京都府南部にある山城郷土資料館というところで、タケノコ掘りが体験できるという話が舞い込んできた。しかも、体験学習とかそういうのではない。繁殖力の強い竹林によって、このままでは施設が飲み込まれてしまう、それをなんとかするために、タケノコを掘って竹林の拡大を食い止めるのを助けて欲しいというのだから驚きだ。5月初旬といえばタケノコシーズンも終盤に差し掛かった頃だが、遅咲きのタケノコに望みを託して、タケノコ掘り、もとい施設維持のためのボランティアに行ってきた。
郷土資料館を目指す
最寄駅はJR奈良線の上狛駅である。
駅前の看板に趣のある手書き地図が載っていた。
こちらも味のある案内板。駅を出て住宅地を抜けるまでの、道を間違いやすいと思われるところに計3枚設置されていたのだが...
緑色の埴輪の表情が...
3つとも違うのがおもしろい。手書きの地図といい、手作り間満載でほっこりする演出だ。
最後の1枚は錆びた鎖でぐるぐる巻きにされていて若干不気味だったが、ともかくおかげ様で迷うことはなかった。
天気にも恵まれて絶好のタケノコホリデー(平日)である。
途中通り過ぎた畑にはレンゲの花が咲き乱れていて 、とても綺麗だった。
1.6km歩いて山城郷土資料館に着いた。
館の周辺には、人の背丈の倍ほどに伸びた、育ちすぎのタケノコがたくさん立っていて、不安を煽る。食べられるやつが残っているといいのだが...。
おお、書いてある書いてある!
はるばるやってきたはいいが
「もうタケノコは掘りつくされちゃいました」
とか
「タケノコ目当てのイノシシが出たので、安全のために竹林を閉鎖しました」
とか言われたらどうしようかと心配していたが、杞憂だったようだ。
受け付けでタケノコを掘りたい旨を伝えて、入館料の200円を支払い、名前と連絡先を書く。「環境整備協力事業への参加」という、小難しい名目がついている。まあ、実際にやることはタケノコ掘りなのだが。
注意事項についての説明を受ける。特に、資料館の敷地外では絶対に採取しないように厳命された。タケノコはこの地域の特産品で、フェンスの向こうはきちんと整備された商業用の竹林である。この企画の実践にあたって、周囲との折衝などで苦労があったのかもしれない。
タケノコを掘る
館の裏手に来た。右手に見えるのが、屋外展示の竪穴式住居である。
そしてその周囲には迫り来る竹林が...。たしかに、これは放っておいたらいずれ全てが竹林に飲み込まれてしまうだろう。
竪穴式住居を守るためにも、さっそくタケノコを探そう!
地面をよく観察して、土が盛り上がっているところや、タケノコの穂先が顔を出しているところがないか調べて行く。タケノコの姿が完全に地上に露出してしまったようなものは、育ちすぎであり、固くてアクも強く美味しくないとされているからだ。
ところどころにぼこぼこと穴が開いている。先人たちが、郷土資料館を竹林から守るために戦った跡だろう。
タケノコの真新しい断面が残る掘り跡もあった。まだまだ若いタケノコがあるということだ。希望が見えてきた。
そうこうするうちに、それらしい地面の盛り上がりを見つけた。期待を込めて掘り返してみたら、なんということだろう、発芽した栗だった。私のときめきを返して欲しい。(埋め戻した)
10分ほどたった。「雨後のタケノコのごとく...」なんて言葉があるくらいだから、そこら中にボコボコ生えてるもんだと、頭の片隅に甘い期待を抱いていたが、そんな幻想は打ち砕かれてしまった。最近雨も降ってなかったしな...。
掘り跡の数から推察するに、そこそこの密度で生えていた時期もあったのだろうが、私が来る以前にも環境整備の有志たちがきちんと働いていたようだ。それはそれで、素晴らしいことなのだけれど。
といって、諦めるわけにはいかない。タケノコに限らず、目当ての生き物を見つけるために大切なのは「生息地に入ったら、見つかるまで探す」ことである。目視で探すだけだったのを、持参したクワで地表の土や落葉を掻き分けて探すようにした。
すると、
お?
見つけた!
表土をどかしてやるようにすると、以外にすんなり見つかった。頭を出したり地面を盛り上げていたタケノコは、朝から掘りに来ている人たちがとってしまっていたのかもしれない。
タケノコを傷つけないように、優しく周囲を掘っていく。
だいぶ出てきた。
根元が見えてきた!
根元と土の間にクワを入れる隙間を作って、
テコの原理でいっきに地面から引き剥がす。
ゴポッ!
という音がした気がした
とれた!とれたよ!
