2023年6月3日

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友達と一緒にマテガイをとりに行く。

参加者はデイリーライターのまこまこまこっちゃん、元寮生、ヤマカガシが好きなFさんに私を加えた4人。

まこっちゃんは私以外の二人と初対面で、私はFさんと初対面というよそよそしいメンバーだったけれど、主にまこっちゃんがモンゴルについて熱弁してくれたおかげで行きの車内では会話が弾んだ。Fさんは車を出してくれた上に、「いきもにあ」で売るために作ったというヤマカガシのクリアファイルやバッジをくれた。

この日は土曜日だったので、海岸はそれなりに混んでいた。さらに沖にいる台風の影響で風が強かった。ときたま一際強い風がビュオ!と吹くと、砂浜のそこかしこからサンダルやらビニール袋やらバケツやらが飛んでいって海にプラごみを撒き散らしていた。会話をしようにも大声を張り上げないと聞こえないので、我々は巻き上げられた砂粒が体に当たる痛みに耐えながら砂浜を掘る作業に励んだ。

マテガイはなかなか出てこなかった。マテガイのとり方というのは、砂を掘って出てきた巣穴に塩をかけ、浸透圧の変化に驚いて貝が出てきたところを引き抜くというものなのだが、そもそも巣穴がほとんど見つからない。ごく稀に掘り当てることもあったけれど、それこそ一人当たり30分に1匹もとれていなかったと思う。おかしい。前はザクザクとれるとまでは言わないにしてももう少しハイペースで捕獲できていたはずなのだ。

不幸中の幸は同行者がライターと生き物屋だったことで、彼らは過酷で報われない状況に慣れているため弱音を吐くこともなく黙々と砂掘りに精を出していた。

私は行きの車内で調子に乗って

「何年か前にきた時は2時間くらいでバケツが半分埋まるくらい採れましたよ」

などと言ってしまったため、ことのほか力を込めて天に祈るような気持ちで掘ったのだが、とくに通じた様子はなかった。

掘り疲れて周囲を見ると、私たちのいるところから10mほど離れたところにただ事ならぬ玄人オーラを放つ「貝掘り翁」とでも呼ぶべき外見の爺がいるのを見つけた。貝掘り翁は野良着に身を包み、昔話に出てくるお百姓が畑を耕すのに使うような大きな鍬を持ち、砂浜をザクザクと掘ってはマテガイをひょいひょいとつまみ上げていた。そばに置かれたザルには私たち4人がこの2時間でとった量のゆうに10倍を超える貝がうず高く積まれていた。

気分がじれてきた私は試しに翁がいる場所のすぐそばに移動して掘ってみたが、先程までとかわらず貝はほとんどとれなかった。悔しがる私の横で貝掘り翁は順調に貝の捕獲を続け、潮が満ち始めると同時に引き上げていった。

潮が満ちて干潟が水面の下に隠れてしまう頃、私たちのバケツには合わせて20匹強のマテガイやバカガイが入っていた。平等に分けて一人あたり5匹ほどである。投入された労力に交通費、翌日やってくるであろう筋肉痛の予感を考えるとなかなかトホホな数字ではあったけれど、帰ってからブロッコリーと一緒に酒蒸しにした貝たちは文句なしに美味しかったのだった。

 

 

 

2023年5月31日

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山奥にあるお茶屋で新茶とワサビ漬けを買ったところ、「これ、少し黒いところがあるけどオマケね」と言って生のワサビを一本つけてくれた。

ここの基準ではB級品なのかもしれないが、街で買えば高くつきそうな一品なので大喜びでもらって帰る。

家に帰って、さっそくその日の夕飯に使ってみることにした。

店の人に教えてもらったおすすめの食べ方は、刺身でも蕎麦でもなく、なんとほとんどねこまんまみたいな料理だった。まずご飯に海苔と鰹節をかけ、さらにその上にすり下ろしたワサビを好みの量で載せる。最後に醤油を少し垂らしたら完成だ。遠方から帰ってきて疲れていたから、こういう簡単なレシピを推奨してくれるのは心底ありがたい。これが美味しく食べるために1時間煮込まなければならないような食材だったとしたら、そのまま冷凍庫に直行していたことだろう。そして次に存在を思い出すのは数ヶ月先だったに違いない。

