台湾桃園空港の柿WiFi(ドイツとその周辺の旅行記①)

4月末から5月末にかけて、一月くらいドイツとその周辺を回ってきたので、その時のことを書いていこうと思う。

なんせ行程が長いので、日本に帰ってくるところまで書き終わるのがいつになるかわからない。途中で嫌になってやめるかもしれない。

それでも構わないよという人は、読んでほしい。さらに気に入ってファボってくれたりすると、途中で投げ出す可能性が少しだけ下がろうというものだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20190613041926j:plain

高価な直行便は使えないので、台湾桃園空港で乗り継ぎ。およそ8時間、檻に入れられた動物のように空港の中を徘徊して過ごす。

「FREE WiFi」と書かれた柿の形の看板を見つけた。なぜ、柿なのだろう?

 

f:id:yanenouenomushi:20190613042048j:plain f:id:yanenouenomushi:20190613042104j:plain

夕飯に食べた麺と、豆腐の上に氷とタピオカと甘く煮たピーナツがかかったお菓子。どちらもすっきりとした味付けで美味しい。

ああ、なんかこのまま台湾でしばらく過ごしたいな......などと後ろ髪を引かれたりしているうちに、ウィーン行きの飛行機の搭乗時間になった。10時間以上のフライトは苦痛でしかないけれど、それをやり過ごせば、初めてのヨーロッパだ!

 

 

 

twitter.com

水を吐くフグの急須を作った

f:id:yanenouenomushi:20190422172008j:plain

「水を吐くフグ」を覚えているだろうか?
そう、今年の春先に、主にTwitterでブレイクしたあいつだ
私も、そのブームにあやかろうと彼の形を模した急須を作った。しかし直後に長旅に出るなどしたため、記事を書くまでに2ヶ月近くかかってしまった。
盛者必衰。ほとんどの話題がセミの羽化後寿命よりも早く去ってしまうのがインターネットの掟だ。
もはやフグが話題に上ることはほとんどないけれど、ここでお蔵入りにしてしまうと
「ああ、あの時作ったフグの急須、結局公開しなかったんだよな......」
と桜が咲くたびにフラッシュバックするに違いないので、謹んでここにお披露目しておきたい。
  

麺つゆを吐くフグ

f:id:yanenouenomushi:20190422175049j:plain

「急須」のつもりで作ったのだが、最初に吐かせたのは麺つゆである。完成したのが昼飯時だったからだ。

ぶっつけ本番でうどんにかけるのはちょっと不安。ということで試しにコップに注いでみたところ、出てきた麺つゆからあからさまな悪臭がした。どうも、口の周りのニスの乾きが甘かったようだ。

中に入れた麺つゆを一旦全て捨て、1時間ほど天日でよく乾かす。まったく、毒のあるところまで再現しなくてもよいというものだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422175057j:plain

安全を確保して、いただきます。

 

www.youtube.com

f:id:yanenouenomushi:20190423152546g:plain

フグの両脇を両手でしっかりと持って、うどんの上で一気に傾ける。思い切りが悪いと麺つゆが注ぎ口を伝って下にこぼれてしまうから、勢いが大切だ。

どうだろう、この注ぎっぷり!

 

f:id:yanenouenomushi:20190422173313j:plain

ただ、ちょっとつゆの量が多かったかも。

 

ギャラリー(?)の大勢いるところに来た

うまく注げたことに気を良くして、次は急須としての本分を果たすべくお茶を淹れることに。

理想を言えば、人前に出して反応をもらいたいところである。しかし、正直に言うとこれを持って街に出るのはなんだか恥ずかしい。若干流行を外しているだけになおさらである。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422174535j:plain

代替案として思いついたのが彼ら。

うちから自転車で行けるところにある、ただただ信楽焼のタヌキがたくさん整列しているスポットだ。

以前に一度だけ訪れた時の記憶を頼りにここまできたのだが、着いてタヌキを見て、やはりここにきて正解だと思った。

それは、タヌキたちの 

 

f:id:yanenouenomushi:20190422174620j:plain

クリクリとした丸い目とか

 

f:id:yanenouenomushi:20190422174511j:plain

ツンと突き出た鼻と口が

 

f:id:yanenouenomushi:20190422174659j:plain

ちょっとこいつに似ていると思ったからだ。

「類は友を呼ぶ」の法則がまた発動してしまった。あなおそろし。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422170256j:plain

横になるとお腹の丸みが強調されて、なおさら似てる。

 

茶を吐くフグ

ギャラリーは揃った。早速茶を淹れていこう。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422170454j:plain

持参したティーパックを使う。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422173622j:plain

魔法瓶から湯を注ぐ。

余談だが、このフグ急須は発泡スチロール+石粉粘土で形を作っているため、普通の急須と比べて極めて保温性が高い。冬場なら重宝しそうだが、この日は暑かったため、ありがたくない誤算であった。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422170453j:plain

背ビレはティーパックの紐を結んでおくのにちょうど良かった。こっちは嬉しい誤算。

 

www.youtube.com

f:id:yanenouenomushi:20190423153506g:plain

ドバー!

 

f:id:yanenouenomushi:20190423151231g:plain

こちらは正面から撮影。

ドバババー!

 

f:id:yanenouenomushi:20190422172658j:plain

静止画でも一枚。なんだか美しい。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422172746j:plain

シンガポールマーライオンがもっとも有名だが、「口から水を吐く動物」は世界中で噴水のモチーフに使われている。人類は、動物が口から水を吐いているのを見ると和むのだろう。「水を吐くフグ」にみんなが夢中になったのは必然であった。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422172752j:plain

ギャラリーの視線も、心なしかこちらに向いている気がする。特に右下のタヌキなどは、非常に生き生きとした表情でこちらを凝視しているようではないか。

彼らが言葉を発することができたら、こんなことを言ったに違いない。

 

タヌキA

「わー、すごい、これってTwitterで話題になってた『水を吐くフグ』ですよね!?」

タヌキB

「かわいい!写メ(死語)ってもいいですか!?」

タヌキC

 「いかすわー」

 

f:id:yanenouenomushi:20190422173319j:plain

てなことを妄想しながら、フグが吐いたお茶を飲んだ。喉が乾いていたので美味しかった。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422174733j:plain

最後にみんなと一緒に記念撮影を。田舎の中学に一人だけやってきた外国人の転校生とクラスメートの集合写真といった雰囲気で、すごくいい味が出ている。

 

まとめ

f:id:yanenouenomushi:20190422172055j:plain

そんなこんなで、水を吐くフグの急須だった。

最初はただお披露目をするだけのつもりだったのに、ついついタヌキを登場させたり、アテレコしたりしてしまった。

動物に感情移入するとそういうことになりがちだ。

 

それにしても、生き物は面白い。

人々が珍妙な動きをする生き物に夢中になるのは、爆走するエリマキトカゲや2本足で直立するレッサーパンダに夢中になっていた頃となにも変わっていない。

走るエリマキトカゲは必死で敵から逃げているのだし、水を吐くフグも敵を威嚇するためににそうしている。どちらも、当人たちにとってはデッドオアアライブの状況なのだ。笑って見ている我々は残酷なのかもしれない。

しかし、そのようなそのような事実を踏まえても、私は、次はどんな生き物が我々を夢中にさせてくれるのだろうという期待に、胸をときめかせて待たずにはいられないのである。

 

おまけ:水吐きフグの急須の作り方

まず、百均でティーポットを買ってきます。フグの骨になる部分です。
上から粘土や発泡スチロールを貼り付けることで急須本体は見えなくなるから、どんなのを使っても構いません。
 

f:id:yanenouenomushi:20190422171325j:plain

こう言っては申し訳ないのですが、この商品は大人の手には小さく、中にはいる水の量も少なく、ティーポットとしては使いにくいのです。生活者の味方である百均に、なぜこのような実用性の低いものが売られているのでしょうか?

