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富山湾の宝石、ホタルイカを掬う

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遠く、富山湾までホタルイカを獲りに行ってきた。
ホタルイカなんて漁船で沖まで出ないと獲れないものだと思っていたが、1年のうち3月~5月の産卵期に限り、条件次第で浅瀬までやってくるというのだ。気温が上がるこの時期は、いろいろな生き物が子孫を残す季節でもある。そのような浮ついた時期に、私のような生き物を捕まえようとする人間の付け入る余地ができるのだ。
 
ホタルイカがわざわざ岸までやってくるメカニズムは解明されていないけれど、経験的に
 
新月(月が見えない状態)の前後
・快晴
・海が穏やか
 
などの条件がそろうと、方向感覚を失ったホタルイカたちが大挙して浜に押し寄せるそうだ。
「月が出ていなかったので道に迷ってしまいました」なんて、軟体動物らしからざる知的な感じがするし、それになんだか詩的ではないか。しかも、こいつらは光る。こんな素敵な生き物に、会いにイカないわけにはイカない。そんなわけで、4月の新月はあいにく平日だったが、新月に遅れること2日後の4月7日に一縷の望みを託し、遠路富山へと向かった。
 
 
 
ホタルイカが接岸する場所は容易に特定できる
 
ワカサギ掬いの記事でも書いたが、生き物の捕獲場所というのは、基本的にネット上に公開されることは少ない。しかし、何にでも例外はアル。その一つがホタルイカだ。なんせホタルイカの接岸情報をリアルタイムで共有するための、ホタルイカ掲示板なんてものまであるのだ。
 
 
ホタルイカ掬いが、地元で愛されるメジャーな娯楽であることがうかがわれる。きっと富山県では
「どうです課長、一掬い行きますか?」(手をクイクイしながら)
などという仕事上がりのやり取りが日常的に交わされているに違いない。うらやましい限りだ。
富山市に到着して寿司をたべ、風呂に入り、ダラダラしながらスマホをいじっていると
 
 「四方漁港の近くの砂浜でぽつぽつわき始めました」
 
こんな書き込みが掲示板に出始めた。「富山ではイカは“わく”ものなのだな」と妙なことに感心しながら、海へと向かった。
 
 
 

 ホタルイカに対面する

 

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 浜に着くと、そこにはすでに大勢の人々が。網を持ち、腰まで水に浸かりながら取り憑かれたようにヘッドライトで海面を探索している。海に入らない人たちは、防波堤の上に陣取って長い柄のついた網を海面に突っ込みながら「そこそこ!ほらっそこにいる!」などと言っている。お祭り騒ぎとは、こういうののことを言うのだろう。我々も祭りに乗り遅れるまいと急いで準備を整え、似たような格好をして海に入る。

 

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おお!いるじゃないか!

腰の深さまで海に入った辺りで、海面に赤っぽいものが漂っているのを見つけた。無数のホタルイカがそこかしこをスイスイ泳ぎ回っている。とくに人間を警戒する様子もない。駆け寄りたい気持ちを抑えながら、波を立てないようにそっと近づき、イカの進行方向に多いかぶせるようにして網を差し伸べる。

 

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入った!見事捕獲成功だ!この瞬間のために富山まで来たのだ。達成感と、来て良かったという喜びで胸がいっぱいになる。いつも思うのだが、目当ての生き物を捕まえた瞬間の脳の興奮の度合いを可視化したら、すごいことになっているのではないだろうか。

網に入ったホタルイカは、触手をばたつかせ、キュキューという音を出しながら海水を吹きかけてくる。

 

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網から出してよく見てみようとしたところ、手のひらに噛み付いてきた。特に痛くはない。

透明感があってとてもきれいだ。

 

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 ホタルイカとツーショット。

 

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このまま口に入れてしまいたい欲求をグッと我慢した。ホタルイカには無視できない割合で旋尾線虫という寄生虫がついていて、こいつは人間に悪さをするムシなので、踊り食いはできないんである。でも、食べたらめちゃくちゃ美味しいんだろうなあ。
 

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ホタルを冠した名の通り、ホタルイカは発光する。思ったよりもはっきりと光るので驚いた。なんとも神秘的だ。

 

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最初の数匹は感動して写真など撮っていたが、やがて我を忘れてイカを追いかけることに。なんせそこら中ホタルイカだらけなのだ。集団で泳いでいるやつを一網打尽にすることもあった。

 

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気がつくと、3時間ほど海の中でホタルイカを追っていた。数えていないが、数百匹単位で捕獲したことは間違いない。時計を見る余裕ができたのは、満潮が近づくに連れて付近を泳ぐホタルイカの数がだんだん少なくなり始めたからだ。イカの群泳がずっと続いていたら、きっとあと何時間でも海の中にいただろう。ホタルイカ掬いには、それほど人を夢中にさせる魅力があるのだ。

 
 
 
食べる
 
狂乱の夜が明けた。
昨夜とは打って変わって、浜辺には人っ子一人見当たらない。砂浜に打ち上げられたたくさんのホタルイカも、ウミネコたちが朝食として食べてしまったようだ。

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そんな閑散とした浜を眺めがら、ホタルイカを茹でることに。
クーラーボックスに入れたイカを取り出すと、数時間前の生きていたときのような透明感はすでになくなってしまっている。あの美しさはとても儚いものだったようだ。

 

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寄生虫は怖いけれど、せっかくなので加熱は最小限に抑えたい。ホタルイカを水と一緒に火にかけ、沸騰する手前で引き上げることに。

 

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 市販のボイルされたものよりも、かなり大きい。店頭に並ぶものは、やはりかなりハードにボイルされているようだ。
 

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ああ、ただただ美味い。イカの肉のぷりっとした触感と、それに続いてあふれ出てくるトロッとしたワタ(内臓)の味の濃いこと。今まで食べてきたホタルイカには申し訳ないが、これはもう別格の美味さだ。

 

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ホタルイカの一部は富山の銘酒「立山」と醤油につけ込んで沖漬けにした。

 

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こいつも寄生虫対策で1週間ほど冷凍する必要があるが、完成が楽しみだ。

 

ホタルイカを掬うためにわざわざ富山まで行くなんて物好きだと思われるかもしれないが、遠出するだけの価値がある体験だと断言できる。夜の海で青白く光るイカを追いかけながら、

「水に浸かった惑星で宇宙生物を追いかけているみたいだ」

こんなことを頭では考えていた。それだけ神秘的な体験なのだ。掬って楽しく、食べて美味しく、神秘的な体験までできる、すべてが最高で、こんなに完璧な娯楽はなかなかないんじゃないだろうか。何度でも訪れたいものだと思った。