旅先で手に入れたグルメをその日のうちに最良の状態で正味できるのは、ほぼ擦りおろすだけで調理が完了してしかも主役を張れるだけの力をもったワサビのおかげである。そう思うと、いっそう生ワサビのありがたみが身に沁みるというものだ。

そういえば「美味しんぼ」にも似たようなレシピが出てきたなと、海苔をちぎって細かくしながら思い出した。たしか他の具を一切入れずにワサビだけを巻いた海苔巻きである。読んだ当時はこんなの鼻が痛いだけで美味しくないんじゃないのと思ったものだが、今ほぼそれと同じものを作っているわけである。「美味しんぼ」では鮫の皮を使ったおろし器できめ細かくワサビを擦りおろすことを推奨していたけれど、当然そんなものはないので普通のおろし金でゴリゴリと擦りおろす。サメには及ばないかもしれないが良い香りが出たのでよかった。

出来上がった料理はピリッとした刺激と鼻に抜ける爽やかな香りが心地よくたいへんに美味しかった。そもそも鰹節と海苔だけでも十分に美味しいのに、そこに真打ちと言うべき生ワサビが追加されるのだから成功は最初から約束されていたも同然だったのだ。

ご飯に乗せた千切り海苔が途中でなくなったので、追加の海苔を使って今度は海苔巻きみたいにして食べてみることにした。一段と前述の美味しんぼレシピに近づいたわけである。

鰹節とワサビがまぶさったご飯を海苔で巻いて食べると、はじめに味海苔が舌に着地して、それを噛み割ることで遅れてワサビの刺激が出てくる。先程までと味のパーツは同じなのに舌で感じる順番が変わるのだ。なんというか、一種の教育術のようだと思った。怒られてから褒められるのと、褒められてから怒られるのでは、同じ説教をされるのでも感じ方が変わるだろう。

もちろん「怒り」と「褒め」の順番がどうあれ説教をされるのはまったく面白くはないものだが、それとは対照的に海苔が先でもワサビが先でもワサビご飯は変わらず美味しいのだった。

2023年5月23日

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12時に大崎で石川さん、安藤さん両人と落ち合って、中華料理屋で昼食をとる。

安藤さんは最近チャーハン部というのをやっているらしく、チャーハンを頼んでいた。中華料理屋では必ずチャーハンを頼む縛りができたおかげで、迷わなくていいという。メニューを見る必要すらないのは確かに楽でいいかもしれない。

料理が運ばれてくる。安藤さんが食べ始め、石川さんがその様子をiPhoneで撮影する。間髪入れずにポーズをとり、スマホを出して撮影するその澱みのなさに驚いた。やっていることはチャーハンを食べることとそれを撮影することでしかないのだが、撮影され慣れている者と撮影し慣れている者のこれぞまさしくプロのチームワークだ。横でワンタン麺をすすりながら少し感動したのだった。

店の前には行列ができていたが、味は普通だった。オフィス街だから、昼休みはいつもこんな感じなのだろう。「ゴールドラッシュで一番儲けたのは金の採掘者ではなく採掘者相手に道具その他を売った商人」という話を思い出した。

15時から、渋谷の貸しキッチンで林さんが「砂糖水の飲み比べ」をするというのでお邪魔する。

いろいろな砂糖を水道水に溶かして作った砂糖水を飲み比べるという、ただそれだけの会である。林さんは、引退したあとは砂糖水屋として店を持ちたいらしい。条件反射的に切って捨てたくなるような話だが、実質的な砂糖水であるかき氷がブームになったことを考えると案外なくはないのかもという感じもする。この世の流行りや廃りはすべてが茶番なのである。林さんにはぜひ砂糖水屋として、たとえ一時的でもあれ成功していただいて、世の中の虚しさを人々に知らしめていただきたいものだと思う。