それは、工作の材料にするためです。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422165816j:plain

発泡スチロールを貼り付けて大まかな形を作ります。いきなり粘土を貼り付けてもいいのですが、こうすることで粘土を節約でき、軽くすることができます。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422165922j:plain

粘土を盛ってフグの形を作ります。

なんだかオタマジャクシみたいに見えますが、追い追い修正していけば良いのであまりこだわりすぎないように。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422165927j:plain

ヒレなんかの細かいパーツは、針金などを使って後付けにするとしっかり固定できます。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422170058j:plain

 アクリル絵の具で色を塗っていきます。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422170137j:plain

生き物を作る場合、目の形で印象がガラッと変わるので、とくに慎重に塗りましょう。

 

f:id:yanenouenomushi:20190422170145j:plain

表面にニスを塗ったら完成。

今回は水を吐くフグを作りましたが、めいめい好きなモチーフを選んで急須にしてみましょう。

夏休みの工作などに作ってみてね。 

 

<おわり>

 

 

 

twitter.com 

春はあやふや

f:id:yanenouenomushi:20190321191918j:plain

花粉の飛散と、冬の寒さから解放の合わせ技をくらって、このごろは始終気持ちがだらけている。5月まで待たずとも、なんとなく、無気力。

寒い時には、寒いせいで何もする気が起きないと文句を言うくせに、いざ気温が上がってみると、やはり覇気のない生活をしてしまうのだから、勝手なものだと思う。

私は冬が好きだ。狩猟ができるからだとか、食べ残しを室温で放置してもなかなか腐敗が進まないからだとか、思い当たる理由はいろいろあるのだが、何より、冬は普通に生活しているだけでもそれなりに感情に起伏が生まれるという点に因るところが大きい。

電気毛布にくるまる、温かい。毛布から出て着替える、寒い。銭湯にいって風呂に入る、温かい。夜道を自転車を漕いで帰る、寒い。

心がよく動いて、倦怠する暇がない。

その点で春は、のっぺりとしていてメリハリがない。ぼんやりしていると、何の情動にも見舞われないままあっと言う間に時間が過ぎてしまいそうになる。春には、なにか新しい行動を始めないといけないのだ。

で、とりあえず思いついた新しいことは、いつの間にかすっかり月刊化したこのブログの更新頻度を少し上げることだ。一発ネタ的な記事を書き上げたときの達成感や受け取る反響は変えがたいものだけれど、もう少し日常的なことも書くようにしていこうと思う。

 

話は変わるが、最近寺町の山月書房で買った吉村萬壱の『ボラード病』という小説が大変おもしろく、恐ろしかった。

ちょっと前に読んだ小野不由美の『残穢』も怖かったけれど、ああいう「運の悪い個人が恐ろしい目に遭う」系の怖い話はまだ、自分とは無関係な他人の話として対岸に置いて眺めることができる。『ボラード病』は、大震災以降の文脈に完全に乗っかる形で書かれているので、その不穏さには逃げ場がない。今読んでおいてよかったと思った。

 

 

 

twitter.com
 

イカのスニーカー、スニ“イカー”を作ってみた

f:id:yanenouenomushi:20190212235151j:plain

”ハト”ヒールを作った乙幡啓子さんが、今度はアヒールを作ったという記事(詳しくは、この記事の一番下に載せた参考記事を参照)を読んだ。それで、「私もなんか作ってみたい」と思ったのが1月の中旬。図書館に本を返しに行く途中、自転車を漕ぎながら、突如頭に「スニ”イカ”ー!!!」という閃きが降ってきたのが節分の少し前のことだから、だいたい2週間もの間、心の片隅で履物と動物のマッチングをしていたことになる。

スニーカーとイカ、言葉の上ではうまくかぶっている。形も、両方ともどちらかと言う と長細い形状なので、なんとか改造できそうだ。考えれば考えるほど、悪くない思いついきのように思えてきた。

 

まず確かめるべきは、先駆者の有無である

イデアが出てきた直後の興奮状態が過ぎ去ると、誰かが既に同じことをやってしまっているのではないか?という不安が湧いてきた。たしかに、「イカの形の靴を作ってみみました!てへ!」というネタは、すでに存在していてもおかしくはない。きちんと下調べしておかないと、二番煎じや、最悪パクリのそしりを受けかねないのだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20190214220433j:plain

試しに『イカ 靴』で検索してみると、主に「スプラトゥーン」のキャラクターに履かせる靴の画像が出てきたので、深夜1時に一人でガッツポーズを決めた。私の経験では、ネタから連想するワードで画像検索して、それっぽいものが出てこなければ、そのネタはブルーオーシャンかそれに近いものであることが多いのだ。

なお、念のため『タコ 靴』で検索すると、こちらは足にできたデキモノの画像で画面が肌色に染まってしまい、別の意味で面食らうことになった。

 

 スニイカーができるまで

f:id:yanenouenomushi:20190213022106j:plain

申し訳程度に完成予想図を描いてみた。

こんなラフ過ぎるラフ画でも、頭の中でイメージを固めるためには有効なのだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212192343j:plain

 そしてこれがベースになるスニーカー。

「安い」「白い」「ハイカットじゃない」を条件に探した結果、税込み1000円くらいで買えるこいつにたどり着いた。関係ないのだが、まるで塗り絵の世界から飛び出してきたみたいな白一色の靴は汚れがすごく目立ちそうで、これを普通に靴として使う人のことを思うと胸がざわついた。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212193057j:plain

さて、作業開始だ。

まずは、発泡スチロールでイカのてっぺんの尖った部分を作ってスニーカーに貼り付ける。

当初はスタイロフォームを使うつもりで、近所の画材屋に買いに行ったところ、なかなかに高価なものであることが判明した。材料にあまりお金をかけたくなかったので、スタイロフォームは諦めて、道を挟んで向かいにあったスーパーの鮮魚コーナーで発泡スチロールをもらって帰ってきた。

鮮魚コーナーの発泡スチロールの箱は、もともと魚が入っていた物なので少し生臭かった。普段なら残念な気持ちになるところだが、この場合ならより「イカらしさ」が増そうというものだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212193322j:plain

こんな感じで装着する。

話が逸れるが、筆者は先の尖った靴があまり好きではない。むしろコッペパンのように自然な、ふっくらとした丸みを帯びた靴先を愛する者であるのだが、まさかこんなド鋭角な靴先の靴を所有する日が来るとは思いもよらなかった。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212193249j:plain

目や足といったパーツを固定する位置を鉛筆で書き込んでおく。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212193609j:plain

靴底などの、イカの体にならない部分は、全部まとめて海の青色で塗ってしまう。

 

ここからの工程で活躍するのが、白いフェルトだ。イカの体を構成する各種パーツを、フェルトでひたすら作っては組み付けしていくのである。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212194102j:plain

