輝くオサムシをめぐる珍道中

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この記事は北海道でオオルリオサムシを採集した際のことを記述したもので、綺麗な虫や、それほど綺麗ではないが興味深い虫の画像がわんさか登場する。

 

光る虫は素晴らしい

光る虫はいい。

カンカン照りの太陽を反射しながらヤマトタマムシが飛んでいるのを見かけると、珍しい虫ではないにも関わらずなんとかして捕まえようと追いかけ回してしまう。

オオセンチコガネを見ると、糞にたかる虫がどうしてこんなに美しいのだろうと不思議に思いつつ、手にとって観察したいという思いと、汚いから素手で触りたくないという思いの間で逡巡してしまう。

昆虫好きを自称していると、光り輝く美麗な昆虫を捕まえてキャーキャー騒ぐのは、なんとなくミーハーっぽくて恥ずかしいという自意識が働きそうになる。これは、漫画が好きな人が一番好きな漫画はなんですかと聞かれて、たとえ本心であっても「ワンピースです」とは言えない心理と似ているのかもしれない。

しかしここは声を大にして主張したい。

光り輝く昆虫は、とにかく魅力的なのだ。

なぜいきなり光る虫を持ち上げ出したかと言うと、今回取り上げるオオルリオサムシという昆虫が、本邦の昆虫界でもトップレベルに美しい光る虫だからである。

 

北海道中で採集した

6月に北海道を回らないかという誘いを受けて、私は二つ返事で了解した。私は狩猟をするので、広大な土地に鹿や熊が跋扈する北海道は憧れの土地だ。いつかは住んでみたいという願望もある。

主だった名所を回るだけでも十分に魅力的なのだが、せっかく初夏に訪問するので、以前から気になっていたオオルリオサムシの採集を目的に追加した。オオルリオサムシは北海道にのみ分布するオサムシの仲間で、上でも述べたように非常に美しいのだ。せっかく夏に2週間も北海道に滞在するのに、これをスルーするのは勿体無さすぎる。

同行者には虫が嫌いな人もいたが、そこは適宜別行動を取ることにして、旅の主な目的を、観光と友人の実家を訪問すること、それから北海道限定の光り輝く昆虫であるオオルリオサムシを採集することに設定した。

旅程は、

 

千歳→ニセコ→小樽→札幌→北見→知床→十勝→旭川→千歳

 

という思い出すだけでも陶然としてしまうほど長大だった。

 

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いろいろなところで(写真は知床)

 

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いろいろなことをしたけれど(写真は網走)

 

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オオルリオサムシのことは(写真は帯広)

 

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片時も忘れなかった!(写真は旭川

 

オサムシが1匹も採れなかったとしても楽しかったことに変わりはないけれど、それはまた別のお話である。

各地でピットフォールトラップをかけて採集を試みたところ、幸運なことに十勝と北見で採集に成功した。 

 

ヒグマに怯えつつ罠を仕掛ける

オサムシを捕まえるもっとも堅実な方法は、ピットフォールトラップと呼ばれるものを設置することだ。これは、簡単に言うと虫用の落とし穴である。

地面に穴を掘って、プラスチック製のコップを埋め込む。コップのそこに虫を誘き寄せるための餌を入れて一晩置いておけば、翌朝には罠にかかったオサムシが回収できるのだ。

飛んで逃げるのでは?と思われるかもしれないが、オサムシ科の昆虫は羽が退化していて飛べないため、ツルツル滑るコップに落ちてしまえば自力で脱出することは難しい。オサムシの特性をうまく利用した採集方法なのである。

 

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まずトラップを設置する場所を選ぶ。林床の、地面が湿っているところが理想的だ。

 

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 穴を掘ってコップを埋める。

小さいコップだと大きなオサムシがコップのふちに脚をかけて逃げてしまうので、最低でも10cmくらいの高さのコップを使うと良い。

 

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餌にはカルピスウォーターを使った。

 

