きゅうり

2022年6月某日

 

夏野菜が値崩れしている。

私がよく買い物に行く商店街では入り口のところに露店の野菜売りがでていることがよくあるのだが、そこではなんとたくさんの大きなきゅうりが段ボールに押し込められて、一箱200円で売られていた。もはやヤケクソの投げ売り状態である。つくづく農家は大変だ。

ひとしきり悩んでから、買うことにした。

値段こそ安いもののきゅうり達はどれも青々としていて張りがあり、すぐにダメになってしまうようなものではなさそうだった。万一食べきれなくて無駄にしてしまったとしても、1本あたりの値段を考えれば諦めのつく範囲だと思った。それに、私はきゅうりが好きなのだ。

 

お金を払ってきゅうりを箱からカバンに移していると、隣に立っていた若い男が同じようにきゅうりを物色し始めた。

「バラ売りはしてないんですか?2〜3本あればいいんだけど......」

話し方から、アジア系の留学生だろうと思った。

あいにくバラ売りはしていないようだった。

私は、この男にきゅうりを2本ほど進呈することにした。

山ほどあるうちの2本だから見知らぬ人にあげてしまっても惜しくはない。そもそも消費し切れるかもわからないし。我ながらみみっちい親切心である。

 

男は「ありがとうございます」と言ってきゅうりを受け取った。きゅうり2本に対する礼としては不釣り合いなくらい神妙な発音の仕方が、日本語にまだそれほど馴染んでいないという感じがした。喜んでくれたようで嬉しかった。

 

ここまではよかった。

きゅうりを受け取ったその男は、なんと次の瞬間「じゃあ、これください」と言って別のきゅうりの一山を自分のカバンに詰め始めたのだ。

あれ、2、3本でよかったんじゃないの?一箱買うなら別にあげなくてもよかったんじゃ......。

そう思って八百屋の親父の方を見ると、この遣り取りを見ていた親父も同じような感想を抱いたらしく

「俺もそう思ったんだけどねえ。なんだかごめんね」

と言って、きゅうりをつめる男を挟んで二人の間には微妙な空気が流れたのだった。

 

もやもやしたので記す。

 

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家に帰ってから数えたら、きゅうりは全部で28本あった。あんまり多いので上記のもやもやは吹き飛んでしまった。

タガメ

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小学生の頃、家でタガメを飼っていたことがある。

タガメといえば日本最大級の肉食水生昆虫で、生きた魚やオタマジャクシなどしか食べないため飼育にはそれなりに手間と予算がかかるのだが、ともかくそんな贅沢な虫を飼育していたのである。

学校から帰宅すると、まずトイレに直行する。タガメの水槽はトイレの物入れの上に置かれていたからである。

前日に入れたエサ用の小赤(金魚掬いに使われる小さくて赤い色をした金魚。とても安価)が体液を吸い取られてぺにゃぺにゃになって水面に浮かんでいるので、「よしよし、今日もちゃんと食べているな」などと言いながらその吸い殻を掬ってトイレに流し、代わりに新しい小赤を投入する。何日かに一度は濁った水を入れ換えてやる。

タガメたちは、最も長生きしたものでたしか2年くらい生きたと思う。

ろくに温度管理もされておらず、小学生が雑に管理する水槽でなぜ越冬できたのかはいまだにわからないが、ともかく冬を越え、一度は産卵をし、そうして天寿を全うしていった。生まれた卵が孵化する前にカビが生えて全滅してしまったのは、今でもどうすればよかったのかと悔やまれるところだ。

タガメを採集した溜池は、数年後に訪れた時には埋め立てられて跡地には製材所ができていた。

 

先日、そんなタガメと久々に再開する機会に恵まれた。

遠方で仕事をした帰りに、同行者が

「この近くにタガメのいる池があるんだけど、寄ってみる?」

と提案してきたのである。

タガメの池は、過疎化で人が済まなくなった地域の山中にぽつんと残されていた。夜中に訪れたのであたりは真っ暗だった。懐中電灯で照らすと、水面が楕円形のジュンサイの葉にびっしりと覆われているのが見えた。

胴長を着て池に入ってものの5分ほどでタガメは見つかった。

網を持ってきていなかったので手づかみで捕まえるしかない。幸いタガメは体が大きく、泳ぎのペースもゆっくりとしているので、素手でも簡単に捕まえることができる。

「やった、捕まえた!」

喜んだのも束の間、体重をかけていた左足が猛烈な勢いで池の底の泥に沈み始めた。

「うわ、沈む!」

なんとか姿勢を取り直して沈下を止めたけれど、しばらくは池の中で胸の近くまで水につかりながらドキドキしていた。でも、この興奮のもとはほとんどがタガメにまた会えたことによるものだと思った。