まずは脚だ。触腕(全部で10本あるイカの脚の中でも、特別に長い2本の触手のこと)以外の脚をフェルトで作る。全部で8つも作らないといけないので大変だ!なので、同じ形に切った2枚のフェルトで針金をサンドするだけの簡単な構造に。針金を中に仕込んでおくことで、脚を自然な形にしならせることができるのだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212193959j:plain

出来上がった脚は、しっかりと位置を決めてボンドで固定する。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212194335j:plain

 脚を固定するボンドが固まったら、脚の付け根を覆うようにして頭のパーツを取り付けた。靴紐の上にもやもやとまとわりついているのは、適度な膨らみを持たせるためにのせた脱脂綿だ。

ここまできて、「あ、これいいものができるな」と直感した。まだ半分くらいしかできていないのに、すでにイカらしさを隠しきれていない。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212194329j:plain

イカの体で一番大きな、あの輪切りにしてイカリングにするパーツは、外套膜(がいとうまく)という。そのフォルムは、まるで中国の古い水墨画に出てくる頭が異様に縦に長い仙人みたいで実に賢そうに見えるのだが、あれは頭ではない。目のついているあたりがイカの頭部で、脳もそのあたりにあるのだ。外套膜の中には消化器官なんかが詰まっているだけである。もしあの大きなスペースにぎっしり脳が詰まっていたのなら、人類は今頃イカの奴隷になっていたかもしれない。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212194356j:plain

外套膜のパーツを切り抜いて固定しているところ。大きいので、ボンドが乾くのに時間がかかる。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212194601j:plain

乾くのを待つ間に、目を作る。

手ごろなサイズのボタンに銀色のアクリル絵の具を塗り、黒い瞳を書き入れる。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212194600j:plain

直接本体に縫い付ける予定だったのだが、固くて縫えないので、まず丸く切り出したフェルトに縫い付けてからボンドで固定することに。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212194609j:plain

結果的に目の飛び出しが強調されていい感じになった。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212194708j:plain

触腕も他の脚と同じ容量で作るのだが、目立つパーツなので、ここだけは吸盤を再現してみた。めんどくさいが、こういう細部にこだわることで出来栄えに雲泥の差が生まれるのだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212194914j:plain

最後の仕上げ。あの、特徴的なヒレの装着だ。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212195044j:plain

シャキーン!

 

f:id:yanenouenomushi:20190212195043j:plain

完成!

自分で言うのもなんだけど、とても良いものが出来上がってしまった。

イカの特徴を押さえつつ、適度にデフォルメされた姿が可愛くてしかたない。興奮してあれこれ角度を変えながら写真を撮りまくった。

作品が完成したら、もっとも見栄えの良い構図を見つけるために、あれこれ向きを変えながら自分の作ったものを撮影するのは、立体作品を作る人ならみんなやっていることではないだろうか。

 

さて、右足は完成した。初めの予定では、ここから左足用のスニイカーを作るつもりだったのだが、作ってる途中から「これ、同じのをもう一個作るのはちょっと気力がもたないぞ」という感じになってきた。

最初の一つを、手探りで作っていくのは面白い。が、同じものをもう一つ作るのは単なる反復作業だ。製作にそれなりの手間がかかるだけに、どうせならちょっと違うものを作りたい。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212194952j:plain

というわけで、急遽、赤いフェルトを買い足して左足はタコにした。

8本の脚全てに吸盤を取り付けるという贅の尽くしっぷりを見てもらいたい。穴あけパンチでフェルトを切り抜いて作った吸盤を、ボンドで触手に貼り付けるという作業を160回繰り返していると、飽きてくるのやら眠いのやらで魂が塩水になって鼻の穴からこぼれ落ちそうになったが、苦労に見合うタコっぷりに仕上がったので結果オーライだ。瞳をきちんと縦長にしたところもポイントだ。

 

 お笑いコンビ、名付けて「軟体スニーカーズ」結成

f:id:yanenouenomushi:20190212234255j:plain

出来上がった二つを並べて置いてみた。第一印象として「なんだこいつら、お笑いコンビかよ」と思った。二人揃うと紅と白が揃ってなんだかおめでたいし、何より顔つきがひょうきんだからだろう。

せっかくだから、コンビ名を授けてやることにした。軟体動物でスニーカーだから、その名も、「軟体スニーカーズ」だ!

 

f:id:yanenouenomushi:20190212234317j:plain

私の妄想では、イカのスニイカーはボケ担当である。ここ一番の持ちネタは、網の上に横たわって「イカ焼き〜〜〜」と叫ぶ自虐的な芸。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212234333j:plain

対して、タコはツッコミ役に違いない。「焼かれてどないするねん!」などとツッコミを入れて会場を沸かせるのだ。時には相方に墨をぶっかけるなど、体を張った容赦ないツッコミもお手の物だ。

しかし、筆者は知っている。タコは、自分が「スニ“イカー”」というネタの副産物として作られたことを知っていて、内心ではそのことにコンプレックスを抱いているのだ。

このままではかわいそうなので、筆者もタコとスニーカー(もしくは靴)をかけたダジャレを考えたのだが、何も思いつかなかった。苦し紛れに、語呂が良いというだけの理由でタコさんスニーカーと呼ぶことにした。

 

さて、妄想はこのくらいにして、いよいよ彼らを履いて屋外に飛び出てみることにしよう。

 

気に入った靴ほど、履いて外に出るのが惜しくなるというジレンマ

f:id:yanenouenomushi:20190212234849j:plain

「彼らを履いて飛び出てみよう」とは言ったものの、実際はなんだか外に履いて出るのが惜しくなってしまった。完成したものが予想の頭一つ分上の出来栄えだったので、汚してしまうのが勿体無いような気がしたからだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212234615j:plain

そうは言いつつ、履いてみないわけにもいかない。日本では、靴は家の外で履くものと決まっているのだ。できるだけ汚れのつかなさそうなところで、サクッと試着することに。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212234648j:plain

足を突っ込む瞬間、タコさんスニーカーが不安な感じの変形をしたので、思わず一度足を引っ込めてしまった。普段意識していなかったけれど、靴を履くとき、履かれる靴はかなり変形しているのだ。ちょっとだけ申し訳ない気持ちになった。物を擬人化すると、大切に使ってもらえるようになるというのは、本当やったんやね......。

 

履き心地は決して良くはない

f:id:yanenouenomushi:20190212234709j:plain

ともかくも、履いてみた。ボンドで外周を固めたからだと思うが、少しきつい。ワンサイズ上にすればよかった。軟体スニーカーズ、ぜんぜん軟体じゃない...。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212234740j:plain

問題は他にもあった。足を前に出すたびに、内側に突き出た互いの触手がパサッ、パサッとぶつかり合う。まるで一歩進むごとにイカとタコがハイタッチをしているようで、歩きにくいことこの上ない。コンビ仲が良いのは素晴らしいことだとは思うのだが、少しは靴としての自分たちの立場も考えてもらいたいものである。

以上のようなことがあって、イカやタコは、履いて歩くのには全く適したデザインとは言えないことが明らかになった。歩きやすさを求めるなら、ウミウシあたりを模倣するべきだったのだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212234820j:plain

「もともと履いたときの快適性なんか全く考慮してへんかったやろ!」

すかさずタコさんスニーカーがツッコミを入れる。図星である。

「そ、そうですけど......」

返事を濁すしかない。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212234922j:plain

階段を上っているときにふと考えた。

イカやタコのように、頭から直接足が生えている生き物をまとめて頭足類という。しかしこいつらは、足が生えた頭の上に、さらに私の足を載せている。なので、既存の頭足類と区別して足頭足類と命名してやるのが適当なのではないだろうか?