穴を掘ってコップを埋めてカルピスを注ぐだけなのだが、こんな簡単な作業でも繰り返し行うと腰や腕が疲れてくる。罠を使った採集の特性上、たくさん設置すればするほど捕獲率は上がる。苦しいから早く切り上げたいのでけれど、せっかくここまで来たのだからなんとしてもオオルリオサムシの姿を拝みたい、そのためにもう1個、あと1個......となかなか潮時を見つけられず苦労した。

オサムシを扱う昆虫学者の中には、1日に1000個のトラップを設置した人もいるそうであるから驚きである(単独でやったのか手伝ってくれる人がいたのかは知らないけれど、それにしたってすごい数だ)。

 

負担は肉体的なものだけではない。

山に入ろうとするところでこのような看板が立っているのが、いろいろなところで目を引いた。

 

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山に入るのを躊躇するのに十分なインパクトを持つ看板だ。コップを埋めるために穴を掘っていて、ふっと顔を上げたらヒグマがこっちを見ていた...なんてことになったら、冗談じゃない。

 

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大きな危険生物がヒグマなら、小さな危険生物の筆頭がマダニだ。血を吸うだけと侮るなかれ、時に恐ろしい感染症を媒介するころもある危険な虫なのだ。

私は過去にマダニに刺されたことがあるので、用心して山に入る時は虫除けスプレーを念入りに噴霧していたのだが、それでもマダニが肌を這い上がってくることが1度ならずあった。 

 

トラップを回収する

トラップの設置は非常に苦労の多い作業だが、翌日の罠の回収は非常に心踊る時間である。同じ場所に2回行かねばならないのが、時間の制約の多い旅先では難点といえば難点ではあるのだが。

しかしながら、北見市郊外の設置場所を再訪したとき、一目見て「あーこれはだめかもしれんな」という悲観的な予測を立てざるを得なかった。

 

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なぜかというと、地面に埋めたはずのコップが片っ端から引っこ抜かれているのだ。犯人の姿は見ていないが、コップに残された歯型から推測するに、これはほぼ間違いなくキタキツネの仕業であろう。

カルピスの匂いに引っかかるのは、昆虫だけではない。キタキツネやカラス、時にはヒグマまでが、甘酸っぱい匂いに引き寄せられてやってくる。彼らはカルピスをペロペロするだけでなく、コップを引き抜いて、時には罠にかかった貴重な昆虫を食べてしまうのだ。

罠を設置した場所には、まさしく死屍累々と言う感じで、引き抜かれ噛み割られたコップが散乱していた。

 

成果があろうとなかろうと、自分で撒いたコップは全て回収しなければならない。

順番に確認していくが、どうやら全体の半分近くのコップが被害を受けたようだった。運良く残ったコップを確認しても、見事に何も入っていない。ひょっとすると、キタキツネは罠にかかったオサムシがもがいた時に出るカサカサという音を頼りにして、中身の入ったコップを狙ったのではないかという疑いまで出て来た。可愛らしいキツネがこの時は悪魔のように思われた。

空のコップを虚しく回収する、実質的なゴミ拾い(しかも自分で撒いたゴミを)作業が終わりにさしかかり、この場所での採集もダメだなと(千歳やニセコでの採集に失敗した後だった)思い始めた時だった。どうこうしていた友人がコップを片手に走り寄って来た。

「これ、そうじゃない!?」

 

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コップの中には、オオルリオサムシがなんと3匹も入っていた。2匹はすでに死んでいて、生きた残った1匹が手に持ったコップの中で壁を登ろうという虚しい努力を続けていた。(写真は生き虫を回収した後のもの)

「おお、これこれ!」

この一瞬で持って、何十個というコップを埋める労苦も、ヒグマに怯えダニにたかられる不快も消し飛んでしまった。観光の時間を削ってまで、山に入った甲斐があったと言うものだ。

ひとしきり歓喜が通り過ぎると、採集したオオルリオサムシをじっくりと眺める余裕が生まれた。本当に美しい。オサムシの美麗種は「歩く宝石」と形容されることがあるけれど、まさしく本物の宝石と同じくらいの価値があるものに思われた。