会場でトルーさんと石井さんに初めて会う。ほかに林さん、安藤さん、自分の計5人が参加していた。大人が5人集まって、カブトムシのように砂糖水に舌鼓を打っているかと思うと、その事実だけで腹の底からじわじわと可笑しさが込み上げてくるようで味わい深かった。

17時から、新宿の珈琲西武本店でほりべさん、とりもちさんとお茶をする。

おしぼりが使い捨てのやつではなかったのが嬉しくて、おしぼりでイカを作る芸を披露したところたいそう喜ばれる。今年の2月にベルリンでこの3人が集結したことがあったので、なんとなく会の名前をベルリン会とする。ヨーグルトパフェを頼んで、お土産交換やらドイツ旅行の顛末やらについて話しているとあっという間に時間が過ぎてしまった。

お二人はこのあと江ノ島さん、ナミノリさん、月餅さんらと合流して食事に行くそうなのだが、残念ながら私はこの日のうちに岐阜まで行かなければならないのでここでさよならすることにした。ほりべさんは月末にドイツに帰るそうなので、この次に会うのはいつになるのかわからない。

一日、デイリーポータル関連の人にばかり会っていた。東京はライター密度が高い。何か企画をするにしてもすぐに協力者を集められそうなので、羨ましいことである。

 

 

2022年5月21日

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文フリ、デザインフェス、横田基地の一般公開が同じ日にあるのでどれに行こうか悩む。

東京駅の近くで夜行バスを降りるまでどれにしようか迷っていたが、結局デザインフェスに行くことにした。

デザフェス会場は広くて人が多かった。

私は「この作家のブースは絶対行く!」という確たる目的があるわけではなかったので、端から一通り見て回ろうとしたのだけれど、途中で疲れて失神しそうになった。次回来ることがあったら、事前に興味のあるポイントを絞ってそこだけ見に行くか、せめて優先順位をつけて回ろうと思った。

出展作品はアクセサリーやファッションが多いようだった。ところどころ昆虫や生き物をモチーフにした作品もあって、見ていて面白かった。期待していたぬいぐるみや人形の出展があまりないのは少し残念だった。そういう人たちはワンフェスなどに行くのかもしれない。似たようなイベントに見えてそれぞれカラーが違うのなら、それはよいことだ。

こういうイベントに来ると、素敵なものがたくさんあるなあとは思うのだけれど、いざ買い物しようとなるとなにを買ったらわからなくなってしまう。選択肢が多すぎるというのもある。自宅が狭くて、持って帰ってから置き場所を考えないといけないという煩わしさが先に立つのも。どちらかというと後者の比重が大きい気がする。置き場所を考えなくてよい本(本棚以外に選択肢がない)や食べたらなくなる食品などはわりとよく買ってしまうのだから。

とくに買い物はしなかったけれど、創作意欲はひたすら刺激されたのだった。

会場を抜けた後は東京駅近くのロッカー(東京駅の中のロッカーは特別警戒ですべて利用停止されていた!)から荷物を回収して、練馬にある友達の友達が住んでいるシェアハウスに向かった。ツイッターで相互フォローしているけれど会うのは初めてだから楽しみにしていたのだが、シャイでかつ休日はとにかく眠たくなる人らしくほぼ布団から出てこなかった。しかたがないので布団の隙間からときおり覗く尻に向かってあいさつをした。彼はむくっと起き上がってこちらを見て何か言った後、またもとの姿勢に戻って行った。とりあえず、はじめて顔が見れたので良かったと思う。

夜は、おもにシェアハウスの別の住人(完全初対面)とカレーを作ったり、花あわせ(植物と送粉者の絵が書かれたカードゲーム。今のところ小石川植物園でだけ売られている)をして遊んだ。この家には大きな水槽があって、中で海水魚がよろよろと泳いでいた。写真は泳ぎには参加せず管のなかでうつらうつらしているゴンズイである。

 

2023年5月12日

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山奥で見た川がダイナミックでかっこよかった。以下は帰宅後の話。

 