なんてこった......ほんの冗談のつもりが、うっかり新しい生物のグループを生み出してしまった。おかしなものを履いて歩いていると、おかしなことが頭に浮かんでくるものである。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212195234j:plain

黒猫がいたので、怖がらせないように脱いだタコさんスニーカーを近づけてみた。ひょっとして本物だと思って噛み付いてくるのでは......でもそんなことされたら壊れちゃうなという、期待:不安=3:7くらいで見守っていたのだが、一瞥をくれただけですぐに走って逃げてしまった。

 

f:id:yanenouenomushi:20190212235439j:plain

履き心地もわかったので帰ろうとしたところに雨が降ってきたので、ひとまず屋内に退避することに。

話しかけてくる人こそいなかったものの、遠目にチラチラと見られているようでなんだか恥ずかしい。見た人が、単なる紅白の靴ではなく、イカとタコだと認識してくれたのならよかったのだが......。

 

履き心地はお世辞にも良いとは言えない。さらに、これを履いて公衆の面前を堂々と歩くには、そこそこの勇気が必要であることも実感した。しかしそんな欠点を補っても、こんなに愛着の湧くものを作ったという一点で、筆者は彼らを創造してよかったと思った。

さらに言うと、パリコレの......いや笑わずに聞いてほしい。パリコレで披露される衣装を調べて見てみてほしい。それらが実用的に見えるだろうか?自分で着て街を歩きたいと思うだろうか?(ファンの人すいません)実用性が低く、着て歩くのもちょっとなあ......というようなものがファッションの先端であるなら、軟体スニーカーズもその仲間に入れてやってもよいのではと思わずにいられないのである。

 

おまけ

f:id:yanenouenomushi:20190213001641j:plain

こんな感じにするとすごく映える。

 

 参考

この記事は、下記の乙幡啓子さんの記事に触発されて書いた。材料にフェルトを使うという発想も、これらの作品から拝借したものだ。いつものように石粉粘土を使った作品に仕上げていたら、足を入れた瞬間に粉々になってしまい、泣き崩れていたことだろう。ありがとうございました。

 

 

 

twitter.com 

 

ムササビが空を舞う舞う奈良の夜

f:id:yanenouenomushi:20181217211159j:plain

先日、怪我をしたムササビの保護活動をしておられる方から、「ムササビを見たいなら、東大寺に行くといい」ということを教えていただいた。

「いやー、ムササビは最初は野生動物らしく人を警戒するんだけれど、ある程度一緒に生活しているととても懐いてくれてね。手ずから餌をやることもできるようになるよ。それに彼らが飛ぶところときたら、まるで座布団が飛んでいるみたいな大迫力だね!」

私はある事情により、かねてからムササビに関心があった。それがそんな人里で見られるなら、見に行かないわけにはいかないではないか。しかも空飛ぶ座布団だなんて、大相撲かよ。

おりしも、時は発情期に入ったムササビが"よく飛ぶ"とされる12月、いてもたってもいられず、奈良行きの近鉄電車に乗り込んだ。

 

近鉄奈良駅から東大寺までの道のりは、シカたちの客引きがすごい 

f:id:yanenouenomushi:20181217221627j:plain

東大寺のある奈良公園近辺は、言わずと知れたシカの都である。さすがに駅の近くにはいなかったが、市街地を一歩抜けるや、歩道も広場も役所の中庭も、どこに行ってもシカ、シカ、シカ。どこに顔を向けても、常時何匹かのシカが視界に入っている。どうしてもシカを見たくない人は、上を向いて空を見るか、真下を向いてひたすら自分の足元を見るしかない。

しかも、こちらが観光客だとわかると、節操なく食べ物を無心しにやってくる。歓楽街の客引きのようである。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217222632j:plain

夜行性のムササビを観察するためには、日没まで待たなければならない。それまでの間、いわば前菜としてシカの写真を撮ったりして遊んでいたのだが、それらを紹介するだけでは本題を忘れてしまいそうだから、そもそもなぜ私がムササビに興味を持ったのかを書いていこう。

 

「自分を動物にたとえると、何だと思いますか?」

奇妙な質問だが、就職活動の場ではそれほど珍しいものではない。突拍子もない質問をすることで、相手が臨機応変に対応できるかどうか、それに加えて返答を通した自己アピールを見ているのだそうだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217221327j:plain

自分の良いところをアピールをしないといけないわけだから、例えそれが偽らざる自己評価であったとしても、

「ネコです。昼でも夜でもよく眠りますので」

などという、どう考えても社会的に負の印象を与えそうなことを言ってはいけない

それに、仮に自分の長所を説明していたとしても、なんとなく不安な印象を与える動物をチョイスするのも考えものだ。

レミングです。協調性があるので」

などというのが、悪い例である。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217221620j:plain

さて、この「自分を動物に例える」スタイルの自己アピールは、すでにそれほど突拍子のないものではない。面白おかしな質問は、迷える就活生たちの間に広まるのも早く、それだけ対策を立てられるのも早いからだ。

私が人並みに就活に励んでいた時点で、ネット上にはこの手の質問に対する模範回答のようなものがすでに存在した。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217222534j:plain

でも......でもだ。ウィットに富んだ返答をとまでは言わずとも、模範解答を少しいじったようなものでお茶を濁すのはなんだか悔しいではないか。

私の周囲にも、多かれ少なかれそう考えた人たちがいるようだった。

例えば、自分はコアラであると主張した女子大学院生がいる。

「誰も見向きもしない木に取り付いて、葉を食べてます」

自分をトラに例えた男子学生がいる。

阪神タイガースのように強く、云々」

彼は面接に落ちてしまった。トラという言葉はフーテンのイメージが強過ぎたのだ。

察しの良い読者は気がついたかもしれない。私が選んだ動物が、ムササビだった。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217222430j:plain

「余った皮を使って飛翔能力を獲得したムササビのように、他の人が見落としているものに着目し、それを使って躍進します」 

てなことを言った......ような気がする。

しかし、この理屈には、実は嘘がある。

動物に詳しい人なら知っていると思うが、ムササビは、正確に言うと「飛翔」しているのではない。あれは「滑空」しているのである。飛び立った場所よりも高いところに行くことは基本的にはできないんである。身も蓋もない言い方をすると、ゆっくり落ちているだけなんである。たぶん、滑空という言葉のもつそういったマイナスのイメージを無意識に感じ取って、飛翔という言葉が口をついて出たのだろう。

滑空を飛翔と言い換える欺瞞を看破されたのか、それとも話している私の表情が「ちょっと変わった返答でっしゃろ」と言わんばかりにニヤけていたのか、このときの面接は無事落とされてしまった。

そして、動物に例えて云々の質問をされたのは後にも先にもこのとき限りだったけれど、「ムササビねえ、一度飛ぶところを見てみたいなあ」という思いだけが心の中に残った。

 

「奈良のシカ」の衣を借りてポジティブイメージをまとうことは可能か

f:id:yanenouenomushi:20181217222823j:plain

付近に国産小麦を使った評判のパン屋があったので寄ってみた。

購入したパンをベンチに座って食べていると......。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217222704j:plain

図々しいシカが首を突っ込んできた。

シカ煎餅と人用のパンの区別もつかないのだろうか?などと呆れながら追い払った。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217223059j:plain

