マガモ狩りの顛末

狩猟をするようになって初めて、マガモを獲ることができた。先月のことだ。

川に浮かんでいたところを空気銃でポンと撃って、絶命したところを回収した...流れとしてはそれだけだと言いたいのだが、今回は少し骨が折れた。

弾が当たっても絶命しなかったのだ。

一般的に、空気銃でカモを撃つときは頭を狙うべしと言われている。カモの体はプリプリと脂がのっている上に肉が厚いので、尻や胸に当たったくらいでは致命傷を与えることができず手負いで逃がしてしまいかねない(半矢という)。その点、頭に被弾させれば一撃で確実に仕留めることができるというのがその理由だ。

理屈ではその通りと思いつつ、私はなかなか頭を狙う気にはなれない。頭を狙うなんて残酷だ可哀想だとか、そんな理由ではない。可哀想と言うなら、中途半端に傷だけ負わせて野に放つ方がよほど後味が悪いと思う。

頭を狙いたくないのは、第一に獲物に目立つ傷をつけたくないからだ。カモ類は美しい。間近で見れば目を見張るほど、ほんとうに綺麗だ。そしてそんなにたくさんは獲れない。だから、たまに獲れた獲物の肉は食べてしまうにしても、骨格標本なり頭部や翼の剥製なりを作りたいのである。そのとき頭に穴が開いていては標本としては最初から二級品になってしまう。

次に、こっちの方がメインの理由だけれど、頭は小さいので命中させる自信がない。胴体に当たっても半矢で逃げられるかもしれないといいつつも、そもそも弾が当たらなければ元も子もないじゃないか。

 

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そんなわけで、川で見つけたマガモを興奮しながら照準器で捉えたまではいいものの、どこを狙うかなかなか決心がつかなかった。

余談だが、マガモは雌雄のペアで行動することが多い。私が出会ったマガモもその例に漏れず夫婦で川を泳いでいたのだが、私は迷わず雄の方を狙うことにした。マガモの雄は頭部に美しい緑色の毛が生えていて(なので「アオクビ」と呼ばれることもある)、ぜひ間近で見てみたかったのだ。

で、照準器の十字線をその雄のマガモの頭にやってみたり、胸に合わせてみたりしながら「半屋で逃げたら悔しいだろうなあ、でも頭に当たるかはわからないし、当たったら当たったで綺麗な顔が台無しだよなあ」などなど。1分くらいは考えていたんじゃないだろうか。マガモもよく逃げなかったものだ。散々迷った挙句、胴体の方を狙うことにした。

距離は30mくらい離れているだろうか。マガモは当然動いているとはいえ、 胴体を狙えば外すことはない。バシュッという発射音に続いて、弾丸が弾性のある塊に命中するパキョ!という音が響く。「当たった!」ひとまず安堵する。空気銃を下ろして肉眼で見ると、翼に被弾したのか水面でワタワタともがいている雄の方を気にかけながら、雌が未練がましい飛び方で逃げるところだった。

「未亡人になった雌はどうするのだろう?」持ち上がってくる余計な疑問を振り払う。そんなことを考えている暇はない。マガモは、自分が飛べなくなったことを悟るや水面を滑るように全力で川を下り始めた。急ぎ靴と靴下を脱いで川に入り、追いかける。川底の石や真冬の水温で一歩進むごとに足がジンジンと痛む。しかしそんなことは気にしていられない。ここで逃げ切られてしまっては意味がないのだ。

100mくらい追いかけただろうか。足の感覚が曖昧になってきたが、マガモとの距離はなかなか縮まらない。だんだん焦りを感じ始める。さっさと2発目を打ち込んでおけばよかったと思うのだけれど、今更肩の銃を下ろして狙うことはできない。そんなことをしている間に、マガモは遥か下流に行ってしまうだろう。

さらに50mほど追いかけたところで、ジビエの神が私の苦労を認めてくれたのか、奇跡が起こった。膝まで浸かる水の冷たさに耐えがたくなってきた時、なんとマガモの方が先に音を上げたのだ。痛みに耐えかねたのかどうかは知らないが、彼は川の脇に流木が引っかかってできた薮に身を潜め、こちらをやり過ごそうとした。それが上の写真である。きゅうっと縮こまっている姿はなんだか可愛らしいけれど、残念ながら薮に入るところを見られていた上に、真っ黄色なくちばしがどうしようもないくらい目立っている。

 

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自分から袋小路に入った彼を両手で鷲掴みにして捕まえた。「綺麗だな」という言葉が思わず口から漏れた。もっと地味な色だったら、あるいは途中で見失なってしまっていたかもしれない。

もとの川岸まで戻ってからも、嬉しさと寒さで体の震えが治らなかった。こんなに、心の底からの喜びを感じられるんだから、寒い中何時間も粘ろうが膝までずぶ濡れになろうが安いものだ。

 

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頭の緑も、羽の青もほんとうに綺麗。

 

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家に帰って羽を毟ったところ。

翼と頭部は剥製にすることにした。

 

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これは砂肝。

鴨の砂肝は体のサイズの割にめちゃくちゃ大きい。

 

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肉は鴨鍋にして食べた。薄切りにした鴨肉を鍋の中でひらひらと踊らせ、変わったところで引き上げて食べる。火を通し過ぎると硬くなるので、中心部までほんのり温かくなったところで引き上げることが大切だ。味が濃くてジューシーで、ほんとうに、今まで食べたどんな鴨肉よりも美味しかった。

苦労して捕獲したけれど、3人で鴨鍋を囲んだらあっという間になくなってしまった。鴨は正真正銘のご馳走だと思った。

 

 

 

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