 

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こちらは、数日後に十勝で設置した罠にかかったオオルリオサムシである。全体で見ると、50個の罠を仕掛けて1匹か2匹かかるかどうか、くらいの採集成功率であった。

 

観察する

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緑がかった体色を持つ個体。金属的な光沢があって本当に美しい。

 

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こちらは赤っぽい色をしたもの。同種の中でも様々な個体差があるのが、オサムシの魅力である。

 

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こちらは嬉しい副産物のエゾマイマイカブリオオルリオサムシと同じオサムシ科の昆虫である。こちらも羽が退化していて飛翔能力がないので、ピットフォールトラップで混獲されたものだ。

 

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マイマイカブリのなかでも北海道に分布する亜種をエゾマイマイカブリという。写真ではわかりにくいが、胴部は青黒く、胸部は緑がかった光沢を持っている。 

 

余談だが、オサムシ科の昆虫は自分の中で「ベスト・オブ・話の通じなさそうな生き物 」にランクインしている。

同じ虫でも、たとえばコガネムシや蝶の仲間なんかは、彼らと意思疎通する光景を空想することができなくもないのだが、オサムシ相手にはそういった想像の余地がない。金属的で無表情な顔つきや、捕食用途丸出しの大きな牙のせいでそういう印象を受けるのかもしれない。

今でこそ「オサムシかっこいい!きれい!」とはしゃいでいられるが、仮に自分がオサムシと同じサイズまで縮小することがあったとしたら、有無を言わさず食い殺されてしまうことは間違いない。

 

道中で見かけた虫たち

オオルリオサムシのことばかり書いたが、山に入るたびに魅力的な昆虫たちにたくさん遭遇した。山の中でえんえんコップを埋め続ける作業は苦痛だったが、彼らを見られたことで少しだけ癒しが得られた。

ここでは一部を紹介したい。

 

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オオミズアオ

色が綺麗!大きい!もふもふしている!という愛される要素を満載した蛾である。

 

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カタツムリを食べるヒラタシデムシ

シデムシがカタツムリを捕食するとは知らなかったので、驚いた。

 

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オトシブミ

葉を使って卵を包む入れ物を作ることで有名な虫。成虫を見るのは本当に久しぶりだった。

 

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後尾するモイワサナエ(たぶん)

かなり近づいて撮影したが、まったく動かなかった。

 

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こちらも後尾に励むカミキリムシの仲間。

短い北海道の夏を無駄にすまいと、必死に繁殖に励んでいる。

 

まとめ

採集に成功してよかった。やはり図鑑や博物館で標本を見るのと、自分の手で採集するのでは、別格の喜びである。 

採集したオオルリオサムシやエゾマイマイカブリを納めた容器は、レンタカーの運転手席横のドリンクホルダーに収納して、気が向くたびに眺めながら旅を続けた。

記事では採集がうまくいったところだけを切り取ってつたえているが、千歳、ニセコ旭川では仕掛けたトラップの全てが見事に空振りであった。中でも、ニセコに生息するオオルリオサムシは青く美しいものが多いらしく、これはまた採りに行かねばならないなと再訪のチャンスを虎視眈々と狙っている。

 

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虫の画像ばかりだったので、モフモフしていて温かいやつの写真も貼っておく。

トラップを回収しにいく途中で立ち寄った猟師の家で出会った犬。 北海道犬だそうである。

 

 

 

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友人の結婚パーティー

友人の結婚パーティーに出席してきた。

 

彼らのことは何年も前から知っているから、「結婚することになりました」と言われても特に驚きはしなかったのだが、会場の演出には目を見張るものがあった。

手作りのウェルカムボード、手作りのパペット、手作りのムービーetc...