追い払い際に全身を見ると、腹がボコボコと膨れており、妊娠していることがわかった。

もちろん、だからといってパンはやらなかった。 

 

f:id:yanenouenomushi:20181217225824j:plain

こちらは、車道の真ん中を歩いて交通を遮断しているシカである。直後に、外国人観光客が歩道でシカ煎餅を振って見せ、シカはそちらに移動したため、事なきを得た。これなんかは、人間がやればゴネ得などと糾弾される行為である。

奈良のシカを引き合いに出して自己アピールをするなら、口八丁手八丁で節操のない利益誘導の手腕、その耐えざる営業努力(なんと、シカたちの中には、これだと思った相手にはぺこぺこと頭を下げる芸をして媚びるものまでいる)などをお上品な感じに言い換えておくのが良いだろう。

 

そんなことを考えているうちに南大門に着いた 

f:id:yanenouenomushi:20181228162103j:plain

言わずと知れた東大寺の表玄関。 

 

f:id:yanenouenomushi:20181217225746j:plain

いつ見てもその力強さに圧倒される、金剛力士像。こちらは口を開いた阿行像。 

 

f:id:yanenouenomushi:20181217225547j:plain

で、こっちが口を引き結んだ吽行像だ。

東大寺観光の初っ端の目玉である金剛力士像は、昼間でも常時ライトアップされているようだ。細部がよく観察できていいのだが、薄暗い自然光の中に立つ力士像を見てみたい気もする。

 

f:id:yanenouenomushi:20181228162108j:plain

これは天井。吹き抜け構造で非常に高く、こっちには照明が設置されていないので、奥の方は闇が濃くてよく見えない。梁の上から何かがこちらを伺っているんじゃないかという妄想が捗る。例えば、ムササビとか......。

 

ムササビの痕跡を探す

f:id:yanenouenomushi:20181217223601j:plain

境内に到達したが、日没までまだ時間がある。シカをおちょくって遊ぶのにも飽きてしまった。せっかくなのでムササビの痕跡を探して時間を潰すことにした。

写真の松の木は、ところどころに穴が開いていて、ムササビが住むのにうってつけなんじゃないかと思った。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217223655j:plain

地面を見ると、そこここに「森のエビフライ」などと呼ばれる松ぼっくりの食べかすが落ちていた。松ぼっくりを好んで食べるムササビが近くにいる証拠であり、見つけたときは大変に興奮した。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217223724j:plain

右が食べられる前、左が食べられた後の松ぼっくりだ。固い芯の部分だけを綺麗に食べ残しているのがわかる。 

 

f:id:yanenouenomushi:20181217224942j:plain

「森のエビフライ」を探すのが楽しくて地面を探索しているのだが、何も知らない人が見たら完全にシカの糞をいじくっている人である。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217225047j:plain

探したら探しただけ見つかる。ムササビのエビフライ屋さんである。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217225035j:plain

それ以外に、夏の残滓を見つけたりもした。 

 

そして、日が落ちた

f:id:yanenouenomushi:20181217225842j:plain

東大寺大仏殿の見学時間が17時で終了し、間をおかずにあたりは夕闇に包まれた。パッタリと人通りが絶え、それと同時にあれほどいたシカたちもどこかへ行ってしまった。 

 

f:id:yanenouenomushi:20181217203933j:plain

観光の時間は終わったが、私にとってはこれからが本番だ。

目星をつけておいたポイントを行きつ戻りつして、ムササビの気配をうかがう。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217204253j:plain

ドドドッと音がするので驚いて振り返ると、大きなシカが一頭、土を蹴立てて逃げていくところだった。昼間はあんなにフレンドリーだったのに、なんだか別の生き物のようで怖い。 

 

そして、ついにムササビが飛ぶ

木を見ながら、南大門を背にして歩いていたときのことだ。

突然、松の木のてっぺんから

 「キュロロロロロロロロロロロロロロロロロロ」

という、エンジンのかかりが悪いアメ車のような音がし始めた。

奇妙な生き物には奇妙な鳴き声がつき物だ......とは言わないが、そんな変な音が聞こえてきたら、そっちに注目してしまうのも無理なからぬことだ。音のする方を注視していると、松の梢の茂みがガサガサと揺れ、音がやむと同時にムササビが飛び立った。

飛び立ったムササビが、私の頭の上を越えて背後の茂みの中に消えるまでは、本当に一瞬だった。しかしその初見の一瞬は、その日一日のほかの体験を全部ひっくるめたよりも濃い印象を残して去っていった。

白くて四角くて、頭についた二つの目は街灯の光を受けてオレンジ色に光っていた。ふさふさとした長い尻尾も、しかと見届けた。私がムササビを知らない大昔の庶民で、夜中に東大寺の参道でムササビに出くわしたりしたら、間違いなくこいつは妖怪だと思っただろう。一反木綿(ゲゲゲの鬼太郎に出てくる白くてヒョロヒョロしたやつ)の元ネタは、この辺なのかもしれないと思った。

 

観察に夢中なのと、あまりに一瞬の出来事だったので、写真は撮れなかった。

見られただけでも満足なのだが、せっかくだからその姿を写真に収めて帰りたい。

そう思って未練がましくあたりの木を物色していると、今度は何の前触れもなく頭上でバババ!という音がしたかと思うと、なんと目の前の木にふさふさの塊が着地したではないか。

わざわざ人の目の前に着地するとは、サービス精神旺盛なムササビがいたものだ。しかも、私の背後にあったのはまたしても南大門。してみるとこいつ、恐れ多くも南大門の外壁をジャンプ台に利用したということか。サービス精神だけでなく大胆さも併せ持っている、なんと天晴れなムサ公なんだろう。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217204520j:plain

好意に感謝して、ありがたくカメラを向けさせていただく。

腹側の毛だけでなく尻尾の先も真っ白である。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217204813j:plain

何度もシャッターを切るけれど、

 

f:id:yanenouenomushi:20181217205501j:plain

暗いのとカメラの性能がイマイチなので

 

f:id:yanenouenomushi:20181217205637j:plain

なかなかピンとが合わない。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217211159j:plain

目と目が合った瞬間、奇跡的にピントの合った写真が撮れた。

 

f:id:yanenouenomushi:20181217205644j:plain

こっちはお尻。

 

この後、

「もう気はすんだだろう」

と言わんばかりに、ムサ公は木の高い所に登り、再度ブワッ!と飛び立つと、追いかけることのできない塀の向こうへ消えていった。

後には、ムサ公とのやり取りの余韻に陶然となった人間だけが残された。

 

f:id:yanenouenomushi:20190108040355j:plain

ムササビを追うことにすっかり夢中になっていて気づかなかったが、いつしか小雨がぱらつき始めていて、体もすっかり冷え切っていた。

こういう寒い夜には、ラーメンを食べるのが一番だ。駅の近くでみつけたラーメン屋で、さっき見たムササビのことを思い出し、思い出し、ニヤつきながらラーメンをすすって、帰宅した。好みのあっさりとしたスープで、また食べに来たいと思った。

 

 おまけ

f:id:yanenouenomushi:20181217221553j:plain

駅前の商店街でみかけたツバメの巣。

営巣位置があまりに絶妙で、この宝石点の屋号が「白井」なのか「田井」なのか「臼井」なのか、またはそれ以外なのか判別できなかった。にも関わらず巣を撤去しないところに、店主の底抜けの優しさを感じた。

 

 

 

twitter.com

大人だけどオオオニバスに乗ってみたい

f:id:yanenouenomushi:20181119021403j:plain

アマゾン原産のオオオニバスという植物がある。

水に浮かんだ葉の直径が3m以上にもなる、とても大きな蓮の仲間で、体重の軽い子供なら上に乗って水に浮かぶことができる。体重の重い大人が乗ると、オオオニバスは重さに耐えきれず、沈んでしまう。

子供の時にしか乗れない、まるでネコバスやネバーランドのような、オオオニバスとはそんな植物なのである。

 

筆者がオオオニバスの存在を知ったのは、中学生になってからだった。精神年齢的はともかく体格的には大人に近づいていたため、オオオニバスにはもう乗れなかった。

最近ふとそのことを思い出した。悔しいので、大人でも乗ることの出来るオオオニバスを自分で作ってみることにした。

 

実物を見に植物園に来てみたが...