タガメには、泥に沈んで死にかけてでも会いに行きたいと思うだけの魅力が、私にとってはあったのである。

 

 

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ウィーン自然史博物館で系統樹を巡る(ドイツとその周辺の旅行記②)

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台湾を出発して、ときおり乱気流に揺られること10数時間、ついに花の都へやってきた。

もともとの予定ではドイツ以外の国に行くつもりはなかった。でも、ウィーンには確かすごく大きな自然史博があるし、街は綺麗だし、ちょうど友達が長期滞在してるし、ドイツの隣だし......なんやかんやと考えているうちにすっかりその気になってしまったのだ。

国単位で寄り道ができるなんて、大陸国家はなんて便利なんだろう。

 

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台北発ウィーン行き飛行機では、非常口横でフライトアテンダントのお姉さんと向かい合わせになった席に座った。

「不時着したら非常口を開けるのを手伝ってもらうかもしれないから、そのつもりでいてね」

なんて物騒なことを言われたけれど、その代わり座席の前が通路になっているので好きなだけ足を伸ばすことができる。エコノミークラスの中では特等席である。

 

「最近は、日本のパスポートを持ってても入国審査であれこれ質問されることがあるけど、挙動不審にならないようにね」 

 というような趣旨のことを出国前に言われて戦々恐々としていたのに、だるそうな表情をした入国審査官は、こちらが

「グーテンタック」

と挨拶したのに、ひとことも喋らずパスポートにハンコを押して突き返した。早朝の到着だったから、夜勤明けで早く帰りたかったのかもしれない。

 

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空港から市中心部へ直通している電車。

券売機が紙幣やカードをなかなか認識してくれず、切符を買うのに20分近くかかった。疲れた。

 

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電車が地上に出た。見渡す限り真っ平らである。山だらけの国に住む者としては非常に新鮮な光景。 

 

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電車の中でまとわりついてきた蜂。ヨーロッパで最初に遭遇した、記念すべき(人間以外の)生き物なので、丁重に記念撮影をした。 

 

自然史博物館に入る

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地下鉄を乗り継いでしない市の中心部まで出てきた。

この、とてつもなく立派な建物がウィーン自然史博物館。今日の予定は、こいつを隅々まで見学することだ。

 

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マリアテレジア像を挟んで真向かいには、外観がほぼ同じ美術史博物館が建っている。さすが、シンメトリーを愛するヨーロッパ人だ。

ただ、間違える人が続出したから自然史博物館の方には入り口の前に象のブロンズ像が置かれていて、子供達の遊具になっていた。

 

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受付でチケットを買って中へ。外見同様、建物の中もすごい。威圧的とも言えるほどの装飾で柱や壁面や天井が埋め尽くされているのだ。たぶん一つ一つの装飾に意味があるんだろうけど、全部を見ていたら上を見上げた状態で首の関節が石みたいに固まってしまうだろう。

 

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 建物中央のドームを下から見上げたところ。どこを切り取っても対称で、まるで万華鏡を覗いているよう。

 

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展示室に入る前にドームの下のカフェで養分を補給した。いざ、観覧。

 

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 生物の分類ごとにおおまかに展示が分けられている。はじめは微生物や寄生生物、次に棘皮動物や軟体動物、節足動物、魚類、両生類......と続いていって、最後が哺乳類だ。系統樹の枝分かれした先を、だんだん人間に近づいていくように歩いていくのである。

頭と尻の区別もないような生き物からはじまって、それらが目を得て、節を得て、だんだん「こっちの方」に近づいていくのを見るのはなかなかに感動的だ。もちろん、哺乳類から初めて逆回りに見て周ってもいい。

いずれにせよ、どの部屋も、展示の数も見せ方も展示物そのものも素晴らしくて、一つ一つの標本の前で立ち止まってしまうので、遅々として前に進めなかった。

写真や文では実際に展示室を歩いた時の感動を1000分の1も表現できなくてもどかしいけれど、数ある展示の中から「お!」と特に気を惹かれた物達を紹介していこう。

 

微生物・寄生生物

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皮膚病にかかった犬の剥製。肋骨が浮いていい感じに衰えが再現されててすごい

 

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ネズミを捕食する狐。こうして寄生生物や病気が広まっていくわけやね

 

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カマキリやオサムシと、体内から出てきたハリガネムシ 

 

棘皮動物・軟体動物

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めちゃくちゃ棘が太い、パイプウニの仲間。ここまで太いと、刺さる心配がないからかえって安心。

 

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テヅルモヅル!テヅルモヅルですよみなさん!

隣にいた白人のカップルが「気色悪い生き物だわー」みたいなことを言っているのを聞いてしまい、「ええ!こんなに美しくて魅力的な造形なのに!」と弁護したい気持ちになった。

 

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イカをアピールしたい気持ちが、展示ケースを飛び出して壁面や頭上に吊り下げられた模型にまでほとばしってしまったと思しき一角。

 

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イカの解剖標本。すごく丁寧な仕事!

