グミが好きだ。
甘いくせに、妙な弾力があって、口にした者の顎を疲れさせるあの迂遠な感じが好きだ。
スナック菓子などは、歯にまとわりつくタイプのものはあまり好まないのだけれど、グミであればそのネチネチとした粘着質な食感をも愛してしまえるほどだ。
以前テレビで、プリンが大好きな人の「バスタブ一杯のプリンの中にダイブしたい」という夢を実現してあげるという番組を見たことがある(その人は、大量のプリンを無駄にしてしまう決心がつかず実行直前に棄権、完成した巨大プリンは関係者全員で分け合って食べることになったようだった)。
私も、グミでできたベッドで昼寝したいとまでは言わないけれど、口いっぱいにグミを頬張ったらどうなるんだろうという、危ない疑問を抱いてきた。しかし、これはなかなか実現困難なことだ。市販のグミは、大きいものでも精々親指の先ほどの大きさのものしか見たことがなかったからである。あれは、食べた人が喉に詰まらせることを警戒した予防措置なのだろう。
しかしながら、最近自宅で桜餅を自作しているときに思いついた。巨大なグミが売っていないのなら、自分で作ってしまえばいいのだ。桜餅と同じように。
グミの作り方
調べてみると、グミを作る工程は極めて簡単であることがわかった。
思いついてから家庭でのグミの製法を知るまでにかかった時間は10秒以下、本当にいい時代だ。
グミの材料は
- ジュース(なんでも好きなものを使っていい。ここではリンゴとブドウ) 120cc
- ゼラチン 10g
- 水飴 大匙2
まず耐熱容器にジュースと粉末ゼラチンを入れ、電子レンジで加熱する。電子レンジから取り出した液に水飴を加え、アツアツのままよくかき混ぜてゼラチンを溶かす。
念のためもう一度レンジで加熱して、型に液を流し込み、冷蔵庫に入れて固まるまで待つ。
これだけである。
で、実際に作ってみた。
せっかくだから大中小の3種類を作ることにした。
一番大きなものは汁椀、真ん中がグラス(容積は汁椀の3分の1くらい)、一番小さいものはショットグラスに入れて固めた。
約3時間後、指で押してみてブニブニという弾力があるようなので、冷蔵庫から取り出した。予想以上に早く固まったので驚いた。
竹串をグミと容器の間に差し込んで、慎重にはがしてやる。なにせ大きいものだから、容器から出すときにパックリと割れてしまったらどうしようかと思っていたのだが、グミらしい粘りを見せて、無事に完全な形ででてきてくれた。こいつはゼリーではなく、れっきとしたグミなのだと実感した。
形のせいでゼリーっぽく見えるが、こいつは間違いなくグミだ!
完成したグミを食べる
堂々と居並ぶグミの三兄弟。
3つ並べてみると、大きさの違いがよくわかる。完成してから気づいたのだが、すでに中サイズでも一口で食べるのは無理である。
一番小さいやつから食べよう。こいつはたいした大きさではないので、無理せずとも一口で食べられる。
口に入れて歯を立てると、ザリュッというゼリーのような歯ごたえがあり、それからネチネチと歯にまとわりつく感じが一歩遅れてやってきた。うん、少し水分が多くてネチネチが物足りない感じもするが、これは間違いなくグミの食感だ。グミの自作に成功したのだ!
次は自作した梅シロップのグミを作ってみようとか、酒を使った大人のグミを作ってみた歯どうだろうとか、いろいろなアイデアが浮かんでくる。自作はほんとうに、いろいろな楽しみを与えてくれるのだ。
次は中サイズ。
こいつは一口では食べられない。口を大きく開けて、目一杯頬張る。
この形、めちゃくちゃ食べにくい。顎が外れなきゃいいけどと心配しながら、口を大きく開けてグミにかじりつく。ガブリ。ムチムチとしたゼラチンに分け入って行く感触が歯に伝わってくる。そうして、口はグミで満たされた。あとは咀嚼するだけである。
噛む。
余談だが、グミは柔らかい食べ物が増え子供たちの噛む力や口内の健康が損なわれることを危惧した、ドイツのハンス・リーゲル(Hans Riegel)という人が発明したらしい。彼は後に自分の名前の頭文字を入れた製菓会社を立ち上げた。かの有名なHARIBOである。
余談の間も噛む。
とにかく噛む。
噛む...。
なんだろう。口に入れた瞬間こそ、期待と喜びに満ち満ちていたのだが、噛んでいる時間が長すぎてだんだん飽きてきた。早く飲み込んでしまいたいのだが、よく噛まないうちに飲むことはそれ即ち窒息に繋がりそうで、そんなことは怖くてできない。
大変残念なことだが、口一杯にグミを頬張っても、とりあえず想像していたほどの多幸感がないことははっきりしてしまった。 口に入れてから、飲み込むまでの間がもたないのである。
これ以上大きなグミを追い詰めるようなことを書きたくないのだが、実を言うと、味や食感の点でも、小さいグミの方が勝っていた。
大きくしたことで独特のゼラチン臭がきつくなった。さらに、歯がブニッとしたグミの断面を受け止め、そこに割って入るときの感触はグミの大きな魅力だが、口を思い切り開いた状態で噛み付いても、そのような繊細な感覚はほとんど味わえないのだ。むしろ顎の筋を傷めそうですらある。
食べ物には、その魅力を最大限引き出すための、適切なサイズや形があるのだということが痛いほどわかった。
最後に一番大きいやつを食べる。
中サイズのグミを食べた今となっては、こいつの立ち位置が微妙になってしまったけれど、作った以上食べてやらなければならない。
両手で持って食べるグミ。
グミを通り過ぎた光が、口元に黄色い波を描いていて、なんだか黄金色の涎を垂らしながらものを食べているように見える。鏡餅のような扁平な形なので、先の中サイズのものよりもずっと口に入れやすいのがせめてもの救いである。
食べてみた感想は中サイズの時と変わらない。いや、なまじ大きくなったことでゼラチン臭が一層きつくなったり、そもそも糖分のとり過ぎで食欲が失せてきていたこともあり、ほんの一口二口食べただけで見るのも嫌になってしまった。
すまない巨大グミよ。せっかく作ったのに、お前の良いところを見つけて上げられなくて。
あえて言うなら
光を透かして見ると
金色に光って綺麗だったり
10年以上前に歯医者で歯形をとられて以来初めて、自分の詳細な歯形を観察できたことが、収穫と言えば収穫だろうか。
まとめ
グミは市販品のサイズが適正。