フェルトでひたすら作っては組み付けしていくのである。

 

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まずは脚だ。触腕(全部で10本あるイカの脚の中でも、特別に長い2本の触手のこと)以外の脚をフェルトで作る。全部で8つも作らないといけないので大変だ!なので、同じ形に切った2枚のフェルトで針金をサンドするだけの簡単な構造に。針金を中に仕込んでおくことで、脚を自然な形にしならせることができるのだ。

 

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出来上がった脚は、しっかりと位置を決めてボンドで固定する。

 

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 脚を固定するボンドが固まったら、脚の付け根を覆うようにして頭のパーツを取り付けた。靴紐の上にもやもやとまとわりついているのは、適度な膨らみを持たせるためにのせた脱脂綿だ。

ここまできて、「あ、これいいものができるな」と直感した。まだ半分くらいしかできていないのに、すでにイカらしさを隠しきれていない。

 

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イカの体で一番大きな、あの輪切りにしてイカリングにするパーツは、外套膜(がいとうまく)という。そのフォルムは、まるで中国の古い水墨画に出てくる頭が異様に縦に長い仙人みたいで実に賢そうに見えるのだが、あれは頭ではない。目のついているあたりがイカの頭部で、脳もそのあたりにあるのだ。外套膜の中には消化器官なんかが詰まっているだけである。もしあの大きなスペースにぎっしり脳が詰まっていたのなら、人類は今頃イカの奴隷になっていたかもしれない。

 

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外套膜のパーツを切り抜いて固定しているところ。大きいので、ボンドが乾くのに時間がかかる。

 

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乾くのを待つ間に、目を作る。

手ごろなサイズのボタンに銀色のアクリル絵の具を塗り、黒い瞳を書き入れる。

 

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直接本体に縫い付ける予定だったのだが、固くて縫えないので、まず丸く切り出したフェルトに縫い付けてからボンドで固定することに。

 

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結果的に目の飛び出しが強調されていい感じになった。

 

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触腕も他の脚と同じ容量で作るのだが、目立つパーツなので、ここだけは吸盤を再現してみた。めんどくさいが、こういう細部にこだわることで出来栄えに雲泥の差が生まれるのだ。

 

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最後の仕上げ。あの、特徴的なヒレの装着だ。

 

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シャキーン!

 

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完成!

自分で言うのもなんだけど、とても良いものが出来上がってしまった。

イカの特徴を押さえつつ、適度にデフォルメされた姿が可愛くてしかたない。興奮してあれこれ角度を変えながら写真を撮りまくった。

作品が完成したら、もっとも見栄えの良い構図を見つけるために、あれこれ向きを変えながら自分の作ったものを撮影するのは、立体作品を作る人ならみんなやっていることではないだろうか。

 

さて、右足は完成した。初めの予定では、ここから左足用のスニイカーを作るつもりだったのだが、作ってる途中から「これ、同じのをもう一個作るのはちょっと気力がもたないぞ」という感じになってきた。

最初の一つを、手探りで作っていくのは面白い。が、同じものをもう一つ作るのは単なる反復作業だ。製作にそれなりの手間がかかるだけに、どうせならちょっと違うものを作りたい。

 

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というわけで、急遽、赤いフェルトを買い足して左足はタコにした。

8本の脚全てに吸盤を取り付けるという贅の尽くしっぷりを見てもらいたい。穴あけパンチでフェルトを切り抜いて作った吸盤を、ボンドで触手に貼り付けるという作業を160回繰り返していると、飽きてくるのやら眠いのやらで魂が塩水になって鼻の穴からこぼれ落ちそうになったが、苦労に見合うタコっぷりに仕上がったので結果オーライだ。瞳をきちんと縦長にしたところもポイントだ。

 

 お笑いコンビ、名付けて「軟体スニーカーズ」結成

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出来上がった二つを並べて置いてみた。第一印象として「なんだこいつら、お笑いコンビかよ」と思った。二人揃うと紅と白が揃ってなんだかおめでたいし、何より顔つきがひょうきんだからだろう。

せっかくだから、コンビ名を授けてやることにした。軟体動物でスニーカーだから、その名も、「軟体スニーカーズ」だ!