夕飯の準備をする同居人が「ああ!」と叫ぶので行ってみると、ネズミ捕り用に仕掛けた粘着シートにヤモリが引っかかって動けなくなっていた。それも1枚のシートに3匹も。

私は一目見て「またか!」と思った。昨年の夏にもこれと同じことがあったのである。その時は自分を責めて二度と粘着シートは使うまいと誓ったのに、季節が一周して再びネズミの被害が増え始めるとつい設置してしまった。いい加減な人間の自責の念など当てにならぬものだ。しかも、去年も今年も肝心のネズミが粘着シートにかかったことは一度もないのだから目も当てられない。仕事はしないくせにいらぬことばかりして周囲に迷惑をかける大馬鹿者とは私のことだ。

不幸中の幸いでヤモリたちはみな生きているようだった。救出することにする。まず粘着シートからヤモリを剥がすのだが、この手のシートの粘着剤は非常に強力で力任せに引っ張るとヤモリを殺してしまいかねない。体と粘着剤の間に油をつけたりしながら大まかに剥がしていき、もう大丈夫だろうという頃合いで一気に引き上げる。ニチャアという音をたてて透明の糸をひきながらヤモリが剥がれた。慎重にやったのに、1匹は尻尾を自切してしまった。申し訳ない。

大変なのはここからである。ヤモリの体にベッタリとついた粘着質を取り除いてやらなければならないのだ。まず粘着質の上から植物油を塗り、小麦粉をまぶして優しくこする。油でふやけた粘着質を小麦粉がまきこんでもろもろになったところで水と洗剤を使って洗い流す。これを何度も根気よく繰り返す。

ヤモリに小麦粉をまぶすのは、なんだかヤモリのてんぷらを作ろうとしているようで妙な気分だった。冷静になって考えてみると、大の大人二人が夕飯の準備その他の仕事をほっぽり出してヤモリを一心に洗っている様子は、はたから見ると軽くホラーである。

「手も目も疲れるし時間もかかるし、こんなみじめで悲しい気分になったのはほんとに久しぶりだよ」

と言う。

「気楽に生きてるね」

と同居人が返す。しばし笑う。

手元でヤモリが

「笑ってんじゃねえぞカス」

と怒って指に噛み付く。

「ひ!」と驚いて手を離しそうになる。

ひどい罵倒だが、すべてこちらが悪いので返す言葉もない。気まずい沈黙が下りる。

別のヤモリが

「こいつらは慈愛の精神でやってるわけじゃないんだ。罪悪感を軽くしたいのさ」

と言う。

そんなことまでわかっていたのか!

さんざん恨み言を聞かされながらせこせことヤモリを洗い続ける。満足とは言えないまでも及第点をもらう仕上がりになる頃には、なんと夜の8時半を回っていた。

ずっと蛇口の前に屈んで作業していたから腰がヒリヒリと痛んだ。ヤモリたちも洗われ疲れてぐったりとしていた。このまま彼らが衰弱死して、徒労感と後味の悪さだけが残されるんじゃないかと思うと、、、そんなことになってしまったらどうすればよいだろう。

ヤモリたちは、休ませるために入れたプラケースの底でおとなしくしていた。明日放すことにする。なんとか生き延びてもらいたいものだと思う。

2023年5月8日

散歩をしに植物園に行く。

春の花盛りは過ぎていたけれど、エビネ、ウツギ、アヤメなどなどいろいろな花が咲いていて楽しい。藪漕ぎの天敵こと棘だらけのジャケツイバラが意外に可愛らしい黄色い花をつけていて驚いた。

水べでバイカモを見ていると女性が話しかけてきた。バイカモの花が咲いているかどうかが気になるらしい。バイカモは数は少ないながら花をつけていたので、水面に乗り出して指でさしながら、目がよくないという女性に丁寧に教えてやった。平日の植物園にいるもの同士、親近感も生まれようというものだ。

残念だったのはアマミアセビリュウキュウアセビの花期を逃したことだ。どちらもとても希少な植物で、かつて花の時期には山の稜線を白く染め上げるほど咲き誇ったという奄美大島のアマミアセビは70年代に乱獲で激減、沖縄本島リュウキュウアセビにいたっては野外では絶滅してしまったらしい。

足元には壺型の花が脱落したものがたくさん積もっていた。まだ白いままで茶色く変色していないものもあったから、散ったのはここ数日以内だろう。つくづく惜しいことをした。

ほかに、腹の部分が赤く透き通った謎の虫がウツギの木にたかっているのを見つけた。何かの幼虫なのは間違いないと思うけれど、なんだろう?