 

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子供達向けのレクチャーが催されていた。幼少期からみっちりと教育して、生き物好きのサラブレットを育成しようという心算ですよ、きっと。

 

節足動物

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カニやムカデ達

 

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めちゃくちゃ立派なテナガエビ。これに限らず、おおむねすべての標本が、そのサイズにジャストフィットするような容器に入れられていて、その細を穿った手のかけように感心する。

 

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昆虫の部屋。大きな昆虫の模型がそこかしこに配置されていてワクワクする。

 

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古風な展示ケースの中に、生息地から転送されてきたかのような環境展示が。

 

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切り出した葉を運ぶハキリアリや、その巣に穴を開けて舌を突っ込むセンザンコウも全部本物で再現されている。もちろん実際にはここまで多くの生き物が一同に会することはまずないだろうが、そこは図鑑的演出。作り込みがすごすぎて気が遠くなりそう。

 

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一番感動したのがこれ。透明のパネルを1枚渡しただけで、ちゃんと水があるように見える。

 

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普通の標本も、もちろんたくさんある。

 

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これは、蛾とその幼虫と、食草を一つ所にまとめた展示。

 

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日本固有種のマイマイカブリも揃えられていた。遥々ここまで運ばれてきたのだね。

 

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巨大なヤゴやゲンゴロウヘラクレスオオカブトの模型が、古風な内装にまた不思議とマッチしているんだ、これが。

 

魚類

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これまでとは一変して、改定をイメージした暗い照明。

 

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サメの頭骨。パシフィック・リムのKAIJUっぽさがある。

 

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シーラカンスの実物も置いてあった。

 

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展示ケースの上に海底探査機の模型があり、チカチカとライトが点滅していた。展示も内装も重厚なので、ところどころに置かれた遊び心のある演出が映える。

 

両生類・爬虫類

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オオサンショウウオと、コーカサス出身のヒレがすごくかっこいいサンショウウオ

 

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この辺になると、体サイズの大きなものたちが増えてくるので、必然的に展示ケースの使い方も大胆になる。

 

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カメレオンの骨格と剥製。皮膚の色がすごく綺麗。普通、剥製にすると皮膚の色は褪せてしまうので、上から顔料で着色しているのかもしれない。

 

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大きなカメの骨格。

 

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小さなウミガメの液浸標本。かわいい。

 

鳥類

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ひたすら、展示ケースの中に鳥が並んでいる。剥製としての出来はだいたい良いのだが、ときどき「?」と思う物も混ざっており、裏方の職人の苦労がしのばれた。

 

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ミミズクとハシビロコウ

 

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VIP待遇で展示されるオナガドリ。尾の長さに合わせて設えた専用ケースをわざわざ作ったのだろうか?

 

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鳥の舌骨(舌の付け根のあたりの骨)のコレクションですってよ。綺麗なケースに行儀よく並べられたその様子は、なんだかお金持ちが所蔵するアクセサリーのコレクションのよう。

 

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とにかく数が多い小鳥の標本。

 

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 アオショウビン。アカショウビンは何度か見たことがあるけれど、青い兄弟分がいるとは知らなかった。

 

哺乳類

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ようやく哺乳類の展示に入った。初っ端からとばしてる。

 

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ただただ可愛らしいカモノハシ。

 

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大型哺乳類が一同に会する広場。中には、なんと100年以上前からここに置かれている標本もあるとのこと。博物館という場所の時間スケールの大きさを感じさせる。

 

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なので、今は亡きステラーカイギュウの骨も当然のように置かれている。

 

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似ているようでみんな全然違う。

 

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「走ってるチーター!え、浮いてる?!」

と驚いてよく見たら、右前脚のつま先のあたりでわずかに接地していた。しかしすごい躍動感だ。

 

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最後の締めはやはり霊長類でした。 

 

広すぎて、1日で全部をちゃんと見るのは無理

現生生物の展示室をすべて見学し終えて気がついたのだが、ウィーン自然史博物館はとにかく展示物の密度がすごい。特に鳥の展示室などはそうで、所狭しと標本が並べられている。「お客さんが疲れちゃいけないから、程よく展示物の数を減らしましょう」などという、ゆとりな発想はここにはない。『展示物の数が多いこと=正義』なのである。

哺乳類の展示を見終わる頃には疲れてヘロヘロになっていたのだが、驚くことにこれでも博物館全体の半分を見たにすぎない。現生生物の展示はすべて2階にあるので、1階部分にはこれと同じ広さの古生物や、地学や鉱物なんかの展示が残っているのだ。

体力も時間も残り少ないので、もったいないけれど残りの展示はサッと見て回ることにした。

 

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鉱物。これも、とにかく数がすごい。

 

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ヨーロッパの有名な建築に使われた石材の標本。

 

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大型肉食恐竜の模型。考証的な正しさは一旦横に置くとして、やっぱり恐竜は羽毛が生えていない方が断然かっこいい!