自宅近くの植物園に実物を見に行った。

オオオニバスに乗りたいと思う読者がどのくらいいるか検討もつかない。そもそも、みんなオオオニバスを知っているのだろうか?

そんな不安が頭をよぎったから、まずは実物のオオオニバスの姿を見てもらって、「オオオニバス、乗ってみてえ!」と感じていただこうと考えたのだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021125j:plain

さあ、見てくれ!これがオオオニバスだ!

 

威勢よく紹介してみたものの、肝心のオオオニバスは発育途上のようで実に頼りなかった。葉の縁の、水面から垂直にそそり立つ部分(こいつのおかげで、少々沈んでも葉の上に水が侵入してこない)も未発達だ。

てらてらと光っていて、なんだかラーメンに浮かんだ油のようだと思った。

 なお、成長しきったオオオニバスはこんな感じの外見である。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119031407j:plain

葉が分厚い上にたらいのような形で実に頼もしい。

どうだろうか?乗ってみたくなっただろうか?

 

見よう見まねで作ってみることに

読者の共感が得られたと信じて、とりあえず作っていくことに。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021202j:plain

まずは塩ビパイプをつなげて輪っかを作る。大きさの目安は自分の身長だ。

周囲のことなどおかまいなしにフラフープ代わりに回したらさぞかし面白いだろう。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021255j:plain

10cmおきくらいに穴を開けて

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021112j:plain

円内に収まるように切った3cm厚の発泡スチロールを仕込む。こいつが浮力を生んでくれるはず。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021218j:plain

発泡スチロールが輪の中に収まったら、最初に開けた穴にひたすら糸を通して固定していく。

固定に使ったのは100均の麻紐だったのだが、穴を通す際に削れて細かい糸くずを撒き散らすので、花粉症のように鼻や目が痒くなった。ただの塩ビパイプと発泡スチロールが、俄然、植物に近づいた気がしてきた。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021254j:plain

糸を通し終わったところ。

放射状に糸を張ったのは、真ん中に乗った人間の重さが周囲の塩ビパイプに均等にかかるようにするためだ。結果的に葉脈っぽい見た目になった。

先ほどよりさらに植物に近づいたようで、気分が舞い上がる。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021340j:plain

それなのに...それなのにだ。ブルーシートを被せたら一気にただの子供用プールみたいになってしまった。

なんだろう、やはりオオオニバスは大人が乗るものではないのだろうか?さっきまでの高揚感が白昼夢のように引いていくのを感じた。

しかしながら、今から根本的な作り直しなどできない。開き直って、先に進むしかないのだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021512j:plain

アクリル絵の具で着色する。

ブルーシートが絵の具を弾いてしまうので苦労した。そういえば、蓮の葉が水を弾く原理を応用したヨーグルトの容器の蓋があったような...。とすればこれは材質的にもほぼ蓮の葉なのでは。

 

蓮の葉に近づいたと喜んだり、一転してただの子供用プールに見えてきたり、期待と絶望のジェットコースターのような乱高下にすっかり疲れてしまった。はたして、こいつに乗って浮くことは可能なのだろうか?

大きいので移動させるのも大変である

運ぶ手段をまったく考えていなかったことに気づく。車がない(そもそもあっても積めない)ので、人力で水辺まで運ぶしかない。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021604j:plain

転がしてみる。

ギャートルズとかに出てくる、ステレオタイプ石器時代の通貨のようだ。

ゴロゴロと蓮の葉を転がしながら、古代人の買い物に思いをはせる。こんなに軽いものを転がして移動するだけでも大変なのだから、やっぱりあの大きな石のお金はフィクションなのだろうと思った。(が、帰ってからググったら実在することがわかった)

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021651j:plain

担いでみる。

オオオニバスの葉から人間の下半身が生えたオオオニバス人間。マタンゴならぬ、ハスンゴだ。

 

よさそうな岸辺を発見!

f:id:yanenouenomushi:20181119021740j:plain

そんな、運び方を試行錯誤しながら歩くこと1時間超。流れが穏やかで膝ほどの深さの、都合のよさそうな岸辺を見つけた。

オオオニバスを浮かべる」という視点で探すと、見慣れた川も非常な急流に見えてしまう。だから、ベストなコンディションの場所を探すのに4kmくらい歩いてしまった。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021505j:plain

川面を覗き込むと、ミドリガメミシシッピアカミミガメ)が大きな魚の切り身をくわえて泳いでいた。そう、ここは弱肉強食のアマゾン川オオオニバスの故郷まで歩いてしまったのだ!(アマゾンにミドリガメはいない)

 

いよいよ浮かべて乗ってみる

f:id:yanenouenomushi:20181119021545j:plain

そろりそろりと水に入れていく。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021627j:plain

浮いた!しかし、着水したとたんに縁の外側の、水に接している部分の塗装がみるみる剥がれて流され始めた。偽物は、水に弱かったのだ。

現在進行形で化けの皮が剥がれていることに焦りつつも、試しに片足を乗せてみた。ブヨンとした水の感触があって、足が水面下に5cmくらい沈んだ。

「あ、無理っぽい」

直感的にそう思ったけれど、ここまで来て引き返すわけにはいかない。

両手両足を使って体重を分散させながら、上に乗ってみる。

 

 

f:id:yanenouenomushi:20181119034300g:plain

大方の予想に反して、なんと沈まないではないか!

しかしながら、半笑いで「流されてる」とか言ってる場合ではなかった。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021735j:plain

石段に引っかかって崩れた縁から水が流れ込み始めたからだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021806j:plain

水にさらされて波打ったブルーシートから、塗装がさらにボロボロと剥がれる。

もう1回、もう1回だけ!

f:id:yanenouenomushi:20181119021853j:plain

中の水を出して、縁の部分を応急修理する。

一度中に水が入ったことで、一層よれよれになってしまった。挑戦はあと1回が限界であろう。

読者は「乗れたんだからもういいじゃないか」と思うかもしれないが、違う。

上に立つのが夢なのだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119022017j:plain

そーっと、そーっと...

ダチョウクラブの人たちは、いつもこんな緊張を味わっているのだろうか。しかも、衆人環視のもとで。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119022115j:plain

まずは片足。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021830j:plain

そして両足!沈...まなかった!絶対に沈むか踏み抜くかすると思っていたのに、手作りオオオニバスの強度が私の両足を受け止めてくれたのだ!