新郎新婦も、我々出席者の多くも、大学美術部のOBであるから、いろいろなものを手作りすることに対するハードルは、普通の人に比べればたぶん低い。だがそうはいうものの、これだけのものを用意するのは相当な根気と時間が必要だったであろうことは想像に難くない。

多分、彼らは人生の区切りになる催しを、自分たちのやり方で最大限盛り上げようとしたのだろうし、そんな場に呼んでもらえたことが心からうれしかった。

 

驚いたと言えば、集まった人々の近況にも興味深いものがあった。

ダイエットしているから料理にはあまり手をつけないんだと言う人がいて、仕事を辞めてドイツに行くためにドイツ語の勉強をしていると言う人もいて、さらにその横では、子供が欲しくて産婦人科で検査したら精子密度が常人の6倍だったという話をしている人がいる。

各人が抱えているものが、本当にてんでばらばらで、聞いていてたまりかねず「うーん、人生!」と唸りたくなるくらい十人十色なのだ。

 

顔を合わせるたびに似たような話題で盛り上がっているようでいて、どうやら我々は少しずつ変化しているらしい。引き続き見守っていきたいと思う。

 

 

 

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餃子の皮について

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ここ一月で2回も餃子を皮から作っている。

一度目は皮の水分が多すぎたせいで、作るそばからスライムのように崩れてしまい、散々な目にあったが、二度目は教訓が生きて、ピンと角のたった粒ぞろいの餃子を作ることができた。

覚えている範囲ではそれまで餃子を皮から作ったことはなかったから、この月に2回という頻度は非常に高い。ハマってしまったといって差し支えないだろう。

 

我々日本人が餃子をおかずにして米を食べている姿は、餃子の本場中国の人間には奇異に写るらしい。彼らにとっては餃子の皮の部分が主食に相当するからである。

で、私は外で餃子を食べたり、市販の皮を使って自宅調理するたびに、これが主食として機能し得るかと考える。巷で売られている餃子の皮は薄いものが多い。これでは主食と呼ぶには頼りないなあ、などと勝手な感想を抱きつつ、ご飯や麺と一緒に喫食するのである。

 

ところがである。

いざ自分で皮から餃子を作ってみると、その皮のあまりの存在感に面食らった。

麺棒がないので、代わりにスチールの空き缶で生地を丸く伸ばしたから、市販品みたいに薄くできなかったからだろう。しかし、それにしても、分厚い。

そういえば、以前上海で食べた水餃子も、こんな感じで皮が分厚かったような気がする。これだ存在感のある皮であれば、主食とみなされるのも当然である。日中で食事における餃子の立ち位置が違うのは、皮の厚さのスタンダードが違うからなのだろう。

 

自分で作った餃子は、今のところ全て水餃子にして食べている。分厚い皮は茹でるともちもちとした食感を生み出してとても美味しい。次は、この皮が焼き餃子にしたときにどうなるのか試してみようと思う。

 

 

 

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足摺海底館が素晴らし過ぎて、勝手にグッズまで作った話

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もう2年くらい前のことなのだが、高知県にある足摺海底館という、海中展望施設に行ってきた。その容貌たるや、印象的という言葉では到底表現しきれないくらいすばらしい建物なので、再訪まで待てず勝手にミニチュアを作って部屋に飾ってしまった、というのが今回の記事の流れである。

 

実際に訪問したときのこと

足摺海底館の存在を知ったのは、panpanya先生の「足摺り水族館」という漫画で紹介されていたのを読んだためである。

どうしても行って現物を見てみたくなったのだが、これがなんとも行きづらいところに所在している。

 

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四国の端の端である。

公共交通機関を使ってアクセスするには、土佐くろしお鉄道に乗って四万十駅まで行き、バスに乗り換えて海沿いの道をえっちらおっちら移動することになる。時間はかかるが、のどかで風光明媚な場所を延々走行することになるので、大変に旅情が感じられるであろうことは間違いない。

私は素直にレンタカーを利用した。

 

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付近には足摺海洋館という水族館もあるのだが、それとは完全に別の施設であるため気をつけないといけない。

車をとめてエントランスの建物を通り抜けると海岸線に出ることができる。

 

