2022年6月某日
夏野菜が値崩れしている。
私がよく買い物に行く商店街では入り口のところに露店の野菜売りがでていることがよくあるのだが、そこではなんとたくさんの大きなきゅうりが段ボールに押し込められて、一箱200円で売られていた。もはやヤケクソの投げ売り状態である。つくづく農家は大変だ。
ひとしきり悩んでから、買うことにした。
値段こそ安いもののきゅうり達はどれも青々としていて張りがあり、すぐにダメになってしまうようなものではなさそうだった。万一食べきれなくて無駄にしてしまったとしても、1本あたりの値段を考えれば諦めのつく範囲だと思った。それに、私はきゅうりが好きなのだ。
お金を払ってきゅうりを箱からカバンに移していると、隣に立っていた若い男が同じようにきゅうりを物色し始めた。
「バラ売りはしてないんですか?2〜3本あればいいんだけど......」
話し方から、アジア系の留学生だろうと思った。
あいにくバラ売りはしていないようだった。
私は、この男にきゅうりを2本ほど進呈することにした。
山ほどあるうちの2本だから見知らぬ人にあげてしまっても惜しくはない。そもそも消費し切れるかもわからないし。我ながらみみっちい親切心である。
男は「ありがとうございます」と言ってきゅうりを受け取った。きゅうり2本に対する礼としては不釣り合いなくらい神妙な発音の仕方が、日本語にまだそれほど馴染んでいないという感じがした。喜んでくれたようで嬉しかった。
ここまではよかった。
きゅうりを受け取ったその男は、なんと次の瞬間「じゃあ、これください」と言って別のきゅうりの一山を自分のカバンに詰め始めたのだ。
あれ、2、3本でよかったんじゃないの?一箱買うなら別にあげなくてもよかったんじゃ......。
そう思って八百屋の親父の方を見ると、この遣り取りを見ていた親父も同じような感想を抱いたらしく
「俺もそう思ったんだけどねえ。なんだかごめんね」
と言って、きゅうりをつめる男を挟んで二人の間には微妙な空気が流れたのだった。
もやもやしたので記す。
家に帰ってから数えたら、きゅうりは全部で28本あった。あんまり多いので上記のもやもやは吹き飛んでしまった。