油断できないことに、背後に写っている小型恐竜の模型には羽毛が生えている。遠からず、手前の恐竜も羽毛ありのものに置き換えられるかもしれない。

 

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何が可笑しいのか説明できないけれど、見ていて笑いがこみ上げてきた置物。

 

宿を求めて郊外へ

初日からヘビーな見学をしてしまい、お腹いっぱいの状態で地下鉄を乗り継ぎ郊外の宿へ。

 

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観光地化していない住宅地の街並みも日本と全然違って、今更ながらヨーロッパにきたんだという実感が湧いてきた。 

 

 

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近場のスーパーで適当に買ってきたパンやチーズで夕飯を。こちらでは、温かい料理を伴わない夕飯は珍しいものではなく、カルテスエッセン(冷たい食事)と呼んで温かい食事と区別するそう。つまり初日からドイツ文化を堪能したというわけやね(レストランを探すのが面倒だったとも言う)

 

 

 

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台湾桃園空港の柿WiFi(ドイツとその周辺の旅行記①)

4月末から5月末にかけて、一月くらいドイツとその周辺を回ってきたので、その時のことを書いていこうと思う。

なんせ行程が長いので、日本に帰ってくるところまで書き終わるのがいつになるかわからない。途中で嫌になってやめるかもしれない。

それでも構わないよという人は、読んでほしい。さらに気に入ってファボってくれたりすると、途中で投げ出す可能性が少しだけ下がろうというものだ。

 

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高価な直行便は使えないので、台湾桃園空港で乗り継ぎ。およそ8時間、檻に入れられた動物のように空港の中を徘徊して過ごす。

「FREE WiFi」と書かれた柿の形の看板を見つけた。なぜ、柿なのだろう?

 

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夕飯に食べた麺と、豆腐の上に氷とタピオカと甘く煮たピーナツがかかったお菓子。どちらもすっきりとした味付けで美味しい。

ああ、なんかこのまま台湾でしばらく過ごしたいな......などと後ろ髪を引かれたりしているうちに、ウィーン行きの飛行機の搭乗時間になった。10時間以上のフライトは苦痛でしかないけれど、それをやり過ごせば、初めてのヨーロッパだ!

 

 

 

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水を吐くフグの急須を作った

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「水を吐くフグ」を覚えているだろうか?
そう、今年の春先に、主にTwitterでブレイクしたあいつだ
私も、そのブームにあやかろうと彼の形を模した急須を作った。しかし直後に長旅に出るなどしたため、記事を書くまでに2ヶ月近くかかってしまった。
盛者必衰。ほとんどの話題がセミの羽化後寿命よりも早く去ってしまうのがインターネットの掟だ。
もはやフグが話題に上ることはほとんどないけれど、ここでお蔵入りにしてしまうと
「ああ、あの時作ったフグの急須、結局公開しなかったんだよな......」
と桜が咲くたびにフラッシュバックするに違いないので、謹んでここにお披露目しておきたい。
  

麺つゆを吐くフグ

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「急須」のつもりで作ったのだが、最初に吐かせたのは麺つゆである。完成したのが昼飯時だったからだ。

ぶっつけ本番でうどんにかけるのはちょっと不安。ということで試しにコップに注いでみたところ、出てきた麺つゆからあからさまな悪臭がした。どうも、口の周りのニスの乾きが甘かったようだ。

中に入れた麺つゆを一旦全て捨て、1時間ほど天日でよく乾かす。まったく、毒のあるところまで再現しなくてもよいというものだ。

 

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安全を確保して、いただきます。

 

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フグの両脇を両手でしっかりと持って、うどんの上で一気に傾ける。思い切りが悪いと麺つゆが注ぎ口を伝って下にこぼれてしまうから、勢いが大切だ。

どうだろう、この注ぎっぷり!