「オギャーオギャー!」という声は出さないが、正真正銘、生まれたての竹の子を取り上げた。ずっしりと重く、鼻を近づけるとみずみずしい香りを放っているのがわかる。上から下まで綺麗に掘り出すことができて、達成感がすごい。
コツがわかると、地面に埋まったタケノコを見つけるのはそれほど難しいことではなくなった。
2本隣接して生えているのも見つけた。双子である。
まずは小柄な弟を掘り出して、
次にお兄ちゃんを掘り出そうとしたところ、
クワの勢いがあまって折ってしまった。
やっちまった...という顔である。
弟の前で兄にこんなむごい仕打ちをしてしまって、タケノコに口があったら恨み言を言われたかもしれない。折れた部分もきちんと食べるから、どうか許してほしい。
疲れたので食事休憩中。
午後も続けて彫り続ける。こんな形のいいやつや、
すごく大きいもの(左)や三つ子(右)も見つけて、掘り出した。
さすがに疲れてきた。ずっと中腰で作業する上に、土の中を縦横に走る固い竹の根を切って穴を掘らないといけないので、とても力が要るのだ。
これだけ採れば十分だろう。食べる量的にも、環境整備という点でも。
魅力はタケノコだけではない
タケノコ掘りの話がなければこの郷土資料館に来ることはなかったかもしれない。
せっかくタケノコがつないでくれた縁でもあり、また入場料も払ったことなので、展示された郷土資料たちをしっかり見学して行くことにしよう。
まずは竹林のすぐそばにある竪穴式住居。周囲の柵以外に、見たところ保護するための設備は一切なく、文字通り雨ざらしの状態である。大丈夫かしら?と思ったが、そもそも人が住むためのものなのだから、雨ざらしにしても大丈夫でなくては困る。ある意味、現物にもっとも忠実な展示といえるだろう。しかし竹林の侵攻を食い止めないと、数年内に竹で串刺しにされてしまうような気がする。
すぐ近くには、余った材料も置いてあった。
行きは気づかなかったが、本館と屋外展示をつなぐ砂利道にもタケノコの手が伸びてきていた。こんな押し固められた地面にまで生えてくるなんて、恐るべし、タケノコの繁殖力!
館内の展示も見て行くことに。
かわいらしい仏像や埴輪。
日本初の貨幣である和同開珎の失敗作なんかも展示されていた。大昔には日本の中枢に程近い地域だっただけのことはある出土である。
日本史の教科書で見た銅鐸の復元品が設置されていて、実際に音を鳴らすことができる。
写真で見るだけだと、いまいちどんな感じで使うのかわからないだけに、面白い体験だった。
お茶の名産地なので、製茶機械などの展示もあった。
以上、疲れていたので細かい説明などはすべて読み飛ばしてしまったが、山城では貴重な遺跡がたくさん出土していることや、茶の製造には大変な手間がかかることがわかった。
採ってきたタケノコを茹でる
タケノコは土から掘り出した瞬間から風味が落ち始めるので、疲れていたが帰宅してすぐに調理を始めた。
穂先の固いところを切り落として、
米の研ぎ汁に唐辛子を加えたもので2時間ほど煮込む。ボコボコボコと、面白いくらい盛大にアクが湧いてくる。
手で持てるくらいまで冷めたら、皮を剥き固そうなところを切り落とす。茹でタケノコの完成である。
すでに夜中だが、食べる
茹でて皮を剥いた時点で夜の11時をまわっていたのだが、このまま食べずに寝てしまうなんて我慢できない。タケノコは新鮮なほど美味しいのだ。
料理が出来上がる頃には午前0時を過ぎていた。以下に載せるのは、文字通り丸一日の労働の成果である。
タケノコご飯。
定番中の定番であり、絶対にはずせないメニューだ。
茹でタケノコの刺身。
剥いた皮の端っこをかじってみると、なんの味付けもしていないのに強烈な旨味があって驚いた。ありのままのタケノコの味をそのまま堪能したい!という欲望を満たすために思いついた一品。
タケノコのキンピラ。
私はキンピラが大好きなので、キンピラになりそうなものはなんでもキンピラ化する。風味を生かすために、唐辛子は入れていない。
どれもびっくりするほど美味しい。
シャクシャクとした食感も、爽やかな香りも、舌にキュッとしみてくるような味も、どれもが目が覚めるように鮮烈だ。実際、早朝からずっと動き回っていてかなり疲れているはずなのに、横になった後もタケノコの味について反芻していたらなかなか寝付けなかった。これが、掘りたてのタケノコの力なのか!
郷土資料館を助けるはずが、思わぬ素晴らしい体験をさせてもらった。なんといっても、たった200円の入館料で、タケノコ掘りから展示の見学まで存分に楽しめるのだから。
私が訪れた日にも、平日であるにもかかわらずタケノコ目当ての来場者が多数いるようだった。その中には、私のようにタケノコがなければ来館することのなかった人も含まれているはずだ。
この企画が来年も実行されるかどうかはわからないが、興味を持った人は施設維持のために人肌脱ぐことを検討されてはいかがだろうか。かくいう私も、来年もまた採りに行く気満々である。
こんなに美味しくて、人を惹きつけるタケノコが、放っておいてもあたりかまわずポコポコと生えてくる間は、山城郷土資料館も安泰であるにちがいない......(?)