 

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私の妄想では、イカのスニイカーはボケ担当である。ここ一番の持ちネタは、網の上に横たわって「イカ焼き〜〜〜」と叫ぶ自虐的な芸。

 

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対して、タコはツッコミ役に違いない。「焼かれてどないするねん!」などとツッコミを入れて会場を沸かせるのだ。時には相方に墨をぶっかけるなど、体を張った容赦ないツッコミもお手の物だ。

しかし、筆者は知っている。タコは、自分が「スニ“イカー”」というネタの副産物として作られたことを知っていて、内心ではそのことにコンプレックスを抱いているのだ。

このままではかわいそうなので、筆者もタコとスニーカー(もしくは靴)をかけたダジャレを考えたのだが、何も思いつかなかった。苦し紛れに、語呂が良いというだけの理由でタコさんスニーカーと呼ぶことにした。

 

さて、妄想はこのくらいにして、いよいよ彼らを履いて屋外に飛び出てみることにしよう。

 

気に入った靴ほど、履いて外に出るのが惜しくなるというジレンマ

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「彼らを履いて飛び出てみよう」とは言ったものの、実際はなんだか外に履いて出るのが惜しくなってしまった。完成したものが予想の頭一つ分上の出来栄えだったので、汚してしまうのが勿体無いような気がしたからだ。

 

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そうは言いつつ、履いてみないわけにもいかない。日本では、靴は家の外で履くものと決まっているのだ。できるだけ汚れのつかなさそうなところで、サクッと試着することに。

 

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足を突っ込む瞬間、タコさんスニーカーが不安な感じの変形をしたので、思わず一度足を引っ込めてしまった。普段意識していなかったけれど、靴を履くとき、履かれる靴はかなり変形しているのだ。ちょっとだけ申し訳ない気持ちになった。物を擬人化すると、大切に使ってもらえるようになるというのは、本当やったんやね......。

 

履き心地は決して良くはない

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ともかくも、履いてみた。ボンドで外周を固めたからだと思うが、少しきつい。ワンサイズ上にすればよかった。軟体スニーカーズ、ぜんぜん軟体じゃない...。

 

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問題は他にもあった。足を前に出すたびに、内側に突き出た互いの触手がパサッ、パサッとぶつかり合う。まるで一歩進むごとにイカとタコがハイタッチをしているようで、歩きにくいことこの上ない。コンビ仲が良いのは素晴らしいことだとは思うのだが、少しは靴としての自分たちの立場も考えてもらいたいものである。

以上のようなことがあって、イカやタコは、履いて歩くのには全く適したデザインとは言えないことが明らかになった。歩きやすさを求めるなら、ウミウシあたりを模倣するべきだったのだ。

 

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「もともと履いたときの快適性なんか全く考慮してへんかったやろ!」

すかさずタコさんスニーカーがツッコミを入れる。図星である。

「そ、そうですけど......」

返事を濁すしかない。

 

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階段を上っているときにふと考えた。

イカやタコのように、頭から直接足が生えている生き物をまとめて頭足類という。しかしこいつらは、足が生えた頭の上に、さらに私の足を載せている。なので、既存の頭足類と区別して足頭足類と命名してやるのが適当なのではないだろうか?

なんてこった......ほんの冗談のつもりが、うっかり新しい生物のグループを生み出してしまった。おかしなものを履いて歩いていると、おかしなことが頭に浮かんでくるものである。

 

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黒猫がいたので、怖がらせないように脱いだタコさんスニーカーを近づけてみた。ひょっとして本物だと思って噛み付いてくるのでは......でもそんなことされたら壊れちゃうなという、期待:不安=3:7くらいで見守っていたのだが、一瞥をくれただけですぐに走って逃げてしまった。

 

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履き心地もわかったので帰ろうとしたところに雨が降ってきたので、ひとまず屋内に退避することに。

話しかけてくる人こそいなかったものの、遠目にチラチラと見られているようでなんだか恥ずかしい。見た人が、単なる紅白の靴ではなく、イカとタコだと認識してくれたのならよかったのだが......。

 

履き心地はお世辞にも良いとは言えない。さらに、これを履いて公衆の面前を堂々と歩くには、そこそこの勇気が必要であることも実感した。しかしそんな欠点を補っても、こんなに愛着の湧くものを作ったという一点で、筆者は彼らを創造してよかったと思った。

さらに言うと、パリコレの......いや笑わずに聞いてほしい。パリコレで披露される衣装を調べて見てみてほしい。それらが実用的に見えるだろうか?自分で着て街を歩きたいと思うだろうか?(ファンの人すいません)実用性が低く、着て歩くのもちょっとなあ......というようなものがファッションの先端であるなら、軟体スニーカーズもその仲間に入れてやってもよいのではと思わずにいられないのである。

 

おまけ

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こんな感じにするとすごく映える。

 

 参考

この記事は、下記の乙幡啓子さんの記事に触発されて書いた。材料にフェルトを使うという発想も、これらの作品から拝借したものだ。いつものように石粉粘土を使った作品に仕上げていたら、足を入れた瞬間に粉々になってしまい、泣き崩れていたことだろう。ありがとうございました。

 

 

 

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