帰宅して、夕飯には冷凍点心を蒸して食べた。食べていて心なしか中がぬるいような気がした。同じものを以前に食べたときと比べて皮の透明感というかモチモチとした食感が足りない。というか、はっきりと粉っぽい。

「これ、ちゃんと火が通ってないんじゃない?」と本日の料理担当の同居人に聞いたが、「そう?」という気のない返事が返ってきた。

残り二つまで食べたところでようやく「これはやはり怪しい」と思い、電子レンジで蒸しなおして確かめてみることになった。怪しいと思ったのなら一つ目を食べたところでやめておけよという話なのだが、相手もさるもので、怪しいけれど気のせいのようでもあるという絶妙なところを攻めてきたため対策が後手に回ったのである。

仮に蒸しなおした点心の皮がプルンプルンになっていたら、アウト。生煮え天心を食べたかどで腹痛におびえて過ごすことになる。

濡らしたキッチンペーパーとラップでくるんで、念を入れて500Wでたっぷり5分加熱した。

今度は持てないくらい熱くなった。

火は間違いなく通ったが皮はプルプルを通り越してカチカチになってしまった。同居人は前歯が折れたらどうしようと言って心配していた。これでは前のが蒸し足りなかったのかどうかわからない。

結局、真相は闇に包まれたのだった。

※腹は痛くなりませんでした

2023年5月6日

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和歌山から来た友達が「インドカレー屋『ぴっぱら』に行きたいが、マナーがなってないと追い返されることがあるらしいので一緒に来て教えてほしい」というので、同行する。

客を追い返す店として名をはせた『ぴっぱら』は少し前まで一時閉店していたのだが、最近になって内装が少し新しくなって再オープンした。店内にあった黄色い張り紙はなくなり、代わりに壁一面に作りつけられた本棚に古書が並ぶ「カレー屋兼古書店」という世にも稀な営業形態の店として生まれ変わったのである。

再オープンの知らせを受けた私は、大喜びでさっそく食べに行った。先々月のことである。カレーは相変わらず美味しく、一人前の品数も目移りするほど多かった。値段はそれなりに上がっていたが、これについては前までが安すぎたといえるだろう。写真入りのメニューが印刷されたわかりやすい看板が店の前に設置されていたりもして、なんとなく以前より接客が丸くなったような気がしていた。

そんなわけで、てっきり客を追い返すこともなくなったのかと思っていたら、友達いわくGoogleMapのレビューにはすでに追い返された人のことが載っているらしい。

それを聞いて少し安心した。はじめて『ぴっぱら』に行ったときはそのあまりの規格外なスタイルに「なんだ、店ってこんなんでいいんだ」と目から鱗が落ちる思いがしたものだが、その珍妙なスタイルが失われてしまうとしたらやはり悲しいものだ。

こう書くと非常に複雑なシステムの店みたいに思われるかもしれないが、基本的には入店時に、店主の耳に届く声量(←重要)であいさつができれば問題ない。私は今のところ断られたことはない。

まれに、店主に「あなた誰?」と聞き返されて名を名乗ると「知らんな、帰って」などと言って追い出されることがあるらしいが、そういうときは諦めが肝心だ。

せっかく遠方から来た友達と来たのにこの「帰って」モードだったらどうしようと心配したけれど、さいわいすんなり注文までこぎつけた。友達も「うまいうまい」と言ってカレーを平らげ、ついでに文庫本を何冊か買っていた。

帰りに、路上で行き倒れているタイワンタケクマバチを2匹も見つけた。羽が焼きを入れた鉄板みたいにメタリックに輝いていてきれいだと思った。このあたりにも順調に定着してきているようである。