 

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ただ、ちょっとつゆの量が多かったかも。

 

ギャラリー(?)の大勢いるところに来た

うまく注げたことに気を良くして、次は急須としての本分を果たすべくお茶を淹れることに。

理想を言えば、人前に出して反応をもらいたいところである。しかし、正直に言うとこれを持って街に出るのはなんだか恥ずかしい。若干流行を外しているだけになおさらである。

 

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代替案として思いついたのが彼ら。

うちから自転車で行けるところにある、ただただ信楽焼のタヌキがたくさん整列しているスポットだ。

以前に一度だけ訪れた時の記憶を頼りにここまできたのだが、着いてタヌキを見て、やはりここにきて正解だと思った。

それは、タヌキたちの 

 

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クリクリとした丸い目とか

 

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ツンと突き出た鼻と口が

 

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ちょっとこいつに似ていると思ったからだ。

「類は友を呼ぶ」の法則がまた発動してしまった。あなおそろし。

 

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横になるとお腹の丸みが強調されて、なおさら似てる。

 

茶を吐くフグ

ギャラリーは揃った。早速茶を淹れていこう。

 

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持参したティーパックを使う。

 

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魔法瓶から湯を注ぐ。

余談だが、このフグ急須は発泡スチロール+石粉粘土で形を作っているため、普通の急須と比べて極めて保温性が高い。冬場なら重宝しそうだが、この日は暑かったため、ありがたくない誤算であった。

 

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背ビレはティーパックの紐を結んでおくのにちょうど良かった。こっちは嬉しい誤算。

 

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ドバー!

 

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こちらは正面から撮影。

ドバババー!

 

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静止画でも一枚。なんだか美しい。

 

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シンガポールマーライオンがもっとも有名だが、「口から水を吐く動物」は世界中で噴水のモチーフに使われている。人類は、動物が口から水を吐いているのを見ると和むのだろう。「水を吐くフグ」にみんなが夢中になったのは必然であった。

 

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ギャラリーの視線も、心なしかこちらに向いている気がする。特に右下のタヌキなどは、非常に生き生きとした表情でこちらを凝視しているようではないか。

彼らが言葉を発することができたら、こんなことを言ったに違いない。

 

タヌキA

「わー、すごい、これってTwitterで話題になってた『水を吐くフグ』ですよね!?」

タヌキB

「かわいい!写メ(死語)ってもいいですか!?」

タヌキC

 「いかすわー」

 

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てなことを妄想しながら、フグが吐いたお茶を飲んだ。喉が乾いていたので美味しかった。

 

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最後にみんなと一緒に記念撮影を。田舎の中学に一人だけやってきた外国人の転校生とクラスメートの集合写真といった雰囲気で、すごくいい味が出ている。

 

まとめ

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そんなこんなで、水を吐くフグの急須だった。

最初はただお披露目をするだけのつもりだったのに、ついついタヌキを登場させたり、アテレコしたりしてしまった。

動物に感情移入するとそういうことになりがちだ。

 

それにしても、生き物は面白い。

人々が珍妙な動きをする生き物に夢中になるのは、爆走するエリマキトカゲや2本足で直立するレッサーパンダに夢中になっていた頃となにも変わっていない。

走るエリマキトカゲは必死で敵から逃げているのだし、水を吐くフグも敵を威嚇するためににそうしている。どちらも、当人たちにとってはデッドオアアライブの状況なのだ。笑って見ている我々は残酷なのかもしれない。

しかし、そのようなそのような事実を踏まえても、私は、次はどんな生き物が我々を夢中にさせてくれるのだろうという期待に、胸をときめかせて待たずにはいられないのである。

 

おまけ:水吐きフグの急須の作り方

まず、百均でティーポットを買ってきます。フグの骨になる部分です。
上から粘土や発泡スチロールを貼り付けることで急須本体は見えなくなるから、どんなのを使っても構いません。
 

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こう言っては申し訳ないのですが、この商品は大人の手には小さく、中にはいる水の量も少なく、ティーポットとしては使いにくいのです。生活者の味方である百均に、なぜこのような実用性の低いものが売られているのでしょうか?

それは、工作の材料にするためです。

 

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発泡スチロールを貼り付けて大まかな形を作ります。いきなり粘土を貼り付けてもいいのですが、こうすることで粘土を節約でき、軽くすることができます。

 

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粘土を盛ってフグの形を作ります。

なんだかオタマジャクシみたいに見えますが、追い追い修正していけば良いのであまりこだわりすぎないように。

 

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ヒレなんかの細かいパーツは、針金などを使って後付けにするとしっかり固定できます。

 

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 アクリル絵の具で色を塗っていきます。

 

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生き物を作る場合、目の形で印象がガラッと変わるので、とくに慎重に塗りましょう。

 

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表面にニスを塗ったら完成。

今回は水を吐くフグを作りましたが、めいめい好きなモチーフを選んで急須にしてみましょう。

夏休みの工作などに作ってみてね。 

 

<おわり>

 

 

 

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春はあやふや

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花粉の飛散と、冬の寒さから解放の合わせ技をくらって、このごろは始終気持ちがだらけている。5月まで待たずとも、なんとなく、無気力。

寒い時には、寒いせいで何もする気が起きないと文句を言うくせに、いざ気温が上がってみると、やはり覇気のない生活をしてしまうのだから、勝手なものだと思う。

私は冬が好きだ。狩猟ができるからだとか、食べ残しを室温で放置してもなかなか腐敗が進まないからだとか、思い当たる理由はいろいろあるのだが、何より、冬は普通に生活しているだけでもそれなりに感情に起伏が生まれるという点に因るところが大きい。