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波に削られたゴツゴツの岩場を縫うようにして作られた小道を進むと、海底館が見えてくる。

 

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見えてくる...。

あまりの唐突さに、大笑いしてしまった。

周囲に太平洋と岩礁と山しかない大自然の只中にあって、その形も、紅白の色使いも、あまりに場違いなのだ。まるで海岸に不時着した宇宙船をみているようである。

なんなんだこの現実感の希薄さは...。

 

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近くで見てもやっぱり嘘っぽい。SFの撮影現場のようだ。

「俺は帰ってたんだ!ここは高知県だったんだ!」

とか叫んでみたくなるくらい。

 

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波が岩にぶつかる音に包まれながら、長い渡り廊下を歩いて中に入る。

 

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受付で見学料を払い、突き当たりの螺旋階段を下っていく。

 

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階段の途中には海抜0mを示すこんな看板があった。

 

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階段を下り切ると、そこは海の底である。

薄暗くて丸い部屋の周囲に開けられた観察窓を通して入ってくる光は、水を通り抜けたせいで病気のように青白くて弱々しい。

部屋の中には音楽もアナウンスも一切流れていないのだけれど、潮の流れが建物を揺さぶる響きや、泡立つ水の音が絶えずに聞こえるから賑やかである。海の底って案外うるさいんだなあと、妙なことに感心してしまう。

 

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窓からは魚たちが見える。

正直言うと、水の透明度はあまり高くない(この日は台風が通り過ぎた後だったので尚更だったのだろう)。魚たちも、潮の流れに翻弄されてあっちへ流されたりこっちへ流されたりする。じっくりと魚を観察するだけなら水族館の方がよく見えていいかもしれない。海底館は、魚を見るためというよりも、自分が魚になったような気分を味わうためにあるのだ。

 

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窓枠に海藻が生えていて、年季を感じさせる。

海藻が伸びすぎて窓の外が見えなくなったら、どうやって掃除するのだろうか。

 

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窓のところは外壁から一段引っ込んだ窪みになっているため、潮の流れを逃れた小魚が休んでいた。

 

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運がいいとタコやウツボもやってくるようだ。

 

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海底世界を堪能してから、螺旋階段を登って地上に帰ってきた。

行きは早く下にいきたくて見過ごしてしまったが、この地上展望スペースにもいろいろ展示されているようだ。

 

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たとえば、海底館で結婚式をあげた人の写真とか、

 

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台風の高波に晒される海底館の写真などだ。

この波に洗われる海底館の写真、ものすごく良い写真だと思うのは私だけだろうか。例えるなら、雪に覆われた金閣寺や、満開の桜並木の中を走るチンチン電車のような、人工物と自然物の奇跡的なマッチングである。

 

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海底館の概要。思い切ったお金の使い方をしてくれた高知観光開発公社に喝采を送りたい。

 

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展望も楽しむことができる。

 

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普通の海岸線の景色なのだが、四方に張り出した海底館の一部が入ることで、グッと愉快な光景となる。

 

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餌をやって魚を誘き寄せるためのカゴが吊るしてあった。

 

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退館する前に、入り口の渡り廊下の方を見る。

着陸した宇宙船から未知の惑星の調査に繰り出す気分だ。

 

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この造形、どれだけ見ても飽きない。

家の近くにあったら、毎日のように様子を見に来てしまうかもしれない。

 

残念ながら土産物屋には海底館グッズがなかった

珍妙な外観にすっかり惚れ込んでしまった。

だから私は、波にのったサーフボードのような勢いで土産物屋(海底館の建物の中ではなく、少し離れた場所にある)に駆け込んだ。海底館の建物をかたどったマグネットなり、貯金箱なり、ラムネの詰まった瓶なりが売られていると思ったからだ。本物の海底館を毎日眺めて暮らすのは無理でも、ミニチュアのそいつらを部屋に並べて、再訪までの気を紛らそうと思ったのだ。

ところがだ。

土産物屋には、海底館グッズは一切売られていなかった。

魚介類を干したのとか、ご当地キティのストラップとか、言ったら悪いがどこにでも売っていそうなものしか置いていなかった。

そういうのじゃないんだよ!と叫びたかったが、言っても仕方のないことである。

 

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レジ横にあった海底館の模型。かっこいい!