色が剥がれてきてボロボロだけれど、紛れもなくオオオニバス(のようなもの)の上に立った瞬間である。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119021917j:plain

足元がフワフワとしていて頼りない。水の上を歩いているような、不思議な感触だ。本物のオオオニバスもこんな感じなのだろうか?

ブルーシートの下の麻紐の感触が足に伝わる。本物のオオオニバス乗った時も、葉脈の感触を足裏で感じるのだろうか?

しかし大人になってしまった今、それらを確かめる術は永遠に失われてしまっているのだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20181119022010j:plain

役目を全うして、水から引き上げられたオオオニバス

なんというか、不法投棄された粗大ゴミにしか見えない。こんなにボロボロになるまでがんばって...と、液体金属ターミネーターにボコられたシュワルツェネッガーを見たときのような気分になってしまった。ありがとう、オオオニバス

 

f:id:yanenouenomushi:20181119022048j:plain

首尾よく上に乗ることが出来たら、上で食事してみようとか考えていたのだが、そういったことを実行する前にオオオニバスはクタクタになってしまった。

 

しかしながら、作り物とはいえ「オオオニバスの上に立つ」ことが実現できたのでうれしかった。乗る直前まで「正直、これは沈むかも」と思っていたことも、上に立てた瞬間の興奮に一役買ったようである。というか、喜びの半分くらいはこの「苦労して作った物がちゃんと浮いた」ことによるものだったのかもしれない。最初から生えているオオオニバスに乗っても「わー、本当に浮いた」で済ませてしまっていただろうから、ちょっとだけ得をした気がしないでもない。

 

もしこの先

オオオニバスに乗ったことがありますか?」

と聞かれることがあったら、

「もちろんありますとも。しかも自分で作ったやつに乗ったんですよ」

と答えて相手を驚かせてみたいと思う。

 

おまけ

f:id:yanenouenomushi:20181119021952j:plain

使い終わったオオオニバスは、ビニールシートの間に水が入って重いので、分解して持ち帰ることにした。こんな感じの名画があった気がする。

 

 

 

twitter.com

低原価率な串カツの極北を探る

f:id:yanenouenomushi:20181111195152j:plain

中学のときに通っていた学習塾の社会科教師は、授業中に頻繁に面白い雑談を始めるので生徒から人気があった。中でも印象に残っているのが串カツに関するお話だ。

「昔、(大阪の)難波で串カツを買い食いしたんや。そしたら、一口かじってみて驚きや。小指の爪くらいの大きさの豚肉に、どうやったらこんなことができるんや!っていうくらい分厚い衣がついとった。極限まで原価率を下げたかったんやな」

阿漕な業者がいるものである。が、度が過ぎてお粗末なものがあると聞くと、ちょっと行って見てみたくなるのが、人間の性というものだ。

大阪で串カツを食べた回数はもはや確かめようもないけれど、私は幸いにしてそのような着膨れした串カツに当たったことはない。ひょっとしたら、そういう店は悪どいことをしすぎたせいで淘汰されてしまったのかもしれない。

しかたがないので、自分で悪徳串カツ屋になってみることにした。

  

分厚い衣をつけるには...

衣を分厚くするには、大きく分けて二通りのやりかたがある。名付けて、 アメリカンドッグ型とバームクーヘン型だ。

アメリカンドッグのような、もったりとした生地を肉にまとわせて揚げたもの。生地の粘度が高いので、分厚く衣をつけることができる。アメリカンドッグのソーセージが、普通の肉に置き換わったものと考えてよい。

調べてみたら、このタイプの串カツを提供する店は今でもぼちぼち存在するようだ。むしろ衣の厚さを売りにしている店もあるとか。もちろん、そういう店は「衣で体積を稼いだ分肉を小さくする」などというセコいまねをしていないことは言うまでもない。

  • バームクーヘン型

小さな肉に衣をつけて揚げて、つけて揚げてを何度も繰り返し、少しずつ大きく育てていくやり方。

私は、件の社会科教師が食べたのは、こちらではないかと思っている。

アメリカンドッグ型の串カツは、あまりにアメリカンドッグ的であるために、作り方について疑問を抱く余地がないからだ。

 

バームクーヘン型串カツを再現する

f:id:yanenouenomushi:20181111192538j:plain

肉を切る。

右が比較のために作る普通の串カツ用の肉、左が分厚い衣をつけるために小さく切った肉だ。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111192509j:plain

余談だが、肉に串を打つのが意外に難しかった。弾力があってなかなか串が刺さらないし、かといって力をかけすぎると、勢い余って自分の手に串を打ってしまうかもしれないからだ。

肉に串を打とうとすると、自分の手に串を打ちそうになり、肉にスパイスをまぶして揉み込むと、知らずうちに自分の手にもスパイスの香りがしみ込んでいる。料理する側とされる側は、実はそんなに違わない。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111203234j:plain

なんとかうまく串を打てた。 

 

f:id:yanenouenomushi:20181111202849j:plain

小麦粉→卵→パン粉の順番にまぶしていく。衣をまぶす段階で指先がベトベトになりがちだが、串を打ってあるのでその点は安心である。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111203907j:plain

まずは普通のサイズに切った肉から。肉がうっすらと透けて見えるほど薄い衣だ。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111210242j:plain

満を持して油に投入。

私は揚げ物を揚げる音が好きだ。まるで季節外れの蝉時雨を聞いているような気分で、楽しく調理を進めていく。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111210339j:plain

火が通ってきつね色に色づいてきた。片面だけを熱しすぎないように、たまに串の部分を持ってひっくり返してやる。菜箸を使わなくてもよいので楽である。ここでも、串の存在が調理の手間を削減してくれる。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111210306j:plain

美しいきつね色になったタイミングで引き上げた。なんて美味しそうなんだろう!

自信はついた。では、本番に移ることにしよう。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111234923j:plain

一層目は普通のカツと同じように衣をつける。

つまり小麦粉→卵→パン粉をまぶす。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111234514j:plain

小さい分、火の通りは早い。短時間でサッと揚げる。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111235317j:plain

あっという間に揚がった。それにしても小さい!

いや、小さいのは揚げる前からわかっていたのだが、右に並んだ普通のカツと比べると一層その貧相さが際立ってしまう。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111235715j:plain

この貧相なやつを、いかに大きく膨らませてやれるかが、悪徳串カツ屋の腕の見せ所だ。

ここからは小麦粉をまぶす工程を省いて、卵→パン粉→卵→パン粉と2回衣をつけてから揚げることにした。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111235857j:plain

この一つまみが串カツを大きくするかと思うと、パン粉をまぶす手にも自然と力が入る。

 

f:id:yanenouenomushi:20181112000225j:plain

人類が火を使った調理を始めてからというもの、加熱中の食材をどう操作するかというのは、ずっと大きな課題だったに違いない。

食材を焚き火の中に放り込んで、火が通ってから棒切れでかき出すのでは、手を火傷する心配はないだろうが、食材が灰や土にまみれてしまう。かといって、素手で安全に扱えるほど火から離したのでは、いつまでたっても生焼けのままだろう。

何万年とかいう長い間、彼らはそんなジレンマに苦しんでいたのだ、たぶん。

そんなある日、特別に賢いご先祖様が現れた。モズの早贄を見て思いついたのか、モノリスに触発されたのかは不明だが、彼は食材を棒に刺すことを思いついた!