電気毛布にくるまる、温かい。毛布から出て着替える、寒い。銭湯にいって風呂に入る、温かい。夜道を自転車を漕いで帰る、寒い。

心がよく動いて、倦怠する暇がない。

その点で春は、のっぺりとしていてメリハリがない。ぼんやりしていると、何の情動にも見舞われないままあっと言う間に時間が過ぎてしまいそうになる。春には、なにか新しい行動を始めないといけないのだ。

で、とりあえず思いついた新しいことは、いつの間にかすっかり月刊化したこのブログの更新頻度を少し上げることだ。一発ネタ的な記事を書き上げたときの達成感や受け取る反響は変えがたいものだけれど、もう少し日常的なことも書くようにしていこうと思う。

 

話は変わるが、最近寺町の山月書房で買った吉村萬壱の『ボラード病』という小説が大変おもしろく、恐ろしかった。

ちょっと前に読んだ小野不由美の『残穢』も怖かったけれど、ああいう「運の悪い個人が恐ろしい目に遭う」系の怖い話はまだ、自分とは無関係な他人の話として対岸に置いて眺めることができる。『ボラード病』は、大震災以降の文脈に完全に乗っかる形で書かれているので、その不穏さには逃げ場がない。今読んでおいてよかったと思った。

 

 

 

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イカのスニーカー、スニ“イカー”を作ってみた

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”ハト”ヒールを作った乙幡啓子さんが、今度はアヒールを作ったという記事(詳しくは、この記事の一番下に載せた参考記事を参照)を読んだ。それで、「私もなんか作ってみたい」と思ったのが1月の中旬。図書館に本を返しに行く途中、自転車を漕ぎながら、突如頭に「スニ”イカ”ー!!!」という閃きが降ってきたのが節分の少し前のことだから、だいたい2週間もの間、心の片隅で履物と動物のマッチングをしていたことになる。

スニーカーとイカ、言葉の上ではうまくかぶっている。形も、両方ともどちらかと言う と長細い形状なので、なんとか改造できそうだ。考えれば考えるほど、悪くない思いついきのように思えてきた。

 

まず確かめるべきは、先駆者の有無である

イデアが出てきた直後の興奮状態が過ぎ去ると、誰かが既に同じことをやってしまっているのではないか?という不安が湧いてきた。たしかに、「イカの形の靴を作ってみみました!てへ!」というネタは、すでに存在していてもおかしくはない。きちんと下調べしておかないと、二番煎じや、最悪パクリのそしりを受けかねないのだ。

 

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試しに『イカ 靴』で検索してみると、主に「スプラトゥーン」のキャラクターに履かせる靴の画像が出てきたので、深夜1時に一人でガッツポーズを決めた。私の経験では、ネタから連想するワードで画像検索して、それっぽいものが出てこなければ、そのネタはブルーオーシャンかそれに近いものであることが多いのだ。

なお、念のため『タコ 靴』で検索すると、こちらは足にできたデキモノの画像で画面が肌色に染まってしまい、別の意味で面食らうことになった。

 

 スニイカーができるまで

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申し訳程度に完成予想図を描いてみた。

こんなラフ過ぎるラフ画でも、頭の中でイメージを固めるためには有効なのだ。

 

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 そしてこれがベースになるスニーカー。

「安い」「白い」「ハイカットじゃない」を条件に探した結果、税込み1000円くらいで買えるこいつにたどり着いた。関係ないのだが、まるで塗り絵の世界から飛び出してきたみたいな白一色の靴は汚れがすごく目立ちそうで、これを普通に靴として使う人のことを思うと胸がざわついた。

 

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さて、作業開始だ。

まずは、発泡スチロールでイカのてっぺんの尖った部分を作ってスニーカーに貼り付ける。

当初はスタイロフォームを使うつもりで、近所の画材屋に買いに行ったところ、なかなかに高価なものであることが判明した。材料にあまりお金をかけたくなかったので、スタイロフォームは諦めて、道を挟んで向かいにあったスーパーの鮮魚コーナーで発泡スチロールをもらって帰ってきた。

鮮魚コーナーの発泡スチロールの箱は、もともと魚が入っていた物なので少し生臭かった。普段なら残念な気持ちになるところだが、この場合ならより「イカらしさ」が増そうというものだ。

 

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こんな感じで装着する。

話が逸れるが、筆者は先の尖った靴があまり好きではない。むしろコッペパンのように自然な、ふっくらとした丸みを帯びた靴先を愛する者であるのだが、まさかこんなド鋭角な靴先の靴を所有する日が来るとは思いもよらなかった。

 

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目や足といったパーツを固定する位置を鉛筆で書き込んでおく。