 

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さらにその横にあった海底館の貯金箱。かわいい!

 

こういうのを売って欲しいんだけど...と強く思ったけれど、いずれも非売品だった。

「この近くにはコンビニなんてないから、宿で酒を飲もうと思ってる人はここでつまみを買っとかないと後悔するよ」

という斬新なセールストークが、落胆して土産物屋を後にする私の背に響いた。

 

自分で作ってみた

ないものは自分で作るしかない。みうらじゅんの「勝手に観光協会」ならぬ、「勝手に土産物製造部」だ。

海底館を訪問してからだいぶ経っているが、初めて見たときの衝撃を思い出しつつミニチュア海底館を作ってみた。

 

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海底館に形の似ている味塩の瓶をベースにして、

 

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できたのがこれ。

石粉粘土を盛り付けて張り出した展望部分を作り、アクリル絵の具で色をつけただけである。

 

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もちろん味塩の入れ物としての機能も維持してある。

 

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本棚に飾って眺めている。手作りゆえに形が歪なのはまあ仕方ないとして、なかなか可愛らしくまとまったのではないだろうか。なにより、見るたびに海底館を訪れたときの「珍妙なものに出会ってしまった...」という感覚を思い出すのが心地よい。

 

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余談だが、高知名物の鰹のタタキは塩とにんにくで食べるのが高知流だそうだ。

次に高知に行く機会があれば、何をおいてもこの足摺海底館型味塩瓶をもっていきたいと思う。料理屋で鰹のタタキを注文し、おもむろに味塩瓶を取り出し、タタキにふりかけて食べる。そして周囲を「え?あれなに?」と困惑させるのだ。それは何ですかと聞かれれば、嬉々として高知の端の端にある海底館の説明を始めるだろう。

その中から、一人でもあの奇妙な建築物を訪問する人が現れてくれれば、私は大満足である。

 

おまけ

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足摺海底館の近くには、竜宮城の名を冠した絢爛な建物の廃墟があった。

この土地は色々な意味で我々の想像力の一歩先をいっているなと思った。

 

 

 

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ソーキソバ

暑くて仕方がないので、私が大好きな沖縄のソーキソバたちの画像を掲示する。

少しでも暑さを愉楽に変換する試みである。

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 先々月沖縄に行ったときは、毎日ソーキソバ屋に通っていたなあ。

 

 

 

中国で大ブームのザリガニ料理、麻辣小龍蝦(マーラー・シャオロンシア)はハマる味だった

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中国で今、ザリガニ料理が熱いらしい。

ザリガニを食べること自体は、別に驚くことではない。欧米にもザリガニ料理はあるし、そもそも自他共に認める「なんでも食べる」中国人民のことだから、ザリガニを食材として利用しようとするのはごく自然なことだ。

大変なのは、そのザリガニブームの勢いである。ザリガニを提供する店は年々増え続け、なんでもその数はケンタッキーやマクドナルドをもしのぐと言うのだから、尋常ではない。

そんなに美味しいのだろうか?

とても気になるので、ザリガニ料理の中でも一番人気があるという麻辣小龍蝦(マーラー・シャオロンシア)という料理を、作って食べてみることにした。

 

材料調達

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材料調達と言ったものの、要するにただのザリガニ釣りである。

いまどき、そこらの田んぼで見ることのできるザリガニのほとんどは、外来種であるアメリカザリガニである。本来なら憂慮すべきところなのだろうが、アメリカザリガニは在来種のニホンザリガニよりもずっと大きいため、食材としてはありがたい存在である。さらに言うと、アメリカザリガニよりもさらに大きいウチダザリガニという外来ザリガニも存在するのだが、近場の生息地を知らないので、今回はアメリカザリガニを狙うことにする。

 

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投げやりな案山子に一瞬ヒヤッとさせられつつ、ザリガニを探す。

 

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見えている魚は釣れないというが、見えているザリガニは釣ることができる。

タコ糸の先に餌のスルメとおもりの小石を結びつけて、水底で待機しているザリガニの目の前に沈めてやると、腹を空かせた個体であればすぐに食いついてくる。

 

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後は慎重に引き上げるだけだ。ザリガニに不信感を抱かれぬよう、そーっと糸を手繰り寄せる。

 

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アメリカザリガニ、ゲット!

