ホタルイカに対面する
浜に着くと、そこにはすでに大勢の人々が。網を持ち、腰まで水に浸かりながら取り憑かれたようにヘッドライトで海面を探索している。海に入らない人たちは、防波堤の上に陣取って長い柄のついた網を海面に突っ込みながら「そこそこ!ほらっそこにいる!」などと言っている。お祭り騒ぎとは、こういうののことを言うのだろう。我々も祭りに乗り遅れるまいと急いで準備を整え、似たような格好をして海に入る。
おお!いるじゃないか!
腰の深さまで海に入った辺りで、海面に赤っぽいものが漂っているのを見つけた。無数のホタルイカがそこかしこをスイスイ泳ぎ回っている。とくに人間を警戒する様子もない。駆け寄りたい気持ちを抑えながら、波を立てないようにそっと近づき、イカの進行方向に多いかぶせるようにして網を差し伸べる。
入った!見事捕獲成功だ!この瞬間のために富山まで来たのだ。達成感と、来て良かったという喜びで胸がいっぱいになる。いつも思うのだが、目当ての生き物を捕まえた瞬間の脳の興奮の度合いを可視化したら、すごいことになっているのではないだろうか。
網に入ったホタルイカは、触手をばたつかせ、キュキューという音を出しながら海水を吹きかけてくる。
網から出してよく見てみようとしたところ、手のひらに噛み付いてきた。特に痛くはない。
透明感があってとてもきれいだ。
ホタルイカとツーショット。
ホタルを冠した名の通り、ホタルイカは発光する。思ったよりもはっきりと光るので驚いた。なんとも神秘的だ。
最初の数匹は感動して写真など撮っていたが、やがて我を忘れてイカを追いかけることに。なんせそこら中ホタルイカだらけなのだ。集団で泳いでいるやつを一網打尽にすることもあった。
気がつくと、3時間ほど海の中でホタルイカを追っていた。数えていないが、数百匹単位で捕獲したことは間違いない。時計を見る余裕ができたのは、満潮が近づくに連れて付近を泳ぐホタルイカの数がだんだん少なくなり始めたからだ。イカの群泳がずっと続いていたら、きっとあと何時間でも海の中にいただろう。ホタルイカ掬いには、それほど人を夢中にさせる魅力があるのだ。
ああ、ただただ美味い。イカの肉のぷりっとした触感と、それに続いてあふれ出てくるトロッとしたワタ(内臓)の味の濃いこと。今まで食べてきたホタルイカには申し訳ないが、これはもう別格の美味さだ。
ホタルイカの一部は富山の銘酒「立山」と醤油につけ込んで沖漬けにした。
こいつも寄生虫対策で1週間ほど冷凍する必要があるが、完成が楽しみだ。
ホタルイカを掬うためにわざわざ富山まで行くなんて物好きだと思われるかもしれないが、遠出するだけの価値がある体験だと断言できる。夜の海で青白く光るイカを追いかけながら、
「水に浸かった惑星で宇宙生物を追いかけているみたいだ」
こんなことを頭では考えていた。それだけ神秘的な体験なのだ。掬って楽しく、食べて美味しく、神秘的な体験までできる、すべてが最高で、こんなに完璧な娯楽はなかなかないんじゃないだろうか。何度でも訪れたいものだと思った。