 

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靴底などの、イカの体にならない部分は、全部まとめて海の青色で塗ってしまう。

 

ここからの工程で活躍するのが、白いフェルトだ。イカの体を構成する各種パーツを、フェルトでひたすら作っては組み付けしていくのである。

 

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まずは脚だ。触腕(全部で10本あるイカの脚の中でも、特別に長い2本の触手のこと)以外の脚をフェルトで作る。全部で8つも作らないといけないので大変だ!なので、同じ形に切った2枚のフェルトで針金をサンドするだけの簡単な構造に。針金を中に仕込んでおくことで、脚を自然な形にしならせることができるのだ。

 

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出来上がった脚は、しっかりと位置を決めてボンドで固定する。

 

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 脚を固定するボンドが固まったら、脚の付け根を覆うようにして頭のパーツを取り付けた。靴紐の上にもやもやとまとわりついているのは、適度な膨らみを持たせるためにのせた脱脂綿だ。

ここまできて、「あ、これいいものができるな」と直感した。まだ半分くらいしかできていないのに、すでにイカらしさを隠しきれていない。

 

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イカの体で一番大きな、あの輪切りにしてイカリングにするパーツは、外套膜(がいとうまく)という。そのフォルムは、まるで中国の古い水墨画に出てくる頭が異様に縦に長い仙人みたいで実に賢そうに見えるのだが、あれは頭ではない。目のついているあたりがイカの頭部で、脳もそのあたりにあるのだ。外套膜の中には消化器官なんかが詰まっているだけである。もしあの大きなスペースにぎっしり脳が詰まっていたのなら、人類は今頃イカの奴隷になっていたかもしれない。

 

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外套膜のパーツを切り抜いて固定しているところ。大きいので、ボンドが乾くのに時間がかかる。

 

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乾くのを待つ間に、目を作る。

手ごろなサイズのボタンに銀色のアクリル絵の具を塗り、黒い瞳を書き入れる。

 

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直接本体に縫い付ける予定だったのだが、固くて縫えないので、まず丸く切り出したフェルトに縫い付けてからボンドで固定することに。

 

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結果的に目の飛び出しが強調されていい感じになった。

 

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触腕も他の脚と同じ容量で作るのだが、目立つパーツなので、ここだけは吸盤を再現してみた。めんどくさいが、こういう細部にこだわることで出来栄えに雲泥の差が生まれるのだ。

 

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最後の仕上げ。あの、特徴的なヒレの装着だ。

 

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シャキーン!

 

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完成!

自分で言うのもなんだけど、とても良いものが出来上がってしまった。

イカの特徴を押さえつつ、適度にデフォルメされた姿が可愛くてしかたない。興奮してあれこれ角度を変えながら写真を撮りまくった。

作品が完成したら、もっとも見栄えの良い構図を見つけるために、あれこれ向きを変えながら自分の作ったものを撮影するのは、立体作品を作る人ならみんなやっていることではないだろうか。

 

さて、右足は完成した。初めの予定では、ここから左足用のスニイカーを作るつもりだったのだが、作ってる途中から「これ、同じのをもう一個作るのはちょっと気力がもたないぞ」という感じになってきた。

最初の一つを、手探りで作っていくのは面白い。が、同じものをもう一つ作るのは単なる反復作業だ。製作にそれなりの手間がかかるだけに、どうせならちょっと違うものを作りたい。

 

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というわけで、急遽、赤いフェルトを買い足して左足はタコにした。

8本の脚全てに吸盤を取り付けるという贅の尽くしっぷりを見てもらいたい。穴あけパンチでフェルトを切り抜いて作った吸盤を、ボンドで触手に貼り付けるという作業を160回繰り返していると、飽きてくるのやら眠いのやらで魂が塩水になって鼻の穴からこぼれ落ちそうになったが、苦労に見合うタコっぷりに仕上がったので結果オーライだ。瞳をきちんと縦長にしたところもポイントだ。

 

 お笑いコンビ、名付けて「軟体スニーカーズ」結成

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出来上がった二つを並べて置いてみた。第一印象として「なんだこいつら、お笑いコンビかよ」と思った。二人揃うと紅と白が揃ってなんだかおめでたいし、何より顔つきがひょうきんだからだろう。

せっかくだから、コンビ名を授けてやることにした。軟体動物でスニーカーだから、その名も、「軟体スニーカーズ」だ!