ザリガニを釣るのはものすごく久しぶりだったのだが、目視でザリガニを探すのは宝探しのようで楽しいし、餌を沈めたら沈めたですぐに食いついてくれて楽しいしで、狩猟本能と達成感を短時間で何度も満たしてくれる素晴らしい娯楽であると思った。何より、長大な待ち時間が発生しないのが良い。

 

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警戒心が強く、水面に出た途端に餌を放して逃げてしまう個体もいた。

こういう賢いやつが、最後には生き残るのであろう。

 

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1時間ちょっとで11匹を釣り上げることができた。試しに料理する分には十分な量である。

子供たちに釣り上げられたのならば、その場で逃がされるか、持ち帰られても飼育されるのであろうが、私に釣られたこいつらは食べられてしまう運命にある。食いついた餌の先にいる相手次第でその後の生死が決まってしまう、ザリガニの社会はかくも厳しいのである。

 

 

調理する

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麻辣小龍蝦は四川風の辛くスパイシーな味付けの料理なので、味付けにはいろいろなスパイスを使用する。中国版クックパッドのようなサイトに掲載されたレシピを翻訳して読んでみた感じでは、四川風の味付けに欠かせない生姜、にんにく、唐辛子、花椒に加えて、自分の好きなスパイスを使って好みの味付けにしているようだった。

今回は、生姜、にんにく、唐辛子、花椒八角、ローレル、たまねぎ、それから写真には写っていないが黒胡椒を使うことにした。量は全て適当である。

余談だが、スパイスを全部皿に出すと中国に行ったときに食堂や市場で嗅いだ、いろいろな料理や食材の入り混じった空気の匂いが台所に立ち込めて、ものすごくテンションがあがった。

 

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唐辛子は種を取り除き、八角とローレルは細かくちぎる。

 

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生姜、にんにく、たまねぎはみじん切りに。

 

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ここでメインの食材の登場!

自分たちの運命も知らずに、ガチャガチャ音をたてながら動き回っている。

 

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まずはザリガニを綺麗にする。殻の間に入り込んだ泥などを落とすために、歯ブラシでごしごしと擦ってやる。たまにものすごい勢いで暴れて抵抗するものもいて、手を切りやしないかと肝を冷やした。

 

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ワーイ、綺麗になったよ!バンザーイ!

とは思っていないだろうが、ともかく綺麗にはなった。次は背ワタの除去である。

 

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背ワタとはザリガニの腸にあたる部位であり、中には消化された餌や泥が詰まっていて汚いので、調理する前に抜き取ってしまう。

やり方は簡単で、尻尾の真ん中、上の写真の青く囲った部分を折り、

 

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引き出してやるだけである。

背ワタは残っていると臭みの原因にもなるので、途中で千切れたりしないよう慎重に引き抜いてやることが大切だ。

 

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最後に邪魔なヒゲを切り落とし、もう一度水でよく洗えば、下ごしらえは完了だ。

さしものザリガニたちも、腸を抜かれたりひげを切られたりですっかり元気をなくしてしまった。活きがよすぎると油に入れたときに暴れ出して危ないので、これはこれで好都合である。

 

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スパイス、ザリガニの両方が準備できたら、調理開始だ。

中華鍋に多めの油を入れて加熱し、

 

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ザリガニを投入する!

