漂着したアカウミガメを埋めた話

大きめの動物の死体の写真が出るので、そういうのが苦手な人は私が旅先で撮ったキュートな鬼の写真を見て引き返すように。

 

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大きなウミガメを見つける

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先日、用事があって三重県津市を訪れた。

友達と旅行に行った帰りに自分一人抜けてきた(冒頭の鬼はその旅先で撮影したものだ)こともあって、到着した時には日が傾いていたのだが、せっかくなので宿に行く前に海岸を散策してみることにした。このあたりは潮の流れの関係か漂着物も多いと聞いていたので、何かしら面白いものが拾えないかと期待したからである。

暗くなるまでの、ほんのちょっとの間だけの散策にしよう。そう思って砂浜に出たところ、5歩くらい歩いたところで大きなウミガメの死骸を見つけた。驚いた。驚いたのと同じくらい、呆れてしまった。これではあまりにもほんのちょっとすぎるというものだ。

ともかく、見つけた以上はなんとか回収して標本にしてやりたい。実のところ、ここ数年間ずっとウミガメの骨格を組み立てていたいと思っていたのである。棚からぼた餅が転げてきても、床に落ちる前に受け止められなければ、かえって悔しい思いをするだけだ。なんとか...なんとかしてこいつを運ぶ方法はないものか。暗くなり始めるまで考えたがどうにもならない。

「明日また来るから、それまでは勝手に波にさらわれて海に帰ったり、知らない人に埋められたりするんじゃないよ」

 翌日になれば同行者を連れてくることができる。それまでに無くなったりしないよう、願をかけてその日は現場を後にした。

 

運んで埋めようとしたけれど

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 翌日、用事を済ませて駆けつけたところ、ウミガメは相変わらず同じ場所に横たわっていた。波にさらわれたり、漂着した死骸を埋葬と称してそこらに埋めてしまう住民に見つかったりはしなかったわけだ。

改めて見ると、メスのアカウミガメだということがわかった。大きさからして、自分よりも年上かもしれないと思った。

若干及び腰の同行者氏とともに、浜で見つけた適当な板切れをウミガメの体の下に差し込んで動かそうとしたのだが、これが意外に重たい。大人の男二人が「せーの!」と掛け声を合わせて引っ張ってみても、一息でせいぜい20センチくらいしか移動しない。

私は、この段階においても「動くことは動くんだから、頑張れば波に流されない辺りまでは移動させられるだろう」と思っていたのだが、いち早く現実を悟ったらしい同行者氏は「海底クラブ君、これをどこまで運ぶべばいいんだい?」と聞いてきた。波打ち際からかなり内陸に移動した松林のあたりを指差した私を見て、彼は「本気で言っているのかしら?」という表情をした。そして、その顔を見て、私も「あ、これ無理かも」と思うに至った。コミュニケーションにおける表情の役割は大きい。今、回想してみるに、二人+拾ってきた板切れで自分より重たいであろうウミガメを運ぶのは、どう考えても無理だった。

 

救世主現る 

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付近の砂浜で工事をしていたおっさんにダメ元でウミガメを運ぶ手伝いをしてくれないか聞いてみたところ、なんと工事を中断してユンボで運んでくれることになった。あまりにも寛容すぎて、ありがたいを通り越して「大丈夫か、この人」と心配になった。

 

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カタカタカタとキャタピラの音を立てながらウミガメに近づいてくるユンボを見ながら、私は不思議な気分に浸っていた。もちろん、こうなることを期待して工事の人に声をかけたわけではあるが、すんなり聞き入れられて実現してみると、奇妙な現実感のない光景だった。

ユンボの運転手にしても、まさかウミガメの死骸を運ぶ日が来るとは思っていなかったに違いない。もっと言うと、アカウミガメにしてもまさか死んでからこんな目に会うとは想像だにしなかったはずだ。これが漫画なら、私も運転手もウミガメも「ひえー」と驚き呆れた声の吹き出しを頭のそばに浮かべていることだろう。

 

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機械の力はすごい。あれだけ必死になって1メートル足らずを動かしたのはなんだったのだろう?

 

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かくして、アカウミガメは安全な場所で砂に埋められ、白骨化するのを待つところになった......となれば良かったのだが話はここでは終わらない。

後日、博物館の学芸員氏に「この前、ウミガメを見つけて埋めたんですよ」と話したところ、「ウミガメの甲羅は、砂に埋めたらバラバラになって、白骨化しても組み立て直すのは難しいですよ」という、なんだよそれは先に言ってくれよと八つ当たりしたくなるような返事をいただいた。

それで、今は一旦埋めたウミガメを掘り返して、甲羅だけ引き剥がして持ち帰る算段を立てている。

 

 

 

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