 

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私の妄想では、イカのスニイカーはボケ担当である。ここ一番の持ちネタは、網の上に横たわって「イカ焼き〜〜〜」と叫ぶ自虐的な芸。

 

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対して、タコはツッコミ役に違いない。「焼かれてどないするねん!」などとツッコミを入れて会場を沸かせるのだ。時には相方に墨をぶっかけるなど、体を張った容赦ないツッコミもお手の物だ。

しかし、筆者は知っている。タコは、自分が「スニ“イカー”」というネタの副産物として作られたことを知っていて、内心ではそのことにコンプレックスを抱いているのだ。

このままではかわいそうなので、筆者もタコとスニーカー(もしくは靴)をかけたダジャレを考えたのだが、何も思いつかなかった。苦し紛れに、語呂が良いというだけの理由でタコさんスニーカーと呼ぶことにした。

 

さて、妄想はこのくらいにして、いよいよ彼らを履いて屋外に飛び出てみることにしよう。

 

気に入った靴ほど、履いて外に出るのが惜しくなるというジレンマ

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「彼らを履いて飛び出てみよう」とは言ったものの、実際はなんだか外に履いて出るのが惜しくなってしまった。完成したものが予想の頭一つ分上の出来栄えだったので、汚してしまうのが勿体無いような気がしたからだ。

 

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そうは言いつつ、履いてみないわけにもいかない。日本では、靴は家の外で履くものと決まっているのだ。できるだけ汚れのつかなさそうなところで、サクッと試着することに。

 

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足を突っ込む瞬間、タコさんスニーカーが不安な感じの変形をしたので、思わず一度足を引っ込めてしまった。普段意識していなかったけれど、靴を履くとき、履かれる靴はかなり変形しているのだ。ちょっとだけ申し訳ない気持ちになった。物を擬人化すると、大切に使ってもらえるようになるというのは、本当やったんやね......。

 

履き心地は決して良くはない

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ともかくも、履いてみた。ボンドで外周を固めたからだと思うが、少しきつい。ワンサイズ上にすればよかった。軟体スニーカーズ、ぜんぜん軟体じゃない...。

 

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問題は他にもあった。足を前に出すたびに、内側に突き出た互いの触手がパサッ、パサッとぶつかり合う。まるで一歩進むごとにイカとタコがハイタッチをしているようで、歩きにくいことこの上ない。コンビ仲が良いのは素晴らしいことだとは思うのだが、少しは靴としての自分たちの立場も考えてもらいたいものである。

以上のようなことがあって、イカやタコは、履いて歩くのには全く適したデザインとは言えないことが明らかになった。歩きやすさを求めるなら、ウミウシあたりを模倣するべきだったのだ。

 

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「もともと履いたときの快適性なんか全く考慮してへんかったやろ!」

すかさずタコさんスニーカーがツッコミを入れる。図星である。

「そ、そうですけど......」

返事を濁すしかない。

 

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階段を上っているときにふと考えた。

イカやタコのように、頭から直接足が生えている生き物をまとめて頭足類という。しかしこいつらは、足が生えた頭の上に、さらに私の足を載せている。なので、既存の頭足類と区別して足頭足類と命名してやるのが適当なのではないだろうか?

なんてこった......ほんの冗談のつもりが、うっかり新しい生物のグループを生み出してしまった。おかしなものを履いて歩いていると、おかしなことが頭に浮かんでくるものである。

 

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黒猫がいたので、怖がらせないように脱いだタコさんスニーカーを近づけてみた。ひょっとして本物だと思って噛み付いてくるのでは......でもそんなことされたら壊れちゃうなという、期待:不安=3:7くらいで見守っていたのだが、一瞥をくれただけですぐに走って逃げてしまった。

 

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履き心地もわかったので帰ろうとしたところに雨が降ってきたので、ひとまず屋内に退避することに。

話しかけてくる人こそいなかったものの、遠目にチラチラと見られているようでなんだか恥ずかしい。見た人が、単なる紅白の靴ではなく、イカとタコだと認識してくれたのならよかったのだが......。

 

履き心地はお世辞にも良いとは言えない。さらに、これを履いて公衆の面前を堂々と歩くには、そこそこの勇気が必要であることも実感した。しかしそんな欠点を補っても、こんなに愛着の湧くものを作ったという一点で、筆者は彼らを創造してよかったと思った。

さらに言うと、パリコレの......いや笑わずに聞いてほしい。パリコレで披露される衣装を調べて見てみてほしい。それらが実用的に見えるだろうか?自分で着て街を歩きたいと思うだろうか?(ファンの人すいません)実用性が低く、着て歩くのもちょっとなあ......というようなものがファッションの先端であるなら、軟体スニーカーズもその仲間に入れてやってもよいのではと思わずにいられないのである。

 

おまけ

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こんな感じにするとすごく映える。

 

 参考

この記事は、下記の乙幡啓子さんの記事に触発されて書いた。材料にフェルトを使うという発想も、これらの作品から拝借したものだ。いつものように石粉粘土を使った作品に仕上げていたら、足を入れた瞬間に粉々になってしまい、泣き崩れていたことだろう。ありがとうございました。

 

 

 

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