 

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ザリガニの全身が赤くなったら、スパイスと砂糖を入れて全体になじませる。

 

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スパイスの匂いが立ってきたら、酒と醤油を入れ、混ぜる。

さらに塩とザリガニがギリギリ浸らない量の水を入れ、

 

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蓋を被せて蒸し煮にする。

 

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水気が半分くらいになるまでとんだら、麻辣小龍蝦の完成だ!

 

食べる

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皿に盛り付けた。

各種スパイスの混じりあった香りはとても良い。さて、肝心のザリガニの身の味はどうだろうか...。

 

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これは殻を剥く前。

 

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で、これが殻を剥いた後。

ちっさ!

と思ったかもしれないが、基本的にはエビと同じで、主な可食部は腹部のみであるため、まあこんなもんである。問題は味だ。めちゃくちゃ泥臭かったりしたらどうしよう...。

 

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知らないものを口に入れる瞬間は、いつも少し不安。

 

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ん!美味しい!大勝利

 

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エビに似た味だけど、ちょっと違う。爽やかな甘みのある味だ。そしてその甘みを、四川風のスパイシーな味付けが見事に引き立てている。心配した泥臭さだが、こちらは逆にスパイスによって打ち消されているのか、それともはじめから臭みなどなかったのか、まったく感じられなかった。

肉質も特徴的だ。こちらはエビよりも蟹に近く、繊維質だがフワフワとしている。そのフワフワとした肉に、漬け汁がよくしみこんで、一口噛んだ瞬間のジューシーな食感を生み出している。

つまりはとても美味しくて、中国人が夢中になって国中にザリガニ屋を乱立させてしまうのも納得の味なのである。

 

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せっかくなので他の部位も食べてみよう。

まずはハサミだ。

 

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噛み割って中の肉と食べる。

うーん、噛んだときは旨い汁がジュッと出てくるんだけど、いかんせん食べにくい。爪楊枝でわざわざほじくりだすほどの量でもないし、スルーしてもいいかもしれない。

 

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次は胸部に詰まったザリガニみそ。こちらは背甲(背中側の殻)を体から剥がしたときに露出する腹側のみそなのだが、これをこそぎとって食べてみた。

おお、これは美味しい!こってりとした濃厚な味に加えて、口に入れるとザ・甲殻類という感じの良い香りが鼻に突き抜けるのがたまらない。こんなに美味しいみそを捨てては罰が当たるので、少しも残さぬよう念入りにほじくり出して食べた。

 

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この調子で背甲の側に張り付いたみそも味わう。

ん、んんん?

黄色っぽいみそは腹側と同じ味で美味しいのだが、そのすぐ下に隠れている茶色っぽい部位に箸が届いた途端、なんだが苦くて生臭い味が混じるようになった。おまけに、ジャリッと砂までかみ始める始末。これは推測なのだが、この部位には胃袋のようなものがあって、未消化の餌などが紛れ込んでいるのではないだろうか。いずれにせよ、ほんの少し場所がずれただけでものすごい味の落差がある。

不味いし、加熱しているとはいえ汚い気もするので、背中側はあまり深追いしないほうがよいだろう。

 

まとめ

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▲部位ごとの感想をまとめてみた

 

そのへんで獲れたザリガニを麻辣小龍蝦にすると、すばらしいご馳走になることがわかった。食材にマッチした料理法を見つけてやることは、本当に大切である。あまりに美味しいので、ザリガニを見る目が変わってしまったくらいだ。

ザリガニブームが中国を席巻した理由を、自分の舌でもって納得できたのは大きな収穫だったと言えるだろう。

 

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食べた後には、捕獲したザリガニとほぼ同体積の殻のゴミが残された。味は良いが、ザリガニは可食部が少ないのである。中国では、複数人でザリガニ料理を囲む場合、テーブルの上に文字通りザリガニの山ができるそうである。ザリガニが旨いことはわかったので、機会があれば本場でそんなザリガニの山を貪ってみたいものだと思った。

 

参考サイト

ザリガニ料理、中国で爆発的ブーム 「マクドナルドを超えた」の報道も

 

 

 
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