先日、旅行で岡山県倉敷市を訪れた。関西からは在来線を乗り継いで3時間ほどで行くことのできる、お手軽旅行スポットである。新幹線ならもっと早く到着できるのだが、それでは途中下車という電車旅行の醍醐味を味わうことができない。座りっぱなしの尻の痛みと旅情を天秤にかけて、在来線での移動を選択した。
途中下車が電車旅行の醍醐味であるといいながら、めんどくさがって目的地まで座席で寝て過ごしてしまったのでは
「本当は高価な新幹線に乗れないから、仕方なく在来線を使ったんじゃないの?」
と、いらぬ勘繰りをされかねない。とくに下車したい場所がなくとも、とりあえずどこかで下車して、話のネタになりそうなものを見つけておくべきであろう。というわけで日生(「ひなせ」と発音する)というところで電車を降りてみた。
日生は小豆島行のフェリーが出る港町で、お好み焼きに牡蠣をこれでもかとぶち込んだ”かきおこ”なる食べ物をご当地グルメとしてプッシュしている。
軽薄なネーミングを笑ってはいけない
読者は「備前♥日生大橋」という名前を聞いてどう思っただろう?私の場合は「DQNネームの波がこんなところまで!」と嘆いたとまでは言わないが、なんだか中学生が考えたみたいな名前だなあと思った。「♥」のところをどう発音するのかも決めていないそうである。なので「備前 は〜と 日生大橋」「備前 ラヴ 日生大橋」など、各人好きに呼称すればよい。このあたりも、宙ぶらりん感が否めない。
しかしながら、橋が建設されるに至る過程の説明を読んで、少しだけ名前に対する評価が変わった。
島の方々にとって、この橋は本土に暮らす人々と同様の、安全で安心した生活を送るために必要なものです。
ともかく、島民が何十年もの間切望していた橋が、ようやく完成したのである。生活に必要な橋の建設を差し置いて、弥生時代の生活を体験出来ると謳った「まほろば」なるテーマパークが島内に完成したことも、住民の焦燥感を煽ったことは想像に難くない。万感の喜びを表現するための手段として、橋の名前に「♥」をつけてしまうのもわからなくもないのではあるまいか。
(日生と鹿久居島が連結されたんだから、「鹿久居島♥日生大橋」という名前にするのが自然ではないか?という気もするが、「連結」を「♥」で表現することによる、地元小・中学生の風紀の乱れを危惧した行政側の配慮なのかもしれない。)
歩いて渡れるからといって、無邪気に歩いて渡ってはいけない
駅前でもらった観光案内のパンフレットには、「この橋は歩いて渡ることができます」と丁寧に書かれている。せっかくなので、歩いて渡ってみることにした。せっかくだし島で美味しいものでも食べたいなと思ったのである。
橋の中程では、美しい景色を楽しむことができる。海に浮かんでいるのは、牡蠣の養殖に使う筏である。海産物への期待が否が応でも高まる演出である。しかし、この期待はものの10分程度で裏切られることになった。
橋が接地するのは島内でも集落から離れたエリアであり、商店などを利用したい場合は、橋を降りてからも相応の距離を移動しなければならないのである。昼時の暑さもあり、そこまでの元気はなかったので、橋のたもとの空き地をうろうろした挙句、渡ってきた橋をおめおめと引き返すことにした。
島から引き返してきたときに見つけた渡し船屋。名前にウィットを効かせたがる土地柄なのだろうか。(なんのことかわからない人に説明しておくと、渡哲也という昭和の昔に一斉を風靡した俳優がいて、この店の名前はそれをもじったものだと思われる)
島で食事ができなかったので、本土側の店でかきおこを賞味した。店の人と、たまたま居合わせた漁師のおじいさんが「今の時期は冷凍の牡蠣しかないけれど、寒くなったらこれより美味しい生の牡蠣を使ったかきおこを提供できるから、また遊びに来てね」と言っていた。個人的には冷凍の牡蠣でもたいへん美味しいと感じたが、これよりもさらにグレードアップしたものが食べられるのなら、冬季にリピーターとして訪れるのも悪くないかもしない。
この記事を読んで、日生にぜひ行ってみたいと思われた方は、オイスターの旬の時期に訪れること、また橋を渡って島で遊びたいと考えるなら、レンタカーやレンタサイクルの利用を検討されると良いだろう。