今日、我々が食べる串カツは、全て彼の閃きの延長線上にあるものだ。串を持つたびに感謝せねばなるまい。

 

f:id:yanenouenomushi:20181112000542j:plain

余計なことを考えていたら少し焦げた(写真右)

 

f:id:yanenouenomushi:20181112000721j:plain

普通なら、焦げた串カツなど客には出せない。しかしこのバームクーヘン型串カツは、一番外側の層さえ綺麗に揚げれば何の問題もないのである。なんて店に優しいんだろう。

 

f:id:yanenouenomushi:20181112001622j:plain

3層目にして、遜色ない大きさに育った。立派になって...と感動もひとしおである。

 

f:id:yanenouenomushi:20181115034623g:plain

育っていく過程をGIF動画にしてみた。

左に写った串カツの大きさは変わらないのに、右の串カツだけが写真を撮るたびに大きくなっていく。まるで、子供の成長の節目節目で撮影された親子の写真を見ているようだ。

試しに、「あなたに会えて本当に良かった♫」というフレーズで有名な、生命保険会社のCMで流れる曲を聞きながら見てみてもらいたい。切ない気分になることは請け合いだ。

 

味は思ったより悪くない

f:id:yanenouenomushi:20181111195152j:plain

感傷に浸るのはほどほどにして、冷めないうちに食べてしまおう。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111195339j:plain

まずは普通の串カツから。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111201131j:plain

うん、美味しい!当たり前なのだが、すごく美味しい!

さっくりとした衣に、程よく火の通ったジューシーな肉。揚げ時間をフィーリングで決めたにしては、素晴らしい出来だ。家で作る串カツもいいもんである。

 

f:id:yanenouenomushi:20181111201324j:plain

次、真打あらわる。

ムシャリ......

 

f:id:yanenouenomushi:20181111195922j:plain

......卵? 

 

f:id:yanenouenomushi:20181111201126j:plain

「おかしいな、卵の味しかしない」

と思ったら、ぎりぎり肉まで到達できていなかった。

 

f:id:yanenouenomushi:20181112002617j:plain

もう少し食べ進めてみたところ。ようやく肉に歯が届いた。

食べてみての感想だが、肉が小さい分、やはり物足りない......と思いきや、案外これはこれで悪くない。

まず、肉の味が薄れた分を、衣に使った卵の味が補完してくれているのだ。

次に食感だが、何層にも入り乱れた衣のおかげで歯ごたえが単調になることを回避している。

 

f:id:yanenouenomushi:20181115181841j:plain

わかりやすいように、各層を色付けしてみた。

ハンバーガーでも、分厚いパティを一枚だけ挟むよりも、薄めのパティを何枚も挟んだほうが、合計の厚みは同じでも歯ごたえが複雑になって美味しく感じることがある。あれと同じことが起きているのかもしれない。

最後に、これは自宅で食べる時しかできないのだが、ソースを2度漬けしたときに普通の串カツと比べて衣がたくさんのソースを吸ってくれるのも特徴だ。衣の層と層の間の部分がスポンジとして機能してくれているからである。

もっとも、今回は市販のウスターソースをだし汁、砂糖、醤油で割ったものをつけて食べたので、そのようなソースドボドボ状態を美味しいと感じたが、普通のソースでは辛くなり過ぎてつらいだろう。

 

結論を言うと、バームクーヘン型串カツは美味しかった。でも、1本200円とか払ってこれが出てきたら、ちょっとモヤモヤしてしまうだろう。食べログに嫌味の一つも書いてやりたくなるかもしれない。 

 

実際のところ、安く仕上がっているのか?

さて、肉を小さく、衣を分厚くした串カツが、不味くはないどころかむしろ美味しいものであることはわかった。しかしながら、果たして本当に低コストに仕上がっているのか、実際に作ってみて疑問に感じたため、そこのところを最後に少しだけ検証してみたい。

まずは肉が小さくなったことによるコストカット効果だ。実は、肉には内緒で、彼らの重さをはじめに測ってあったのだ。

 

f:id:yanenouenomushi:20181112002705j:plain

普通の串カツ用の肉は約20g。

 

f:id:yanenouenomushi:20181112002759j:plain

小さい方の肉の重さは......なんとゼロ!え、無を串に刺して揚げていたの!?

奇妙な気分になったが、要するにこれは測りの仕様の問題で、0.5gより低い値は強制的にゼロと表示されてしまうんである。

0gだろうが0.5gだろうがあってないようなものであることには変わらない。

仮に100円/100g(=1円/1g)の激安豚肉を使ったとして、串カツ1本あたり20円の節約効果があることがわかった。

 

「やっぱり安くなるんだ!肉のほとんど入っていない串カツ屋をやって儲けよう!」

と考えるのは早計である。話はそこまで単純ではない。仕事の世界には人件費というものが存在するからだ。

 

では、串カツを揚げるという行為のために私が浪費した時間を見てみよう。

f:id:yanenouenomushi:20181111234632j:plain

普通の串カツを作るのにかかった時間は、3分10秒だった。

 

f:id:yanenouenomushi:20181112001455j:plain

対して、「衣をつける→揚げる」の工程を3回繰り返してバームクーヘン型串カツを完成させるまでにかかった時間は、なんと6分5秒!ほぼ倍の時間がかかっていたのだ。

 

今、大阪府の最低時給は936円である。よって、3分なら47円、6分なら94円の人件費が発生する。

まとめてみるとこうなる。

(厳密に計算するなら、肉を減らした分だけ増加する衣の原材料費を考えるべきなんだろうが、衣の材料は安く、なにより計算が面倒になるので潔く無視する)

 

  普通の串カツ バームクーヘン型串カツ
  20円     0円
人件費   47円     94円
合計   67円     94円

 

やっぱりね。作ってる時から、こんな悠長なことやってていいのかと思ってたよ。

残念ながら、肉を小さくして代わりに衣を何重にもつけるやり方は、全く低コストではないことがはっきりした。どうりで、そんなことをする店が見つからないわけだ。

 

ここで終わってもいいのだが、せっかくだから昔はどうだったのか試してみよう。1980年の大阪府の最低時給である375円で計算すると、以下のようになる(豚肉の値段は、驚くべきことにここ数十年ほぼ横ばいかむしろ下がっているくらいなのだそうだ。だから、ここでは人件費の項目だけをいじってやる)

 

  普通の串カツ バームクーヘン型串カツ
  20円     0円
人件費   19円     38円
合計   39円     38円

 

なんと、僅差でバームクーヘン型串カツのほうが安い!

そもそも肉が小さくて衣が厚い串カツ自体が教師のでっち上げだったのではと疑い始めていたのだが、一応ありえない話ではなかったのである。先生、疑ってすみません!

人を安くコキ使える状況では、このモデルは成り立ってしまう。逆に言うと、少しでも時給が上がると破綻をきたすわけで、悪徳串カツ屋は、まともな給料を払うと経営が立ち行かなくなるブラック企業の先駆けと言えるのかもしれない。

いずれにせよ、現代ではこんな回りくどいものを作る価値はほとんどないことがわかって、すっきりした気分である。

 

なんだか寓話みたいなオチになった。この記事を読んだ人は、貴重な時間をズルをするためではなく真っ当なことをするのに使ってほしい。

 

おまけ

f:id:yanenouenomushi:20181112113917j:plain

水を飲んで膨らむクサフグ

いくら自分を大きく見せようとしても、はじめから大きな相手には敵わない。

 

 

 twitter.com